本とITを考える

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混迷の時代に「古典」を読む価値:『永遠平和のために』(エマニュエル・カント)

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「情報氾濫の時代」「ゴールの見えない混迷の時代」「リーダー不在の時代」などなど、いまの世の中、しばしばこのように表現される。
確かにその通りで、有史以来、時代の変わり目は必ず先行き不透明になる。
そんな時代に、時代を画す知性や知恵が現れるという意味で、ヘーゲルが言った「ミネルバのフクロウは夜飛び立つ」は、あまりにも有名な言葉だ。
いまのような時代の変わり目を読み解く材料として、今回はカントを取り上げる。
カントの作品でもページ数が少なく、また、昨今の国際情勢を鑑み、『永遠平和のために』を読んでみた。

カントが一貫して主張し、人間に要求するものは、「理性」と「幸福」の追求である。
そのためには「自律」をもって「自分の行動原理(格率)を普遍的法則にまで高めなさい」、という。
この大命題が、本書で語るカントの平和論の基盤をなす。

まずは戦争に関して。
歴史的に、「戦争をなにか人間性を高貴にするものとして賛美する。」という傾向があり、そこに、人間が戦争を起こす正当性の理論のベースにある、としている。

そして「宗教と言語による民族の分離」はえてして戦争の原因となりうるが、こうした分離には意味があり、決してネガティブな要因だけではない。すなわち、民族は分離しているからこそ、互いが競い、発展する動機になるのだ。

「互いの利己心を通じて諸民族を結合する。」

そしてカントのもう一つの主張は、「商業精神は戦争とは両立できない」という点。
この商業精神こそが、あらゆる民族を支配するようになると言う。
商業が支配する、現代社会を予言した言葉である。
しかし思うに、「商業精神は戦争とは両立できない」というカントの予言は外れてしまった。
以下は私の意見。

現代の商人は、戦争と両立できる商業精神を編み出した。
それが、武器商人の精神だ。
戦争はすればするほど、儲かる。
もしくは、戦争の脅威を人々に植え付ければ植え付けるほど、武器は売れる。
隣国が軍備を高めているという情報一つでイージス艦は売れるし、乱射事件が起これば拳銃火器は自衛のために売れる。
「軍備の拡大は論外」とカントは言うが、資本主義経済はそれを逆手に取り、商業精神と戦争を両立させてしまった。
消費なしに資本主義経済は成立しない。
その行き着くところが、最大の消費である戦争だった。
中東問題もリーマンショックもしかりで、ある意味資本主義経済も、21世紀において、限界に到達した。
資本家や政治家など、どれだけの数の権力を持った人間が、カントの次の言葉を現実として受け止めているのだろうか。

「汝の格率が普遍的法則になることを、汝が意志することができるように行為せよ。」

自分の行動原則に普遍性を持たせよ、ということだ。

この言葉を額面通りに受け取れば、武器を消費させ、武器を売買することで利潤の最大化を図るという発想自体、まったく成立しない。

人間は権力を持てば持つほど、このカントの言葉を冷静に理解するべきである。
彼のこの言葉を単なる理想と読むか、現実と読むか。

カントの言葉の読み方次第で、世界はまったく変わるはずだ。

三津田治夫