本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

日本初の駐輪場シェアリングサービス「みんちゅう」のビジネスモデルを分析する

シェアリングエコノミーがついに駐輪場の世界にまで進出してきた。

11月22日(木)、東京ビッグサイトの「シェアリングMeetup Tokyo」で展示された「みんちゅう」(https://www.min-chu.jp/)は、アイキューソフィア株式会社(https://www.iqsophia.com/)が運営する日本初の駐輪場シェアリングサービスだ。

同サービスは2017年にリリースされ、首都圏を中心に現在約300か所、1000台を超える駐輪場を提供している。

自転車1台分の空きスペースさえあれば、有料駐輪場のオーナーになれる
「みんちゅう」は、空き地や駅前商店の駐輪場、宅地のスペースなど、自転車1台分の空きスペースさえあれば、そのスペースの所有者が「有料駐輪場のオーナー」になれる、というサービスである。

駐輪場のオーナーは住所や注意事項、現場の写真、貸出日をネット経由で登録し、駐輪スペースに「予約専用有料駐輪場」と表示するだけでよい。利用料金は駐輪場のオーナーが決めることができる(1日1台100~200円)。

スマートフォンアプリ「みんちゅうSHARE-LIN」をiPhoneで表示した様子f:id:tech-dialoge:20181123181349j:plain

利用者は、スマートフォンアプリ「みんちゅうSHARE-LIN」を導入する。
アプリ内で地図が表示され、駐輪可能な周辺の場所が表示される。そこで希望の場所を選択し、電話番号と自転車防犯登録番号(もしくは車体番号)、自転車の写真、利用したい日付を入力する。アプリ内でクレジットカード決済を行うことで、駐輪場の利用登録が完了となる。

利用者が支払った料金中の税込み60%を駐輪場のオーナーが受け取り、残りは「みんちゅう」の取り分になるという収益配分の仕組みだ。

◎これだけのスペースがあれば「有料駐輪場のオーナー」になれる(展示会会場から)f:id:tech-dialoge:20181123181445j:plain

駐輪場のオーナーに初期費用や運営費用、駐輪場に機器は設置されないのでそのコストはかからず、簡単に副業が開始できる。さらに、店舗のプロモや集客などの実験、テストマーケティングに活用することも可能だ。利用者においても年会費など初期費用が不要で、そのつどの決済でリアルタイムに利用することができる。

神奈川県大和市埼玉高速鉄道との地域貢献サービスに注目
個人や企業レベルを超え、「みんちゅう」は地方自治体や鉄道会社との提携を通し、地域貢献の一環としたサービスも展開している。

◎「みんちゅう」の活用事例(展示会会場から)f:id:tech-dialoge:20181123181546j:plain

その一つに、2018年2月に発表された、放置自転車問題の解決に向けた神奈川県大和市との共同プロジェクトがある。
「みんちゅう」を運営するアイキューソフィア株式会社は同市と協定を結び、放置自転車の多い大和駅中央林間駅の周辺でサービスを提供。同市は交通安全巡視員を派遣し駐輪場への不正駐輪のチェックを行う。このような役割分担のもと、運営が実現されている。これにより、市の予算軽減にも寄与している。同市は、商店会や商工会議所との連携サービスも検討しているとのことだ。

もう一つ、2018年10月に発表された、駐輪場不足に悩む浦和美園駅の事例がある。
浦和美園駅周辺は住宅開発から駐輪場不足が生じ、埼玉高速鉄道は2016年と2018年に月ぎめ駐輪場を設置するものの、いずれも即満車状態となり、次の打ち手に頭を抱えていた。

そうした背景のなか、アイキューソフィア株式会社と埼玉高速鉄道が連携。駅東口側と西口側にある未利用地を60台分の駐輪場とするプロジェクトが発足。地域の問題解決に貢献している。利用料は1日1台150円で、埼玉高速鉄道はサービスが成功すれば沿線にも展開する姿勢だという。

拡散と共有が収益を成長させるシェアリングエコノミーへの期待
1日1台150円で60台分とは、単純計算で月の売り上げは27万円。
これを「一企業として取り組むべきビジネスなのか?」という疑問は、シェアリングエコノミーの発想からかけ離れるといえよう。

この売り上げを見ただけでは、確かに微々たるものである。
しかし、シェアリングエコノミーは、「拡散と共有」によって広がる。
1日1台150円で60台分の契約が10になれば、単純計算で月の売り上げは270万円。100になればさらにその10倍である。
ネットワークとソフトウェアの力を借りることで、これが実現可能となる。
また、スポーツクラブやテニスコートなど他ビジネスへの横展開や、マーケティングツールとしての活用など、このビジネスには限りのない可能性を秘めている。

どんな未来が訪れるかは誰にもわからない。
この時代の資本主義経済が産み落とした申し子が、ポスト資本主義経済ともいえるシェアリングエコノミーである。

自転車の「あり方」が再定義されたいまの「みんちゅう」への期待
「みんちゅう」の対象とする自転車のあり方も、この20年で大きな変貌を遂げた。
以前は自転車といえば、お買い物で使うママチャリとスポーツ用途のサイクリング車、新聞配達などで使われる業務用軽快車という、ほぼ実用用途の3種類しかなかった。

しかしいまでは、これらに加えてマウンテンバイクやロードバイク、フォールディングバイク、電動自転車から数百万円の高級ブランドまで、私たちを取り巻く自転車という存在そのものが大きな様変わりを遂げた。
駅前の自転車屋が軒並み倒産したと思ったら、タイヤメーカーが全国の自転車チェーン店を仕掛けてきたり、高級自転車だけを扱うプロショップが現れるなど、産業構造も大きく変貌している。
1日1台1万円で駐輪する高級駐輪場、というビジネスが出現してもおかしくはない。

出現する未来に対して「そんなバカな」と受け入れを拒む大企業的な発想を通すことは、この時代、なかなか難しい。

自転車はCO2排出が極めて少なくエコであり、健康を推進し、災害時には機動的であることから、2017年5月には政府が「自転車活用推進法」を施行している。
国家レベルでも、自転車の意味付けや価値づけは、かつてのものとまったく異なっている。

こうした意識構造や産業構造の大きな変革を、「みんちゅう」は上手にとらえているといえよう。

シェアリングエコノミーを展開する「みんちゅう」の次の動きにぜひ注目したい。

三津田治夫