本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

私が体験した23年前のITの「学び」

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30万人のITエンジニア不足が予測される、2020年のIT業界問題をご存じの方は多いはずだ。
12月7日(金)、その課題解決につながるセミナーを実施する。

私自身もこれには特別な問題意識を持っている。
ちなみに30万人がどんな数かというと、私が住む埼玉県越谷市の人口とほぼ同じ数である(越谷市は33万人)。
1つの市の人口に匹敵する数の、しかもITエンジニアという限定された職業で起こるこのような事実は、深刻な問題だととらえずにはいられない。

20年以上前のエンジニアの学びはほぼ独習だった、私の場合
私がITエンジニアだった時代は20年以上前。1991~1995年の4年間だった。
東芝の関連会社の総合情報システム部に配属され、1か月ほどの研修でコンピューティングの基礎とCOBOLプログラミングの基礎を学んだ。
高田馬場の教室に通い、PC98に表示される解説をひたすら見て聞くというものだった。
最後に少しだけコーディングもした。
わからないところがあったら教室にいる教官に随時質問するというカリキュラムだった。

現場に配属されると、OJTCOBOLの実践編とRPG2/RPG3を学んだ。
OJTとは名ばかりで、先輩からソースコードのダンプリストを渡されるだけ。
さすがにそれでは理解が深まらず、COBOLに関してはオーム社の入門書を買ってなんとかやり過ごしたが、RPGIBMの解説書の内容と翻訳が非常に不親切で、よくわからなかった。

現場にはJCLというIBMオリジナルのジョブ制御言語があり、さらにキャノンのレーザービームプリンターの帳票を描画するFGLというオリジナル言語も。
これら多くは先人のソースコードを読み、マニュアルも無しに純粋な独学で学び取る必要があった。

現場で動いていたハードウェアははじめはIBMの大型汎用機4381とオフコンのS/36。数年してこれらは9121とAS400にリプレイスされた。

私が任されたのは、いわゆる「メインフレームのお守り」だった。
オープンリール(当時はまだあった)やCTAPEの管理、用紙の出し入れ、COBOLの開発からバグ取り、海外輸出入システムの設計まで、一通りやらされた。

期末に予算が余ると上司が研修に行かせてくれた。
私が最後に受けた研修が、DB2プログラミング入門だった。
川崎のIBMの研修所に通い、短期間でリレーショナルデータベースの基礎からSQLまで、いろいろと学ばせていただいた。

システムがネットワーク化するとともに、求められる知識量も膨大に増加
世の中はクライアントサーバーシステムに移行していた。
若手エンジニアの多くはパソコンでVisualBasicをやらされていた。
当時の私としても、「VisualBasicやりたいなあ、大型汎用機、いけてないよ」などと思いながら、4年間のエンジニア人生に終止符を打った。

すでに気づいた人は多いと思うが、上記には「インターネット」という単語が一つも出てこない。それも当然で、1995年の時点でインターネットを使う企業はほとんどいなかった。せいぜい、あまり機能していないホームページぐらいで、インターネット・メールを使う企業すらまだまだ少なかった。

現在に目を転じると、ハードウェア(スマートフォンなどのモバイル機器、サーバーの小型高速化)とソフトウェア(オブジェクト指向開発環境、ライブラリ群、開発言語、AI)、インフラ(クラウド、高速ネットワーク環境)の急激な発展により、ご覧のとおりのネット社会になった。

1995年からの23年間で、ITの世界が拡大するとともに、このように、関連するキーワードは膨大に増加した。

当然、ITを生業としたい人たちは、これらキーワードを一通り理解しておく必要がある。
そして各分野の専門知識を深め、仕事のスキルとして育てていく必要がある。

これは大変なことである。

昔中国の方と話していたときに、「学生時代は歴史の授業が一番嫌だった。4000年分のことを学ばなければならず、覚えることが多すぎ」と聞いたことがある。

中国4000年の歴史とIT23年の歴史には大きな時間差がある。
とはいえ、IT23年の歴史の密度は、4000年まではいかないにしても、2000年ぐらいに匹敵するのではないか。

多摩大学大学院の田坂広志教授が、現代とは紀元後の2000年における中世である、ということを言っていたのを思い出す。つまりいまの時代、あと数十年もしくは100年以上激変を繰り返し、過去2000年とはまったく異なる文化が作られていくのである。レイ・カーツワイルの「シンギュラリティ」も、これに似た考え方である。

高度に複雑化したいまのIT業界において、あるべき学びの姿とは?
高速高密度に発展を遂げたITを生業にするエンジニアにとって、理解すべきこと、学ぶべきことは非常に多い。「どこから手を付けてよいかわからない」という声もしばしば耳にする。コーディングの手法を知っているだけでもその裏のネットワークやデータベースの知識がないことには次のステップに進みづらい。ネットワークのことだけを知っていてもインフラの知識もある程度は必要になってくる。このように、ITの知識はどこかに境界があるわけでなく、たえず隣接の知識が求められるのである。

私がエンジニアだったインターネットのない古い時代は、ITの仕組みが単純で、OJTないし独学でなんとか業務をやり過ごすことができた。
しかし、高度に複雑化したいまのITの仕組みにおいては、OJTや独学には限界がある。つまり、時代は新しい学びの形態を求めているのである。

朝会や勉強会、コミュニティでの自主的な学びから、オンラインによる独習、先輩エンジニアによる社内研修、研修会社によるオンサイト研修、合同研修まで、ITの知識体系の複雑多様化とともに、学びの体系も複雑多様化している。

12月7日(金)のセミナーでは、こうした複雑多様化したITの知識をどのようにとらえ、どのように学ぶべきか、学びのあるべき形を、対話し、ともに考えていきたい。

興味のある方は、以下のサイトからご登録いただけたら幸いである。

【12/7(金)第2部開催決定】「2019年新入社員育成対策・特別講座 正しいITエンジニア研修を考えるセミナー」 ~本とITを研究する会協賛~

三津田治夫