本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

人と人とをつなぐ、本のチカラ

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2014年1月25日に『トランスクリティーク』(柄谷行人 著)にてはじまった読書会、11月7日をもって、のべで32回の開催となった。そして次回から8年目を迎える。
先日、その忘年会を開催した。

メンバーの増加やオフラインでの開催ができなくなるなど紆余曲折を経てきたが、この回数と年数をコンスタントに継続できたのは、まさに、本のチカラだ。

7年を経て、サークルでも同好会でもない、新しい形の集まりが、この読書会から生まれた。
とくにコロナ禍で、「新しい形の集まり」という意識が、ますます強くなった気がする。

本という「物体」と文字というインクの「記号」が、私たちメンバーという人間同士の「心」をつなげてくれた。
お金では買えない、人間の貴重なつながりだ。

本を通せば、組織や立場、年齢や性別を超え、人は腹を割って話せる。
言語の壁さえ取り除けば、人種や宗教も超えていく。
本とはそもそも、「話すチカラ」を、人から引き出す存在である。

本は、人と人とをつなぐ。

本は、素晴らしい。

三津田治夫

編集、この愛すべき仕事(前編)

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私は企業のシステムエンジニアとしての新入時代4年間を除いて、25年間編集者である。この間、本ばかりを作っていた。
起業してからも、出版プロデュースを軸に、編集の仕事を手掛けている。
なぜか知らないが、編集者になりたいという願望が強かった。
業種を変え、現在にいたっている。
本づくりのほかに、出版や編集のセミナー、勉強会もたびたび実施してきた。
そういった立場から、

「編集者ってどういうことをしている?」
「どんな1日?」
「どんな仕事?」
という質問をたびたび受けてきた。

「単なる職業ではないか。説明するほどでも……」と思った時期もあった。
しかし外部から見ると、なにをやっているのかよくわからない。
そして、なにがその仕事の価値になっているのかも見えづらい。
そして、いまのような社会の価値観が激変していく時代には、背後で編集者が動いている。
そして、こういう時代には、編集者という仕事人が必ず求められる。
そこで今回は、編集者の仕事とはなにかを紹介する。

編集者の仕事一般
編集者の仕事は大枠として、以下がある。
漫画やドラマなどでしばしば編集者が取り上げられてきたので、イメージの湧く人も少なくないだろう。

・企画立案
・企画会議
・企画発注
進捗管理
・原稿回収
・原稿編集
・発刊後プロモーション

一つ一つ見ていこう。

○企画立案
これは、いわゆる「企画書作成」である。
編集者は売れそうな企画、社会的に意義のありそうな企画を考案・調査し、企画書としてアウトプットする。
考案・調査のプロセスでは、知人のつてを頼ったり、書店やWebで調べて既存の著者さんに連絡をしたり、さまざまなアクションが発生する。アクションなしに、外部から企画が舞い込んでくる場合もある(いわゆる「持ち込み」)。
著者さんの候補が決まったら、この方と企画の方向性のすり合わせや企画の内諾をいただいたりなどの会議を行う。

○企画会議
企画は立案し、企画書にアウトプットすれば終わりというわけではない。企画書の目前には、企画会議という関所がある。ここを通らずに本は出ない。
この関所には、検察官ならぬ経営者や営業や販売管理担当など、さまざまな関係者が登場する。関係者たちが、「この企画は売れる」「売れない」と、各方面からの意見をコメントする。編集者は、この人たちとのやり取りに時間を費やす。関所を潜り抜け、版元(出版社)からのゴーサインが出ることになる。

〇企画発注
事前に約束していた著者さんに、正式に執筆を発注する。
もしくは、著者さんが未定の場合は、この時点から著者さんを探し出して発注することもある。
出版業界がいまほど不況でなかった時代は、企画会議を通す前に企画発注をし、原稿が来てから企画会議に通すようなこともしばしば行っていた(いまでは考えづらいが)。

進捗管理
著者さんの原稿が予定通りに書かれているか、編集者は進み具合を管理する。
原稿回収の前処理として、いわゆる、先生・著者さんを「山の上ホテルに缶詰め」にして締め切りまでに原稿をお書きいただく、という行為もこれに相当する。もしくは、先生・著者さんのご自宅に訪問し、書斎の隣部屋で原稿の仕上がりを他社編集者の行列に並んで待つ、という行為もこれに相当する。
原稿を待っている状況を共有したり、定期的にメールや電話でご様子を伺い、原稿の仕上がり具合を共有する。これが、進捗管理だ。
言い換えると、マラソンの伴走に等しい。
先生・著者さんに編集者が、ゴールインまでの掛け声を投げたり、水補給をしたりなどをする。

〇原稿回収
書きあがり(脱稿)が目前になれば、あとは編集者は原稿を受け取るだけだ。そこから、原稿編集の工程へと入る。

〇原稿編集
いただいた原稿は、編集チームで整理を行う。
企画内容と照らし合わせ、文字や図表の過不足や整合性の不一致を検査する。先生・著者さんも執筆が長期間に至ると、当初の企画意図やコンセプトが飛んでしまう、ということも起こりうる。
校閲者による原稿の校閲もこの段階で行う。誤字脱字から用字用語の統一、前後関係の矛盾や時代背景の誤りなどの検査を行う。
編集者は企画当初のコンセプトから外れていないか、つねに冷静である必要がある。ときには著者さんの情熱や時間的な制約に負け、企画当初のコンセプトから外れることを受け入れざるをえないことも編集者にはある。もしくは、企画当初のコンセプトが時代から外れることもある。そんなときは、迷わずに軌道修正をする。しかしそれをするか否かの判断は、結構勇気がいるし、それで失敗する場合も多いし、成功する場合も多い。
リライトも、この段階では編集サイドで行う。
編集の終わった原稿はDTPに回され、制作のプロセスへと移る。ゲラ(印刷仕上がりと近いイメージのアウトプット)を何度かプリントして検査し、印刷用のデータを作成する。

〇発刊後プロモーション
原稿編集・制作が終了すれば書籍は印刷され発刊となり、成果物は全国の書店へとお目見えになる。
そこまでに、印刷所とのやり取りや「部決」という出版社内での価格付けや初版部数の決定など営業的なやり取りがあるが、ここでは割愛する。
かつては、本は発刊したら出版社が新聞広告や外部メディアを使って責任を持って売る、が常識だった。
しかしいまは、著者さん自身が動いた方が、よく売れる。
それは、SNSの出現で顕著になった。
これをよく知った編集者は、著者さんと組んで、プロモーションを実施する。
オフラインでもプロモーションを行う。器用な著者さんはご自身でPOP(書籍のそばに飾られている葉書大の広告カード)をつくられる。これを著者さん同行で書店にお伺いし、棚ご担当の諸店員さんに挨拶をし、POPを設置していただく運びになる。
こうした地道な活動を通して、本は突如ベストセラーになったり、うんともすんとも言わなかったり、何年も地道に売れ続けて出版社を支える屋台骨になってくれたり、など、本を主役にしたドラマが生まれる。

後編に続く)

三津田治夫

12月3日(木)夜、「知活人」オンライン・ディスカッション「会社じゃ話せないコロナの本音を語り合う」を盛況にて開催

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12月3日(木)夜、「知活人」オンライン・ディスカッション「会社じゃ話せないコロナの本音を語り合う」を開催しました。
テーマを設けた初の会で、夜遅くまで、盛り上がりました。
参加いただいた方々には、心から感謝いたします。

「会社じゃ話せない」というあいまいな定義をテーマに加えましたが、この言葉の定義に各人で差があり、興味深かったです。
運営からのインプットトークからはじまり、本音のレポートや意見交換がたくさんありました。

京都のライターさんやラジオ放送局のリーダーといった、地域活動を積極的にされている生来知活人の方々や、野菜の販売と生産支援を精力的に手掛けられる方、ITエンジニア、運輸のプロ、版元書籍編集者など、全国津々浦々から、さまざまなお役目を持った方々が集まってくださり、たくさんの対話の機会をくださりました。

中でも、引きこもりやホームレスの支援をライフワークとされる方の活動と発言が、とても印象的でした。
「最近は、昨日まで会社勤務など普通に生活されていたように見える方々やそのご家族が、ホームレス支援の場に来られるようになった」というレポートは、印象的というか、もはやショックでした。
この方の発言でもう一つ印象に残ったのは、「かつては困った人がそうでない人に助けられていたが、最近は困った人が困った人を助け合っている」というもの。
以前は「困っている!」という人が他人から与えられる(ヘルプを施す)という構造でした。それがいまや、「困っているのはお互い様」のマインドで支え合っている、というのです。一つの、これからの新しい生き方が暗示されているようです。
またこのときは、「コロナ禍で、命か経済(カネ)か?」という深い問いも共有されました。
限られた時間の中、書ききれないほどの言葉がたくさん交わされました。

「困っているのはお互い様」の精神に立ち返ると、これからの生き方の中に、「思いやりの贈与」が出てくるのはほぼ明らかだと、今回の会を通して感じました。同時に、いままでとは異なった、地域通貨でもベーシックインカムでもない、新しい貨幣経済が生まれることでしょう。

「知活人」オンライン・ディスカッション、また日時やテーマが決まりましたら、ご連絡を差し上げます。

三津田治夫

若手編集者に向け、編集者育成半日研修を実施しました。

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11月27日(金)、都内某編集制作企業にて、編集者育成半日研修を実施しました。

参加者の本そのものや編集制作に対する意欲の高さには驚きました。
セミナーや勉強会で「哲学書を読むとよいです」とお勧めすると「なにがお勧めですか?」とたびたび聞かれるので、今回はカント著『プロレゴーメナ』を持参しました。
すると会場から、「読みました!」と声があがり、また驚きました。

版元縮小の昨今、編集スキルを持った人たちがこうした企業に流れこんでくる未来が見えてきました。
限られた時間でしたが、若い編集者たちともっと対話し、もっと意見を交換したかったです。そして、たくさん書いていただいたアンケートの内容にも、すべて返答したかったです。

今回のコロナ禍で、「言葉」に対しさまざまな想いが私たちに中に巡った、という状況が、この研修の場からも感じることができました。
決して楽ではない編集制作の仕事を、いかに楽しみ、仕事のクオリティを上げていくか。
出版人共通に持つ課題です。

少なくともここで出会った編集者たちには、どうか、心身ともに健康で、楽しみながら、よりよいアウトプットづくりに取り組んでいただきたいです。
そしてつねに、本に深い愛をもって!

三津田治夫

斎藤勇哉さんが書かれた『動かしながら学ぶPyTorchプログラミング入門』が発刊されます。

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11月21日(土)、順天堂大学の斎藤勇哉さんが書かれた、『動かしながら学ぶPyTorchプログラミング入門』オーム社刊)が発刊されます。
弊社株式会社ツークンフト・ワークスにて編集制作を担当させていただきました。斎藤勇哉さん、お疲れさまでした。
PythonによるMRI画像解析の実績が豊富な、斎藤勇哉さんの作品に、ぜひご期待ください。
ちなみに斎藤勇哉さん、iSO式フラッシュ速読の習得者であり、速読研究者でもあります。
本書のゲラも、iSO式フラッシュ速読を使い、高速かつていねいに著者校正を実施していただきました。
iSO式フラッシュ速読の力が、このようにITに応用できたという実績は、素晴らしいことだと感じています。また、このような貴重な仕事に私ならびに弊社が関わらせていただけたのは、編集者冥利に尽きます。
『動かしながら学ぶPyTorchプログラミング入門』はAmazonならびに全国の書店でご確認ください。そして、お買い求めいただけたら大変嬉しいです。

三津田治夫

第3回目の「知活人」オンライン・ディスカッション会、無事終了

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知と地域のプロジェクト「知活人」オンライン・ディスカッション会(第3回目)、無事終了しました。

【11/12(木)参加無料・ノンエンジニア大歓迎】知と地域のプロジェクト「知活人」オンライン・ディスカッション会

ひきこもりの仕事支援を行う方、メディアで産業の持続可能性を追求する業界誌編集者、書籍への関心が深いデータマネジメント・エンジニア、シンクタンクで地方創生と教育を手掛ける方など。
前回とはまた異なった属性の方々に加わっていただき、多様なご意見をいただきました。
参加された方々には、この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。

仕事において、家から職場に出る・出ないよりも、家にいながらマインドが外部に向かうことが重要なのではという、リモートワークの本質的な意見から、AIやロボットによるシステム化とは言い換えると「誰でもできる化」であり、その中で人間が提供できる人間ならではの価値とはなにか、それをどう評価するか、また、ベーシックインカムのことなど、90分ではまず語り切れない課題を含んだ内容へと、話題が広がりました。
仕事における人々の移動、知の移動という、いままで考えることのなかったテーマは、コロナ禍を通し、私たちに深く考えるきっかけを与えてくれました。

フリー・ディスカッションを開催するたび、いい意味で期待を裏切られます。
私たちが考えている以上に現実は複雑で広大である、ということを今回も改めて感じました。
事実は小説より奇なりです。

「知活人」(ちいきじん)の提供できるものはなにかと、メンバーとたびたび議論を繰り返してきましたが、ここでも改めて「人」と「場」であることを確認しました。
フリー・ディスカッションに参加いただく方々は毎回魅力的で、我々メンバーもうれしく、励みになります。

我々メンバーにてディスカッションの課題をまとめ、コンテンツ作りを進めつつ、次回も開催できたらと考えております。
またご報告を差し上げます。

引き続きなにとぞ、よろしくお願い申し上げます。

三津田治夫

参考図書

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「越谷技博」においてワークショップ「親子で楽しく学ぶ ITテクノロジーのきほん」を開催

11月8日(日)、監修させていただいた書籍『ゼロから理解するITテクノロジー図鑑』を題材に、「越谷技博」においてワークショップ「親子で楽しく学ぶ ITテクノロジーのきほん」を開催しました。

5歳(ゆうくん)、7歳(ひろくん)の少年二人とお父さんの参加は、騒ぎと動きが絶えず、いい意味で強烈なワークショップでした(この年代の子供らがおとなしいと、むしろ不自然)。

f:id:tech-dialoge:20201110142737j:plain◎ひろくんの作品「すごいマインクラフト」

A3の白紙に『ゼロから理解するITテクノロジー図鑑』のイラストを切り張りし、ストーリーをつくり上げる、創造性の扉をノックしようというワークショップ。
お子様たちはマインクラフトのヘビーユーザーだそうで、終始「マイクラ」のことを話していた。

f:id:tech-dialoge:20201110142817j:plain◎ゆうくんの作品。無題

1時限目は、冒頭でビル・ゲイツジョブズの写真を見せて、「この人たちみたいにたくさん勉強すると自分でマイクラ作れるんだよ。こういう人みたいになって自分でマイクラ作りたくない!」と説明すると、二人とも目を輝かせ、「なりたい!」と言っていた。

f:id:tech-dialoge:20201110142851j:plain◎作品発表の様子

f:id:tech-dialoge:20201110142924j:plain◎作品完成記念写真。アルゴリズムの勉強も実施

絵や文字の練習に励む5歳のゆうくん、7歳のひろくんはイラストの切り張りに没頭し、「10億人の住めるビルをつくる」と、壮大な絵を描いていた。

2時限目は、1時限目に作成したストーリーを文章にするという内容。
ひろくんは「10億人の住めるビルをつくる」の物語を、A4の用紙にびっしり書き込んでいた。お父さんいわく、「この子がこんなに書くとは思わなかった」とのこと。
本当に、子供の脳はスポンジのようで、なんでも吸収し、インプットしたものを一気に発火させアウトプットする。恐るべき能力。

f:id:tech-dialoge:20201110142957j:plain◎作品を切り張りで作成するワークショップの様子。一気に集中する子供たちの能力はすごかった

授業のラストはセミナールームを走り回り、ヘルプに来ていただいた谷藤賢一さんと子供の抱っこ大会。
最後は、「帰りたくない」と叫ぶ子供たち。本当にかわいかった。

本来はロジカルシンキングを学んでいただきたかったが、「ITってなんか面白そう」ぐらいに児童期の体験として、彼らの脳のどこかに焼きこまれていたらよい。
こういう子供たちが、20年もせずに起業したり、政治家になったり、会社で収益を生んだり、社会の中枢を担う大人になり、世の中を担う。
10年後、20年後の彼らが、とても楽しみです。
ゆうくん、ひろくん、元気で、自分のなりたい自分になれますように!

三津田治夫