本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

コラム/エッセイ

20年以上前に開発された非接触決済システムの化石「The Java Ring」

サンフランシスコのモスコーニセンターで1998年に開かれた「JavaOne」にて、当時の上司が取材に行った際手土産に買ってきてくれた歴史的なお品物が「The Java Ring」である。 この指輪の中にはJavaでセキュリティが確保された接触型の個人情報(64ビットのID…

不確実性を味方につける、ワーケーションという生き方

ワーケーションをいう言葉をよく耳にする。「ワーク(work)」と「バケーション(vacation)」を組み合わせた造語で、本来の意味は休暇や帰省の合間に仕事を組み入れるという働き方のことである。リモートワークの定着や時代背景から、その意味が大きく変わ…

渋沢栄一とその子孫の創造力 ~時代を突破する武器としての教養~

先日知り合いの誘いで、渋沢栄一(1840~1931年)をテーマにした読書会に参加する機会を得た。これを機に、いろいろと調べ、考えた。 渋沢栄一の名前から私が第一に思い出すのは、作家、澁澤龍彦である。彼は渋沢栄一のいとこのひ孫にあたる、文学の翻訳や欧…

ウクライナ、SNSが戦争を抑止することへの試練、期待

ウクライナが戦争で目も当てられない。1991年の湾岸戦争は衝撃的だったが、それ以上だ。当時は欧州都市のテロが多発していた。私は短波ラジオを携帯し、戦況を気にしながら学生最後の旅をしていた。湾岸戦争の終戦はポーランド・クラコフのユースホステルで…

詩人ニコライ・ゴーゴリの故郷ウクライナに、平和を

ウクライナの状況は目も当てられない。 民間人のビルにロケットが撃ち込まれ、市街地に戦車の残骸が転がっているなど、あんな光景を私が生きている間に隣国で見ることは、想像もしたくなかった。 ウクライナが1日でも早く平和を取り戻すよう、同国の私が敬愛…

文化と日常の不思議な関係

今回のコロナ禍で「文化」という言葉が海の向こうからはたびたび聞こえてきた。飲食店や舞台、ライブなど、言葉や作品の対話がリアルに交わされる場が閉鎖されたため。しかしこの状況に日本で、「文化」という言葉が使われることが少なかった気がする。「文…

DXの「D」と「X」の深い断絶をつなぐメディアとコンテンツのお役目

DX(デジタル・トランスフォーメーション)という単語が世に知れ渡って久しい。 1年前のいまごろは、 「一過性のバズワードだろう」「一年後には陳腐化する言葉だ」 という意見が方々から聞こえてきた。しかしそれどころか、DXはまだまだ世の中に浸透してい…

音楽や文章との感動的な出会いは、年齢とともに突如やってくる

近頃はマーラ―ばかりを聴いている。学生時代は交響曲第1番『巨人』は少し聴いていたが、それ以外はどうも肌に合わなかった(ちなみに1980年代、世紀末に迫ることを機に「空前のマーラーブーム」というものがあった。その影響で外発的に聞いていた)。が、最…

投票会場で見た民主主義の風景

新型コロナウイルスや経済問題など、世の中に課題が渦巻く中、10月、衆議院選挙が行われた。駅のコンコースに臨時設置された期日前投票会場に足を運んだ。そこは、いままでに見たことのない行列だった。国民の関心の高さがうかがえるとともに、いままでの選…

草加せんべいをめぐる小さな文化の物語

◎草加宿を北に抜けた場所に設置された松尾芭蕉像地元の名菓に草加せんべいがある。草加は17世紀に栄えた日光街道二番目の宿場町だ。俳人の松尾芭蕉が訪れたことでも知られており、当時は戸数120軒ほどからなる小さな宿場町だった。宿場では余った米やまんじ…

秋の虫から聞こえた、命の循環と環境のこと

草むらでは秋の虫が元気に鳴いている。このところ、環境のことや健康、食べ物のこと、世界のことを考える人は増えてきたと思う。健康、食べ物のことは、10年以上前に医師たちと書籍をつくっていた関係から、よく調べたし、いまでも個人的関心は高い。とくに…

この夏の、もう一つの敗戦体験 ~第五福竜丸展示館にて~

毎年夏になると、東京新木場(夢の島)にある第五福竜丸展示館に来る。きっかけは、2011年6月に埼玉県草加市の講演で偶然お会いした、第五福竜丸の乗組員として被ばくされた大石又七さんとの対話だった。講演での質疑応答や講演後の名刺交換で20分ほど話させ…

DX時代のITエンジニアのための、キャリアづくりの考えるヒント ~要素技術とエンジニアリングの間に見えたもの~

先日、某IT人材企業の代表にお会いし、業界のことやエンジニアのキャリアのあり方などについて話を伺い、さまざまなキーワードを手にした。その中でもとくに、以下3つが印象に残った。 ・要素技術は時代とともに消える・エンジニアリングそのものは消えない…

DXと問い、そしてアジャイル

先日、農林水産省が「「農業DX構想」の取りまとめについて」を発表した。「データ駆動型の農業経営により消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供する農業(FaaS(Farming as a Service))への変革を進める」とし、日本古来の仕事である農業の世界に…

私たちの生活を担う、「知足」の感性磨き

先日、作家の髙坂勝氏のWeb講演に参加してきた。同氏は千葉県匝瑳(そうさ)市で有機農業や再生可能エネルギーの普及にライフワークとして取り組まれている方である。延べ3時間におよぶスピーチと質疑応答は、まだまだ時間が足りないほどの、あっという間の…

編集、この愛すべき仕事(後編)

(前編からの続き) 編集者のやりがいざっと、編集者の仕事の流れを見てきた。編集という仕事を選んだ限り、やはり、やりがいは欲しい。どんな仕事でも、給料をもらったり、売り上げがあがったときは、うれしく、ありがたい。そして、この仕事をやっていて良…

人と人とをつなぐ、本のチカラ

2014年1月25日に『トランスクリティーク』(柄谷行人 著)にてはじまった読書会、11月7日をもって、のべで32回の開催となった。そして次回から8年目を迎える。先日、その忘年会を開催した。 メンバーの増加やオフラインでの開催ができなくなるなど紆余曲折を…

編集、この愛すべき仕事(前編)

私は企業のシステムエンジニアとしての新入時代4年間を除いて、25年間編集者である。この間、本ばかりを作っていた。起業してからも、出版プロデュースを軸に、編集の仕事を手掛けている。なぜか知らないが、編集者になりたいという願望が強かった。業種を変…

「本」とはなにか?

最近よく「「本」とはなにか?」という議論を耳にします。デジタル社会で情報優位が高度化する中、ますます「本」という物体に人の目が向けられているのではないでしょうか。近年アナログガジェットとしての文具が見直されているのも、この流れに近い感じが…

大人の夏休み一泊体験。つくばで味わった無邪気な夏の写真日記

8月某日、今後の地方分散社会を視野に入れ、東京近郊地方での生活とはどういうものかを知るため、一泊でつくばの田舎暮らし体験を試みた。 体験取材ということで一日目はいろいろと考えながら行動していたが、二日目は「楽しい」という純粋な体験・印象ばか…

東京ステーションギャラリーにてバウハウスの歴史を観覧。付録:オスカー・シュレンマーのエッセイ『人間と芸術像』

「開校100年 きたれ、バウハウス ―造形教育の基礎―」と題し、東京ステーションギャラリーで展覧会が開催された。9月6日(日)の最終日もそろそろ近づいてきたので、猛暑日、足を運んでみた。 ◎出口には実際に座れるマルセル・ブロイアーのパイプ椅子があった…

バウハウス ~引き継がれるべき、一つの歴史が終わったこと~

32年間、毎年必ずクリスマスカードの交換をしていたドイツの友人のコリンナから、昨年はカードが届かなかった。非常に筆まめな方で、なにかあったのだろうか、暑中お見舞いでも出して様子を伺おうかと考えていたら、あまりパソコンを使わない彼女から珍しく…

セミナー・レポート:危機から見えた、新しい日本を考える ~高嶋哲夫氏によるオンライン・セミナーを開催~

◎オンライン・セミナーの模様 7月21日(火)、作家の高嶋哲夫氏をお招きし、「アフター・コロナを考える「新しい日本の形、新しい日本の創造」」と題し、本とITを研究する会主催のオンライン・セミナーを64人で開催した。高嶋哲夫氏は、『首都感染』(講談社…

本を読むにもノウハウがある ~あなたの読書を「最適化」しよう~

人は本を読む必要があるのだろうか?教養や趣味、娯楽など、読書にはいろいろなゴールがある。今回は、編集者として、また、一人の本好きとして、「情報収集のため」と「知識のため」をゴールに、「本の読み方」のお話をお届けしたい。 そもそも「情報収集」…

テレワークが加速させる、地方分権社会の形づくり

新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入した企業が急激に増えた。 これにより、対面でも電話でもない、独特のコミュニケーション形態を味わってしまった人たちが急増した。 私もたびたびオンライン会議やWebセミナーを実施したが、なんともいえない距離…

コロナと「変わる」ということ

新型コロナウイルスの到来で「働き方や生き方インフラがガラリと変わるされる」と言われている。 この、変わる、とはなにか?すなわち「革命」である。日本人が直近で遭遇した革命は150年以上前にさかのぼる。明治維新(Meiji restoration and "revolution"…

『紅い砂』(高嶋哲夫 著)を読んで ~社会変革と「壁」そして自由の本質(後編)~

(前編から続く) 警察が強権をふるう監視社会当時の東ドイツでは西ドイツのテレビ放送を傍受することができた。これにより東ドイツの人たちも西ドイツの情報を持っていたが、傍受した内容を学校や町中などで口にすると、市民に紛れた秘密警察(ゲハイムディ…

『紅い砂』(高嶋哲夫 著)を読んで ~社会変革と「壁」そして自由の本質(前編)~

『紅い砂』(高嶋哲夫 著、幻冬舎刊)は、元米兵ジャディスが率いる革命軍が内戦で中米コルドバの政権を奪取し、民主主義国家を樹立する、という物語だ。独裁政治と薬物による暗黒経済が支配するコルドバの国民は、自由を得ようと、メキシコとの間に米国が築…

いま考える、生存のインフラ「文化」について

見えない敵、新型コロナウイルスは、私たちの生活に覆いかぶさるよう日々情報を更新している。さまざまな意味で、破壊的である。先日は日本赤十字社が、ウイルスの次に来る脅威は「情報が与える恐怖」という啓蒙CMを流しはじめた。新型コロナウイルスの感染…

自由で健康な心身で乗り越える、「情報」との戦い

一次情報にあたることで、情報としての毒性から逃れる新型コロナウイルスを書くことは、無闇に読む人の恐怖心を煽るというリスクがある。しかし恐怖心とは、「自分の力でコントロールできる」と気付くことにより、低減、もしくは消滅する。ここでは、「自分…