本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

セミナー・レポート:1月17日(水)開催「伝える力がイノベーションを起こす、ビジネスと人材を変革する言葉のマネジメント入門」

2018年1月17日(水)、本とITを研究する会新春第一弾のセミナーとして、「伝える力がイノベーションを起こす、ビジネスと人材を変革する言葉のマネジメント入門」を、ビリーブロード株式会社・神田イノベーションルームで開催した。そのセミナーレポートをお届けする。

「いま、イノベーションが大切な理由」
今回は二部構成で、前半は事業コンサルタントとして経験豊富な、ビリーブロード株式会社取締役の小関伸明氏により、後半は編集者で本とITを研究する会代表の三津田治夫によりセミナーが行われた。

◎VUCAワールドにおけるイノベーションの重要性を強調する、小関伸明氏f:id:tech-dialoge:20180119180237j:plain

第一部は、「いま、イノベーションが大切な理由」と題し、VUCAワールドと呼ばれる、複雑化して誰も先を見通せない現代を指摘するところからはじまった。
あらゆる業種で市場参入のハードルが下がり、商品やサービスがオーバースペック化、陳腐化が加速、過去の体験や前例が通用せず、人手不足と人材不足が同時進行するという、従来のやり方では通用しない、現実を打破する手法として「イノベーション」を取り上げた。
イノベーションとは、「従来のモノ、仕組み、組織などを改革して社会的に意義のある新たな価値を創造し、大きな変化をもたらすこと」である。経営理念に必要とされる意識改革、ともいえよう。
イノベーションにはいくつかの分野がある。その中で目下求められているものは、顧客の潜在課題を発掘して解決する「ビジネスモデル・イノベーション」である。
はとバスマクドナルドなど、いままで当たり前で気づかなかった顧客の潜在的課題を発見し、その解決に取り組むことで復活を遂げた企業がいくつもある。また、メルカリやラクスルなどの新興企業においてもビジネスモデル・イノベーションは事業を加速させる手段として取り入れられており、すでに数々の実績を上げている。

ビジネスモデル・イノベーションの源泉は「顧客の潜在課題の気付き」
現場レベルで求められるものは、「仕事は指示通りに無駄なく効率的に行うもので、失敗は悪いこと」の真逆をいく発想である。つまり、自らが気付き、考え、行動するという発想である。ここからアイデアの種が生まれ、ビジネスモデル・イノベーションを実現する芽が育つ。単に経営者が「アイデアを出せ」と命令しても、たいていは出てこない。それ以前にこのような種が生まれ芽が育つ土壌をつくりだすことが、経営者に与えられた重要な課題である。そこで経営者は、「なんのために」という自らの経営課題を本質から洗い出し、それを経営理念に落とし込む必要がある。
ビジネスモデル・イノベーションの源泉は、「顧客の潜在課題の気付き」である。顧客の潜在課題を発見し、解決するためのサービスを生み出すには、複雑化・スピード化したいまの社会、中長期計画や売り上げ目標といった数値に基づいた従来型の経営手法だけでは対応できなくなっている。

◎「1on1」でミッションを自分の中から発見するf:id:tech-dialoge:20180119180123j:plain

そこで経営者に求められるものが、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の徹底的な洗い出しと共有である。これらはおのおの、自分たちがいつか実現したい社会的使命、どのようにミッションを実現するのか、日々どのように考え行動するのか、と翻訳することもできる。これらを経営者は洗い出し、言語化し、アウトプットする。これをもってスタッフやクライアント、パートナーと共有するのである。

その出発点である「ミッション」は自分の中から発見する。それには、内省法や対話法、セルフストーリーやマインドマップの作成など、さまざまな手法がある。これらの手法を駆使してミッションを発見し、言語化する。

◎「人材とビジネスの変革を同時に進めるメソッド」を紹介f:id:tech-dialoge:20180119180030j:plain

ミッションさえ見つかれば、ビジョンとバリューは具体的なものなので、比較的容易に言語化ができる。言い換えれば、このミッションを探すことに時間と労力を要する。

「言葉のマネジメント・スキルの獲得」をゴールに
後半の第二部においては、「言葉のマネジメント・スキルの獲得」をゴールに、経営者から掘り起こされたミッション、ビジョン、バリューをいかに言語化し、メディアを通して人に伝え、共有するかという方法が解説された。

◎「言葉のマネジメント・スキルの獲得」をゴールに第二部を担当する三津田治夫f:id:tech-dialoge:20180119175915j:plain

この内容は、2017年に実施されたセミナー「現役編集者による 人に伝わるライティング入門」を経営者向けにアレンジしたダイジェスト版である。詳細については以下をご覧いただきたい。

「現役編集者による 人に伝わるライティング入門」
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/01/04/113614
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2017/11/16/133139

セミナーでもお伝えしたが、いま、携帯電話やスマートフォンの普及でメディアが身近になり、誰もが言葉を操り、メディアを駆使し、情報発信ができるようになった。かつて、情報発信ができる人は、新聞記者や作家といった、一部の職業の一握りの人に限られていた。そうした制約が取り払われた現代は「1億総編集者の時代」と、私はお伝えしている。だからこそ人には編集力が必要であり、経営者やリーダーにとってはそれがなおさらである。
いまのような複雑かつ不確定な時代の変革期として、我々の歴史に明治維新があることも、セミナーでお伝えした。明治維新後の日本(参考記事)は、日本語辞書をつくった大槻文彦や哲学者の西周文人政治家の勝海舟などが持つ、「編集力」が築き上げた。編集力とは言い換えれば、言葉のマネジメント力である。変革期における言葉のマネジメント力の重要性は、このように歴史がすでに実証している。

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今回は、事業コンサルタントと編集者のタッグという、異色の組み合わせにおいて「言葉」を学んだ。このような形で、さまざまな形態のセミナーを通し、いまの時代を豊かに生き、成長する方法を模索、共有できたらと思っている。また対話の機会が持てたら幸いである。

三津田治夫