本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

DX時代のITエンジニアのための、キャリアづくりの考えるヒント ~要素技術とエンジニアリングの間に見えたもの~

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先日、某IT人材企業の代表にお会いし、業界のことやエンジニアのキャリアのあり方などについて話を伺い、さまざまなキーワードを手にした。
その中でもとくに、以下3つが印象に残った。

・要素技術は時代とともに消える
・エンジニアリングそのものは消えない
・技術に対する覚悟

AIやDXなど、近年はコンピューティングやプログラミングの扱う領域が肥大した。
そしてあたかもAIやDXなどが、コンピューティングやプログラミングとは「別物」と誤認される傾向が出てきた。
誤認の軌道修正としても、本コラムが参考になれば幸いである。

エンジニアという人間が持つ創造的なマインドは不変
1980年代、世界一といわれていた日本の半導体メーカーが続々と脱落し、いまでは世界一の称号は跡形もなく消え去った。
これを現在の日本のソフトウェア産業に置き換えてみると、エンジニアがキャリアのあり方を見つめ直すヒントになる。つまり、要素技術は予告なしに一瞬で消えてしまうのである。要素技術の運命を直視することが、エンジニアのキャリアづくりに重要な理由の一つである。

エンジニア向けの転職業界では、「Pythonで年収○○万円」「Swiftで年収○○万円」といった、要素技術と金額の関連が前面で取りざたにされる。
要素技術のトレンドと年収額を比較しながらキャリアチェンジを続けるのも一つの戦略だ。
しかし、果たしてそればかりでよいのかという疑問がある。

新しい要素技術を身につけ転職するのもよいし、手にしたスキルを応用して業態転換をはかるのもよい。
もちろん、なにもせずそのまま会社に残ってもよい。
そこに必要なものはただ一つ。
エンジニアの技術に対する「覚悟」である。

エンジニアリングとは直訳すると「技術」や「工学」となる。
そこにエンジニアという人間がかかわると「なにを与えたいのかという創造的なマインド」が加わる。
要素技術は時代とともに消滅する。
永久に消えないのはエンジニアリングと、エンジニアという人間が持つ創造的なマインドである。そのうえで、技術に対する「覚悟」さえあれば、エンジニアは納得いくエンジニア人生を送れる。

要素技術と創造的なマインドはたえず両輪で動く
上記を考えながらふと気づいたのは、これは、現在の出版産業と合致する構造ではないか、という点である。

出版産業でモノを作る「エンジニア」は誰に相当するか。
その一人が編集者である。

編集者は紙や電子の出版物の編集という「要素技術」を使用し、なにを与えたいのかという創造的なマインドに基づいた「エンジニアリング」のもとで、出版物を制作する。
時代の流れにしがたい紙の商業出版物がしだいに減っていき、それにともない紙の商業出版物への編集という要素技術へのニーズは変化を続けていく。

私がよくいうのは、いまの編集者とは、無声映画時代の、俳優の声を代弁する「活弁士」に相当するというたとえである。
フイルムがサウンドトラックを備え、映画がトーキーになることで活弁士たちは職を失っていった。
しかし一部の活弁士は司会者やアナウンサー、芸能人になったりと、時代のニーズと手持ちのスキルをマッチさせ、業態転換をはかった。
そうした彼らが持っていたものはなにか。
それは、なにを与えたいのかという創造的なマインドに基づいた「エンジニアリング」である。
言い換えると、生き残った活弁士は「自分の声と表現という身体能力で人を幸せにする」という、自らの与えるべき価値を知った人である。

**エンジニアはいつでも、消えうる要素技術の持ち主**
私も、ソフトウェアエンジニア出身で、出版業界に26年身を置く人間として、上記は決して他人事ではない。
「社会的に魅力のある人物にお声がけをし、アウトプットを共有し、言葉とメディアを通して読者を幸せにする」という編集者の職能を、広く社会活用できる仕組みがつくれたらよい。
その意味でITエンジニアと編集者は、立場は違えど、「消えうる要素技術の持ち主」という意味で類似の境遇に置かれている。
その意味で、上記キャリアへの考え方は参考になるのではと考えた。

5年かかる変化が1年で一気に起こったこの時代、キャリアを磨き上げるスキルを、時代のニーズにマッチさせるという発想はますます重要になった。

あなたの持つスキルが所属する企業のニーズにマッチしない場合も多々ある。
ならば、企業から抜け出し、社会に出てみよう。
所属する企業のニーズと社会のニーズは、決してマッチしていない。
あなたのスキルを社会にインストールし、社会とともにキャリアを磨き上げ
よりよい社会の構築に力を貸してもらいたい。