本とITを考える

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善良な農民が大犯罪者に転落する数奇な人生:『ミヒャエル・コールハースの運命』(ハインリヒ・フォン・クライスト著)

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今回な趣向を変えて、19世紀のドイツ文学を読んでみた。

妻と子供を愛する健全な農民ミヒャエル・コールハースの、数奇な人生を描いた作品。

ミヒャエル・コールハースが手塩にかけて育てた馬を連れ国を出ようとすると、国境で不当な通行税を請求される。通行税の肩代わりに馬を置き、現金を持って馬を取り返しに来ると、馬は姿を消し、無残な使役馬に使われていた。事実を探り馬を取り戻そうとミヒャエル・コールハースは妻と共に調査を続ける。交渉のために疑わしき悪徳領主のもとに乗り込んだ妻は門番からの攻撃で怪我を負い、ふとしたことから命を失ってしまう。

妻の死をきっかけに、ミヒャエル・コールハースは復讐の鬼と化す。

彼は村の農民たちを連れて、ドイツ中、悪徳領主を追跡する旅に出る。悪徳領主がかくまわれているのではないかと町々でに火をつけて回る。町では市民を扇動して軍隊を組織し、ドイツを戦火の嵐へと巻き込む。内戦の首謀者であるミヒャエル・コールハース乱暴狼藉を説得する際には大権力者であるマルチン・ルターが登場。内戦の主犯としてミヒャエル・コールハースは逮捕され、ついに彼は断頭台の露と消える。

一匹の馬がきっかけに善良な農民が戦争の鬼と化し、ドイツ中をはちゃめちゃにしてまで自分のプライドを貫徹しようとした男の、波乱以外のなにものでもない人生。歴史的な実話に基づいているという。憎悪と運命をテーマにしたドイツ文学作品というと、ロッシーニのオペラでもおなじみなシラー作『ヴィルヘルム・テル』が有名であるが、ミヒャエル・コールハースの世界に勧善懲悪はなくさらに強烈。憎悪と運命を心と必然に照射した戦いの描写がすさまじい。

運命の力に、人間の力は足下にもおよばない。運命の冷酷さを物語った見事な中編。新訳が出ると実に嬉しい。

三津田治夫