本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

セミナー・レポート:12月16日開催『AIとロボットに未来はあるのか?』~AIエンジニアとロボティシスト対談の夕べ~

3回目のセミナーは再びAIを軸に、今回は「ロボット」をテーマに、TKPガーデンシティPREMIUM秋葉原カンファレンスルームにて開催した。
スピーカーには「AIサービス提供者・プログラマー・エンジニア」という立場からLINE株式会社の橋本泰一氏を、「ロボティシスト・ロボット工学者」という立場から東京藝術大学の力石武信氏をお招きし、異なる才能を持つお二方に登壇いただいた。前者は産業界でサービスを届けるエンジニア、後者はロボットで舞台芸術など社会実装を行う技術系アーティストである。

セミナーの概要とスピーカーのプロフィールなど
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/events/67056

◎会場の様子(TKPガーデンシティPREMIUM秋葉原カンファレンスルームにて)
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スマートスピーカーの普及がAIの未来をけん引する

冒頭は橋本泰一氏によるAIの歴史解説。
1956年のダートマス会議からAIという言葉が聞かれるようになり、CやFORTLANなどのプログラミング言語や数々のアルゴリズムパターン認識の技術が発達してきたことが述べられた。
これにより「コンピュータは知能を持てる」という希望がエンジニアの間で共有され、いわゆる「第一次AIブーム」が起こった。
こうしたブームは出ては消えが繰り返され、第二次AIブームでは日本がエンジニアリングを牽引するも産業的にうまくいかず、研究の主体が再び基礎研究に戻る。
データを中心にした統計学を採り入れたAIの研究が進む中、いま私たちが直面しているのが「第三次AIブーム」である。

◎産業界から生の声を伝える、LINE株式会社の橋本泰一氏
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こうしたAIの発展中に登場したのが、日本でもようやく普及を見せつつある「スマートスピーカー」である。
スマートスピーカーはキーボードやマウス、タッチパッドに代わる、音声を使った新しいユーザーインタフェースである。
いわば音声を無差別にモニタリングしているデバイスであり、プライバシーの問題や、デバイスが聞き取った音声は本当に人間のものであるのかという判別の問題も抱えている。

◎橋本氏が語るスマートスピーカーの未来
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会場からの質疑応答で、橋本氏はスマートスピーカー開発で苦労した部分として、音声認識をいかに正確に行うかという点、表記が一つで読み方が複数あるという日本語の扱いが非常に難しい点をあげた。

音声認識の精度の高さはスマートスピーカーの性能に直結するため重要な課題であるが、これは時間が解決するはずである。
また日本語の問題はこれはエンジニアリングで解決するしかない。スマートスピーカーの普及が日本で遅れた原因はここにあるが、これもまた時間が解決するだろう。

「AIにおいて機械学習ディープラーニング以外の研究はされているのか」という質問には、いろいろな取り組みがあるが対抗馬は出ていないという回答で、「AIは“知識とはなにか”を理解しているのか?」という質問には、まずは人間が「理解とはなにか」を判定する方法を持つべきだが、まだそれがなく、AIが知識を理解するにはまだほど遠い、という回答が興味深かった。

ロボットを社会実装し、「人間とはなにか」を問う
力石氏には、ロボットと芸術をテーマに話していただいた。
同氏が手がけられた、深田晃司監督のロボットが女優を演じる世界初の非SF映画『さようなら』や、ハンブルグで上演されたロボットが出演するオペラ『海、静かな海』の動画が紹介され、人間の中にロボットが投入されるコントラストで、作品を通して「人間とはなにか? を観客に問いかけている」という考え方が語られた。

◎ロボットの社会実装を語る、東京藝術大学の力石武信氏
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「人間とはなにか?」の一つの答えに、「他人を理解する心を持っているもの」があげられる。他人を理解する心とは、ストーリーを理解する心、とも言える。そこで「心とはなにか?」という疑問が出る。知的に振る舞うことと心があることは別である。AIやロボットに知的な振る舞いまではできるが、それ以上は難しい。しかし人間を、「他人を理解する心を持っているもの」であるよう「振る舞っている」生き物であると定義したらどうか。となると、ロボットにも、「心があるように振る舞わせる」という発想が生まれる。この考えのもと、力石氏はロボットの社会実装を行っている。

ロボットを動かすためにセンサーを大量に装着したり、心理学や社会学などの科学的な知識を取り入れても、人間とのコミュニケーションを思うように図ることができなかった。そこに採り入れられたのが、アートの領域である。科学的なことは説明性と再現性が高い一方で、ワクワクやかっこいい、気持ちいい、美しいといった、直感的なものが欠如している。科学的な要素にアートの要素を加えることで、人間とロボットのコミュニケーションの質が高まるのではないかという仮説のもと、科学とアートのバランスを取りながらロボットの社会実装に取り組んでいる。

シンギュラリティは人間の仕事を奪うのか?
後半の質疑応答では、本来ロボットとは人間の労働を代替する装置として定義された言葉だが、果たして、AIとロボットは人間の労働を奪うのか。2045年問題としてシンギュラリティが訪れ、人間の進化は激変するのか。これらに対するスピーカー2人の意見が語られた。

◎力石氏が手がけられた、アンドロイドとのインタラクションシステムの例
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まずはシンギュラリティについて。
力石氏は「シンギュラリティは来ない」との見解。
将棋や囲碁の対局もそうだが、人間には人間にしか持ちえない神秘性がある。
AIとロボットは神秘性を持てない。ゆえにシンギュラリティが訪れ、人間を超越するということはないだろう、という。

橋本氏は「来るとも来ないとも言えない」という見解。
いまの流れを見ていると、2020年をピークに「AIって意外とたいしたことないよね」という風潮が訪れるはずで、過去の流れからもAIはブームと衰退を繰り返している。2020年をピークに第三次AIブームが去り、2045年をピークにした次のブームが来るのかというと、それは疑問である。とはいえこの時期には、人間がいままで行ってきた進化とはまた別の方向とスピードで進化を遂げるだろう、との見方だ。

上記見解を踏まえ、AIとロボットは人間の労働を奪うのかという質問に対し、お二方とも条件付きで「それはない」という結論だった。

まず橋本氏は、AIとロボットは「人間の持つ“忙しい”の定義に変化をもたらすだけ」という見方。AIとロボットはいままで人間がやっていた行為を肩代わりするだけで、そうした変化をどの時点でどう受け入れるかが重要である。それには、企業や政府の意向をそのまま受け入れるのではなく、多くのユーザーが広く声をあげ、意見し、AIとロボットがもたらす社会変化をユーザーレベルで最適化していく必要がある。これが、橋本氏の意見である。

力石氏の見解は、経験と分析を繰り返すのはAIの得意分野であり、一方で人間には自分の手がけている行動で理論的に説明のつかないものが山ほどある。ここを磨き、価値にすることが、人間に与えられた課題である。「人間にしかやれないことをやろう」である。

「経験と分析を繰り返すのはAIの得意分野」という意味で、橋本氏は、かつてデータサイエンティストブームが訪れたときに、「AIに代替されていく職種」と予想。実際にそれが実現した。

結論を言えば、2045年にシンギュラリティが来ようが、AIとロボットが人間の労働を肩代わりしようが、「自分たちがどう生きるか」にかかっている。つまり自分たち人間の未来は自分たちが選択するものである。AIとロボットといった周囲の環境に拘束されるものではない。

最後にお二方の話を受け、「AIとロボットがもたらす未来」をテーマに、6つのチームによるグループディスカッションと発表が行われた。最後にお二方の話を受け、「AIとロボットがもたらす未来」をテーマに、6つのチームによるグループディスカッションと発表が行われた。

AIにもロボットにもない、人間ならではの価値を探る
ディスカッション最初のチームは、AIとロボットの普及は所得格差をもたらすはずである。チーム内で就職活動をしているメンバーがいるので、「どの分野に就職すべきかのアドバイスを欲しい」という発表であった。議論の内容が目下の具体的課題に直結した点は興味深かった。AIとロボットは社会の職業マップを大きく塗り替えていくので、そこにも「自分たちがどう生きるか」が問われているはず。就活生にとっては選択に苦しむ厳しい時代だが、見方を考えれば、生き方を多くの選択肢から選ぶことができる自由な時代でもある。

◎グループでのディスカッションを実施f:id:tech-dialoge:20180131180331j:plain

2番目のチームは、AIにコンテキストや意味内容を理解することは不可能なので、意志決定までは無理。「意志決定の領域は人間ならではのもの」という発表だった。AIによる将棋や囲碁のように、もしかしたらAI経営者というものが出てきて、AI経営者同士が収益を競い合う未来がくるかもしれない。

「AIとロボットは道具になるか、よき隣人になるか。そのいずれか」という明快な意見もあった。AIとロボットは道具として人造されたものだから、そのまま使わせていただくか、隣人として愛玩するか、である。自動車はこれに近いだろう。「愛車」という単語もあるぐらいで、自動車もいつしか生活に欠かせない隣人となった。自動車はAIとの融合で、将来はより隣人性が高まるはずだ。

「AIに合わせるように人間が喋るようになるだろう」という見解は、スマートスピーカーに関連する発言だった。AIから結果が返ってくると人間がそれに合わせて話し言葉を最適化する。AIに理解されやすい話し方という、AI時代のコミュニケーション術が確立されるだろう。ビジネスパーソンの間では会話術が永遠のテーマだが、今後は「AIに好かれる会話術」なるノウハウにも価値が出るかもしれない。

AIとロボットにより窓口業務が円滑になるだろう、という意見もあった。その他の受け答えを要する業務も同様である。現在でも企業では無人受付が主流になってきており(昔は小さな会社でも受付嬢がよくいた)、今後はさらに高度化したAI受付、ロボット受付嬢などが出てくるはずだ。窓口業務も数名のコンシェルジュがいるだけで、その他はAIとロボットが受け持つことになるだろう。とくに業態が激変している金融系はその導入が急速なはず。

最後のチームは、仕事とAIについて「心」という観点からまとめた。システムエンジニアやマネージャーの仕事に「心」は重要である。一方で情報を収集してAIで自動化し、業務を最適化することもできる。であれば、AIに任せられることは任せ、人間は心の要素に集中することで、仕事の価値が高まるのではないか。力石氏の発表にもあったように、人間にしかない精神面、心の領域は、AI時代、今後さらに評価されてくることは間違いない。

AIが人間に投げかけた「問い」を突き詰めて考える時代が来た
チーム発表が終わり、最後に両者からの見解が発表された。

◎最後にまとめるスピーカーの橋本氏と力石氏f:id:tech-dialoge:20180131180448j:plain

橋本氏は、AIと人間が対話できる時代になり、それにより「AIが心を持つことはできるのか」という議論にまで議論内容が進化している。その過程で「人間はなにをすべきなのか」という新しい「問い」が生まれている。その問い自体が、AI時代の人間を進化させる価値ではないか、という。
力石氏はこれを受け、人間とはなにかという定義が改めて問われ、いままで人間ならではの技能と思われていたものがそうでなくなってきた。昔は田を耕せない人は人間ではなかったし、子どもはある年齢に達するまで人間ではなかった。いま、人間を取り巻くルールやゴールが変わり続け、こうした問いがたえず下されている。人間とはなにか、心とはなにかを、さらに突き詰めて考える時代になってきている、という。

    *   *   *

サービスを提供する産業界のエキスパートと、アートと科学の融合のエキスパートの二者によるセミナーは、一見別方向ながら、両者とも「心」という抽象度の高い領域に交点を持ち、高い関心を示されていた。

「AIとロボットに未来はあるのか?」というテーマの回答としてお二人の見解を総合すると、「自分たちがどう生きるか」に尽きるのではないか。言い換えると、受け身で生きられる時代は終わった、である。

「人間を取り巻くルールやゴールが変わり続けている」という意味で、かつて「市民」という概念はなかった。フランス革命以降にこの概念が登場し、モラルを持って都市という共同体の中で協調しあいながら生きていく人間の姿が、市民として描き出された。現代人の感覚では至極当たり前だが、過去にその感覚は存在しなかったのだ。

都市の出現と同じく、AIとロボットの出現で、新しい「市民」の概念ができつつある。それが一体なんなのかはまだわからないが、一つだけはっきりと言えるのは、各人が「自分たちがどう生きるか」を持った人物像が、これからの社会を担う市民である。
「自分たちがどう生きるか」を持つには、自問自答を繰り返す必要がある。自問自答とは、言い換えれば、哲学である。これからの時代、人はますます哲学的にならざるをえない。本セミナーの場が、こうした人々の意識の変革や共有に寄与できたら幸いである。

三津田治夫

セミナー・レポート:12月11日(月)開催「現役編集者による 人に伝わるライティング入門」

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今回からテーマと参加人数を限定したセミナーを、分科会として開催することにした。その第1回目としてとり上げたのが、ライティングセミナーの2回目「人に伝わるライティング入門」である。秋葉原のビリーブロード株式会社にて開催した。 

前回と同じタイトルながら、今回はサブテーマとして「ブランディング」を設定した。対象もリーダーやマネージャーに絞って内容を更新した。その2時間の模様をお届けする。

前半はコンテンツ作りの概論と、後半はライティング概論やライティングによるブランド確立の方法を学んだ。今回はとくに質問が興味深く、またペアワークにも時間を費やした。ペアワークでは、作成した企画案や見出し案をお互いに見せ合って意見交換するという、日常で編集者が筆者たちと行っている作業を体験してもらった。

参加者からの質問の質が高く、教える側の私としても学ぶことが多かった。
とくに印象的だった質問を、以下9つ、FAQふうにまとめてみた。
ご参考になれば幸いである。

●質問①:
企画案などを作った際、他人の意見を聞き、受け入れるには勇気がいる。また、SNSでレビューアーを募るにもフォローワーがいない。どうしたらよいか?

●回答①:
ここが最もライティングやコンテンツ作りの苦しいところかもしれません。意見を言いあいやすいパートナーシップを普段から意識して作っていき、SNSなら今後の関係性を織り込んでフォローワーを少しずつ増やしていきましょう。こうしたセミナーや勉強会で知り合った仲間同士で文章修行をするのも一策です。


●質問②:
書きたいことが2つあった場合、それは1つに絞るべきか。それとも2つ書いた方がよいのか?

●回答②:
書きたいことを「書きたいテーマ」と解釈してよいのなら、それは1つに絞り込みましょう。自分で、「書きたいことが2つある」と思っていても、実はテーマは1つだった、ということもあります。第一に、自分が手がけているテーマはなんなのかを、一段上から俯瞰的に見る癖をつけてください。


●質問③:文章や文字の校閲テクニックはどうやって磨けばよいのか?

●回答③:

専門学校に行ったり、日本エディタースクールの『標準 校正必携』など書籍を使った座学もありますが、実地のトレーニングがいちばんです。Webから未編集の文章を取ってきたり、仲間から未編集の文章を受け取って校閲のトレーニングをさせてもらうのも有効です。ともかく、実地で数をこなすことです。


●質問④:今回、書くことでブランディングを行うというテーマだったが、このセミナーにおける「ブランディング」の定義を教えてもらいたい。

●回答④:

「書くことで自分の“いい部分”を“正しく”相手に伝える」を「ブランディング」と定義しています。そのためには己を知る必要があります。そこで自問自答を繰り返し、自分はなにを書きたいのかを徹底追求する、というワークを前半で行いました。その上で受け手の欲求を知り、それが正しく相手に伝わるよう、適切な書き方や適切なメディアの使い方を学んでいただきました。

適切な行動を繰り返しアウトプットすることがブランディングの基礎です。私はよく著者さんに、「ブランドを作りたいのなら、好きな服を着てはいけません。“似合う服”を着てください」とお伝えしています。


●質問⑤:「1ページに1、2カ所は見出しを入れましょう」と学んだが、この「1ページ」とは具体的になにを指すのか?

●回答⑤:

ここでは、A4版の紙1枚、ノートPCの1画面を「1ページ」としてます。ただし、これは実用的な文章を書くための基本セオリーで、小説やWebのランディングページの場合など、状況によって見出しの数や質が大きく異なってきます。


●質問⑥:自分は60代だが、文章を読んでもらいたいターゲットは20~30代。この世代に文体などを合わせて書く必要はあるのか? そうであれば、具体的にどうしたらよいのか?

●回答⑥:

光文社文庫の2006年の新訳、ドストエフスキー作『カラマーゾフの兄弟』で100万部を突破しました。ロシア文学として異例の大ベストセラーをなしとげた翻訳者の亀山郁夫さんは、外国文学者の間に流通している日本語ではなく、「読者の言葉」を持っていたゆえに、ベストセラー化を実現できた、ともいわれています。

文章の主人公は読み手なので、読み手の言葉、つまり読み手の言語空間を知り、共有することが大切です。具体的にそれをどう習得するかは、いろいろな世代や属性の人の文をたくさん読み、書き、意見を聞き、文章修行を続けることです。


●質問⑦:文章の構造とは「起承転結」が基本なのか?

●回答⑦:

「起承転結」が基本とは限りません。世阿弥が『風姿花伝』で伝えた「序破急」とういう物語の流れもありますし、実用書では「起承結」や「起結」、また小説では「起承転」というものまであります。

本来文章には明確なフォーマットがなく、さらに最近では文体が欧米化しており「情報・裏付け・主張」といった文章構造を持つものも増えてきています。今後ますますこの傾向が増えるはずです。いろいろな文章構造がありますので、まずは自分で納得のできる、自分のライティングスタイルを、書く内容に合わせて見つけていくことをおすすめします。


●質問⑧:書くモチベーションは、どうやって高めたらよいのか?

●回答⑧:

友人や仲間と共著でコンテンツを作る、編集者などのプロと組む、などの方法が考えられます。仲間でやれば励まし合ったり競い合ったりと、行動のモチベーションは高まります。プロと組めば、編集者はマラソンでいう伴奏者ですので、進行管理やリソース管理はお任せできます。一人でやる場合は徹底的にリラックスした環境の中に入り、「自分はなぜ書くのか」と、自問自答を繰り返すことです。書くモチベーションを高めるために一人で合宿することもおすすめです。


●質問⑨:好きな作家の文体に影響され、似てしまう。

●回答⑨:

これはよいことです。文章修行の一つに「写経」があります。文豪や人気作家の文章をひたすら手で書き写すのです。とくに、作家志望の方がよくされています。言い換えればこれは、一つの作品としてのスタイルを身に沁みるまで模倣する作業です。そしてここで受け取った型を、崩すのです。そこに、その人の文体が現れます。その表れが、作品としてのオリジナリティです。

一口に型を崩すと言っても並大抵のものではなく、ここでも、自問自答が重要です。自分はどんな人間で、どんなものをどう書きたいのか。自分の人生の物語は一体どんな言葉になるのだろうか。などの、人生の総ざらいからはじめる必要があります。自分の文体を持つために自己内部を掘り下げる。ここにたどり着きます。

自分がなんのために生きているのかという価値を見いだすことが、自分の文体を持つことにつながります。自分が生きていることには、必ず価値があります。そうした自問自答が上手くできていないから、日本には自殺者が多いのではないでしょうか。政治家やリーダー、メディアなどが発するネガティブワードが多いのも、日本人の自信のなさの表れです。書くために、自信を持って、自問自答を繰り返してください。

三津田治夫

本とITを研究する会、2017年の振り返り・まとめ

2017年も残すところあとわずかになりました。
仕事納めや大掃除など、師走のお忙しい時期を過ごされていると思います。
7月にコミュニティが発足して、12月でちょうど半年が経ちました。
この半年、大変お世話になりました。
無事、年を開けることができそうです。
セミナーは以下の4つを開催し、盛況に終えることができました。
それもこれも、ご参加やご支援をいただいた皆様のおかげです。
心から感謝いたします。

【12/16(土)開催】「AIとロボットに未来はあるのか? ~AIエンジニアとロボティシスト対談の夕べ」 ~第3回 本とITを研究する会セミナー~
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/events/67056

【12/11(月)開催】「現役編集者による 人に伝わるライティング入門」~第1回分科会 本とITを研究する会セミナー~
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/events/67931

【11/11(土)開催】「現役編集者による 人に伝わるライティング入門」~第2回 本とITを研究する会セミナー~
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/events/66553

【8/26(土)開催】「AI(人工知能)ビジネスの可能性を考える」~第1回 本とITを研究する会セミナー~
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/events/63538

コミュニティの発足と同時に、ブログを立ち上げました。
「IT」というテーマにあえて「本」をぶつけたのは、私たちのコミュニティの最大の特徴です。理由に興味のある方は、ブログの以下エントリーをご覧いただけたら嬉しいです。

ブログを開設しました
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/07/06/220124

もう一つ、「ITにかかわる人にこそ本を読んでもらいたい」というテーマもあります。こうしたテーマのもと、古今東西のさまざまな本をブログで紹介してきました。
古い本、見過ごされている本、難しすぎる本、接触のきっかけが少ない本を、ブログではあえて取り上げています。理由は、「ITにかかわる人には縁遠いが、これらはぜひ読んでいただきたいし、読むことによって必ず得るものがある」と確信しているからです。付け加えると「読まれないからこそ読むことを肩代わりしよう」という考えもあります。いってしまえば、大人の読み聞かせです。
ITにかかわる人に最も求められるのは、発想力と創造力です。その力を鍛え、高めるのにふさわしい著作を厳選し、価値の高い作品ばかりを紹介しました。

その他ニュースやセミナーレポート、歴史的記録など、さまざまなコンテンツをブログでは取り上げました。これらを以下にカテゴライズしてまとめました(全30本)。お休みの日やお手すきのときにでもお読みいただき、今年1年の振り返をご一緒できたら幸いです。

【読む機会は少ないが読むことできっと得する本】
AI時代に「人間の身体とは?」を問う:『知覚の現象学』(上・下)(メルロ・ポンティ著、みすず書房刊)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/09/11/215612

グローバル社会をすでに予言した古典大著:『群集の心理』(ヘルマン・ブロッホ著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/12/22/135634

ベーシックインカムは人類にユートピアをもたらすのか? 『隷属なき道 ~AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働~』(ルトガー・ブレグマン著)を読む
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/11/29/092041

古代ギリシャ人から学ぶ、民主主義の本質:『哲学の起源』(柄谷行人著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/11/21/093111

古代ギリシャから読み解くリーダー論:『国家』(上・下)(プラトン著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/07/19/125109

混迷の時代に「大衆とはなにか?」を考える:『大衆の反逆』(オルテガ・イ・ガゼット
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/10/11/221141

混迷の時代に「古典」を読む価値:『永遠平和のために』(エマニュエル・カント)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/10/04/221355

AI・人工知能に「意識」は生まれるのか? 『意識と本質』(井筒俊彦 著、岩波文庫
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/07/12/084257

ITは現代資本主義を救えるのか? 『最後の資本主義』(ロバート・ライシュ著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/07/06/222312


【脳がエクササイズされる古典書籍】
善良な農民が大犯罪者に転落する数奇な人生:『ミヒャエル・コールハースの運命』(ハインリヒ・フォン・クライスト著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/12/13/204545

情熱と実績から見る、詐欺師と英雄の境界線:『ナポレオン言行録』(オクターヴ・オブリ著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/11/05/202828

自由と奴隷制の原理から覚醒するプロセスを考える:『自由への大いなる歩み』(マーチン・ルサー・キング著、岩波新書
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/24/124932

文学作品を読み、「共感力」を高める。『白痴』『堕落論』(坂口安吾 著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/02/104143


【過去のベストセラーを現視点で読むことで思考を再定義】
努力が花開く、黄金時代のサラリーマン文学:『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/12/06/130706

現代西洋哲学の教養が楽しく身につく22年前のベストセラー:『ソフィーの世界』(ヨースタイン・ゴルデル著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/10/25/211700


【セミナーのレポート・告知】
参加者と「ストーリー」を共有するべく、コミュニティ第1回記念セミナーを開催します
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/05/123927

満員御礼にて、セミナー、無事終了しました
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/27/210214

「AI(人工知能)ビジネスの可能性を考える」セミナーレポート ~豊かな対話の場を共有~
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/30/221455

11月11日(土)に、「本とITを研究する会」第2回目セミナーの開催が決定
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/10/22/203637

セミナーレポート:「現役編集者による 人に伝わるライティング入門」(11月11日(土)開催)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/11/16/133139

12月11日(月)に、セミナー「現役編集者による 人に伝わるライティング入門」を開催します
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/11/29/143542


【歴史的記録】
オープンソース黎明期の記録①:Perlの開発者、ラリー・ウォール氏来日基調講演
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/09/21/105948

オープンソース黎明期の記録②:Perlの開発者、ラリー・ウォール氏独占インタビュー
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/09/28/120022

日本ロボティクス黎明期の記録①
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/14/091617

日本ロボティクス黎明期の記録② ~フロントエンド・プログラミングの新しい形~
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/22/122428

いまを予見する貴重な講演の記録。ノーム・チョムスキー教授が示す、人間のこれからあるべき姿 ~来日講演『資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか』に行きました~
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/17/215741


【エッセイ・随想】

AIは労働「道」を生み出す
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/07/25/084158

第3次人工知能ブームは、私たち人類に「問い」を投げかけてくれた
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/23/191913

セミナー/イベントは、共鳴と化学反応が起こる貴重な場 ~モーツアルトから得た考察~
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/09/091347

原爆投下日にあたり、ビキニ環礁被爆した大石又七さんの講演メモ
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/08/05/221155
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2017年、本当にありがとうございました。
冬らしく寒さが深まりますが、くれぐれもお体に気をつけて、ご自身にとって健康で豊かな新年が迎えられることを祈念いたします。
2018年もいろいろな活動を企画しております。
ご期待ください。
本とITを研究する会を、引き続きなにとぞ、よろしくお願いいたします。

三津田治夫

グローバル社会をすでに予言した古典大著:『群集の心理』(ヘルマン・ブロッホ著)

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『群集の心理』は80年前の作品だが、まさにいまのグローバル化社会という「未来」を予言した書物。500ページを超える大著で、行ったり来たりと、なかなか噛み応えがある文章で、非常に難解。

大づかみに結論だけを要約すると、共産主義も資本主義も双方ゴールとするものはお金であり、人間はもはやお金を生み出すための「手段」になっている。お金をゴールにしたシステムを基盤に、人間が幸福に生きられる社会は実現できるわけがない。いずれ共産主義は官僚支配の政治的腐敗が起こり崩壊し、資本主義は「安く買って高く売る」に限界が訪れるだろう、と、予言。

80年以上昔に下したブロッホの予言は、ソ連の崩壊と、リーマンショックグローバル化社会の到来で、見事に的中した。

ブロッホからしてみたら、「そんなの当たり前だろ」ぐらいに思っていたはずで、当時の多くの学者もそう考えていた。それでも、社会が動き出してしまったら、崩壊が目に見えていても突っ走ってしまうのは、非常に恐ろしい。

ダメなことがわかっていて突っ走ってしまう心理。

これが、「群集の心理」である。

その処方箋としてブロッホは、「民主主義国家も群集の心理をもっと上手にコントロールしましょう」と提言する。

ムッソリーニヒトラーファシズムを指して、「むしろファシストの方が群集の心理を上手にコントロールしているではないか」と皮肉にも分析。群集の心理を、ファシズムのように権力の保持という利己主義のために利用するのではなく、「人間のために利用しましょう」というのが、ブロッホの結論である。そのうえで、共産主義でもない資本主義でもない、「ヒューマニズムに基づいた主義、人間をゴールにした主義が必要」と、本来の社会的なありかたを唱えている。

こうした主義を具体的にどのように実現するかまでは書かれていなかったが、この考えは、カントが言う、「人間を手段にするな。人間をゴールにしろ」を、共産主義、資本主義、ファシズムと比較して、「これって人間が“手段”になっているよね」という現実を目の前にさし出し、より人間的な形で社会的問題を解決しようとしている。

この難解な大著を語り尽くすことはなかなか厳しいが、読み終えたときの恐怖感といったらなかった。いま、ピケティやトッドなど、分析的に未来を予言する学者への注目が高まっている。
動乱の時代だからこそ、こうした知性が求められるはず。
それはいまも昔も、変わらない。

むしろブロッホの時代は、戦争や革命という生命に直結する危機に日々直面した恐ろしい時代だったが、「社会の複雑さ」という意味では、いまはブロッホの時代とは比べものにならない。

社会の複雑さに大きな乖離があるとはいえ、「いかにして人間らしく生きるか」という人類共通の問題意識は、いまも昔も微塵も違いがない。

ブロッホの時代のように、先進国同士が世界大戦を行う時代ではなくなってきたが、中東やイスラエルなど各地では、戦争、テロ、内紛がいまだに続いている。

その意味で現在もまた、「形を変えた世界大戦の時代」とも言える。

そこに社会的な複雑さが加味されているから、人間の精神に与えるインパクトは大きい。大変な時代である。

人間の思考は、ブロッホの生きたような過激な時代を経て、挑戦し、勝利し、敗北し、反省し、それらを繰り返し、研ぎ澄まされ続けてきた。
その繰り返しが、いままでの人類の進化を促してきた。
そしていまの時代、かつてのような挑戦し、勝利し、敗北し、反省し、の繰り返しでは、訪れる未来の変化に耐えきれず、従来の人間の思考に限界が見えはじめてきた。

現代という高度に複雑化した過激な時代に、人はどういった進化をとげるのだろうか。
そして100年後に21世紀を振り返ったら、どんな過去が見えてくるのだろうか。

この本は、ブロッホから見た80年後の未来人の私に、そんな問題意識を投げかけてくれた。

三津田治夫

善良な農民が大犯罪者に転落する数奇な人生:『ミヒャエル・コールハースの運命』(ハインリヒ・フォン・クライスト著)

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今回な趣向を変えて、19世紀のドイツ文学を読んでみた。

妻と子供を愛する健全な農民ミヒャエル・コールハースの、数奇な人生を描いた作品。

ミヒャエル・コールハースが手塩にかけて育てた馬を連れ国を出ようとすると、国境で不当な通行税を請求される。通行税の肩代わりに馬を置き、現金を持って馬を取り返しに来ると、馬は姿を消し、無残な使役馬に使われていた。事実を探り馬を取り戻そうとミヒャエル・コールハースは妻と共に調査を続ける。交渉のために疑わしき悪徳領主のもとに乗り込んだ妻は門番からの攻撃で怪我を負い、ふとしたことから命を失ってしまう。

妻の死をきっかけに、ミヒャエル・コールハースは復讐の鬼と化す。

彼は村の農民たちを連れて、ドイツ中、悪徳領主を追跡する旅に出る。悪徳領主がかくまわれているのではないかと町々でに火をつけて回る。町では市民を扇動して軍隊を組織し、ドイツを戦火の嵐へと巻き込む。内戦の首謀者であるミヒャエル・コールハース乱暴狼藉を説得する際には大権力者であるマルチン・ルターが登場。内戦の主犯としてミヒャエル・コールハースは逮捕され、ついに彼は断頭台の露と消える。

一匹の馬がきっかけに善良な農民が戦争の鬼と化し、ドイツ中をはちゃめちゃにしてまで自分のプライドを貫徹しようとした男の、波乱以外のなにものでもない人生。歴史的な実話に基づいているという。憎悪と運命をテーマにしたドイツ文学作品というと、ロッシーニのオペラでもおなじみなシラー作『ヴィルヘルム・テル』が有名であるが、ミヒャエル・コールハースの世界に勧善懲悪はなくさらに強烈。憎悪と運命を心と必然に照射した戦いの描写がすさまじい。

運命の力に、人間の力は足下にもおよばない。運命の冷酷さを物語った見事な中編。新訳が出ると実に嬉しい。

三津田治夫

努力が花開く、黄金時代のビジネス文学:『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)

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数年前ある著者さんから、「これは面白いから」と薦められて手に入れ書棚に放置されていた本を、一気に読んでみた。結論だけ言うと非常に面白く、ビジネス小説の枠組みを超えた大作であった。

舞台は1970年代を思わせる工場。著者が唱える、ToC、つまり、「ボトルネック(制約)を味方に付ける」という生産性拡大のための理論(トヨタの「カイゼン」にかなり近い)を、とある工場長の視点で面白く書き上げている。恐らく、数名の小説家と組んで書いたのではないかという、絶妙なストーリーテリング

工場を閉鎖するぞとなかば脅迫じみた上司からの宣告に戦々恐々とする工場長や、数ヶ月の奮闘でカイゼンが達成し工場長は見事出世。同時に部下も1階級ずつ出世するという、ある意味「みんなの努力が花開く、のどかな時代のサラリーマン像」が、人間模様や会社組織との関係において鮮明に描写されている。

生産性拡大の対象がロボットやプロセスであったりと「システム」にフォーカスされ、人格や属性には目を閉じている点が興味深かった。当たり前といえば当たり前だが、仕事をしくみ化しスケールさせるためには、属人化や人格、精神論による生産性の向上などはあり得ないということである。

いまとなっては工場における生産性のカイゼンは飽和状態に達しており、近年のIndustrie4.0やIoTの登場により、他社の工場どうしで生産物や情報を共有したり、低価格でプロトタイプの生産を請け負う工場や3Dプリンタの登場など、生産のパラダイムは大きく様変わりした。そうした様変わりの差異を検証するという意味でも、この『ザ・ゴール』は読むに値する。

近所の図書館でこの本を偶然見つけたところ「英米文学」の棚に置かれていた。確かに、これは文学だ。

三津田治夫

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