本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

セミナー・レポート:「“人が集まる”ライティング入門」~第3回分科会 本とITを研究する会セミナー~(前編)

3月9日(金)、ビリーブロード株式会社神田イノベーションルームで、「“人が集まる”ライティング入門」~第3回分科会 本とITを研究する会セミナー~、を開催した。「人が集まる」をテーマに、人材採用に向けた集客に必要な考え方と方法を、ライティングと表現を軸に解説した。

◎ライティングで採用や就職に成果を得た企業などの事例を紹介。株式会社ツークンフト・ワークス代表の三津田治夫f:id:tech-dialoge:20180323110830j:plain

はじめに、いまの日本を取り巻く人材採用の課題を確認した。
日経平均株価の安定や大手メーカーのベースアップなど、景気が上向きだとする報道が多い。一方で人事統計の数値を見ると「人材不足」は年々高まっており、今後、仕事があるのに人がとれず倒産する企業が増えるというデータも各方面から発表されている。とくに国内の9割を占める中小企業においてこの状況は深刻で、各社課題を抱えながら採用活動を展開している。

採用サイトには多様なサービスが用意されていながら、慢性的な人材不足に悩まされコストや時間と戦い続けている中小企業にとっては、どのようなサービス活用が最も費用対効果が高いか、試行錯誤している。

それを踏まえ、採用サイトとしてマイナビWantedlyを分析。
マイナビは採用大手の定番で、記事作成や広告、メルマガ配信などのサービスが一通りそろっている一方で、登録社数が膨大なためとくに中小企業は埋もれてしまうことが最大のボトルネックである。
Wantedlyは安価からはじめられSNSとの連携が強いが、自社がSNSに弱いと利点を生かしづらい点や、オプションの追加でコストが予想以上に膨らむなどのデメリットもある。

このような採用サイトの現状を鑑みながら、今後このようなサービスはいくつも出てくるが、どのようなサービスにも共通する、採用につながる集客のために必要な普遍的内容に焦点を当て、解説を進めた。

すべての出発点はミッションとビジョン
企業の復興やスタートアップには事業の最上位概念であるミッションとそれを実現するためのビジョンの言語化が行われる。同様に、採用のための集客の第一歩は、ミッションとビジョンの言語化である。まずは己を知りミッションとビジョンを明確化し、その上で、自社がどんな人材を求めるかを明確化する。

ここではWantedlyを例に、「いいね」の数が少ない企業と多い企業の掲載ビジュアルや見出し、本文を例に分析した。とくに、見出しがうまく作れていない企業のページは顕著に「いいね」の数が少ない。逆にこの数が多い企業のページは、見出しと本文、ビジュアルの整合性がきれいにとれている。この「整合性」が今回のキーポイントだ。整合性をとるための軸がミッションとビジョンになる。つねに採用担当者は、ミッションとビジョンを念頭に置いて見出しやビジュアル、本文を選定する必要がある。

ミッションとビジョンの洗い出しは、他者との対話やセルフストーリー、エモーショナル・メモなどで行う。この中から、セミナーではワークで、エモーショナル・メモを実施した。エモーショナル・メモは簡単で、日常で心が動いた際、「なに」がきっかけで「どう」心が動いたのかという事実を、手書きやスマートフォンを活用してメモに逐一記述していく。心の中の動きと事実を言語化し蓄積していくと、ミッション(自分という人間の役割が社会になにを与えたいか)の種が生まれる。ミッションの候補は複数見つかるので、社内外の議論で社会的なニーズと照らし合わせながら精査し、ミッションと呼応したビジョンを設定する。

ストーリーとは「きれいに取れた整合性」
「見出しと本文、ビジュアルの整合性が完全にとれている。」とは、言い換えると、表現が「ストーリー」として成立している、である。たとえば「遊びを通して人々を幸福にする」というミッションを立て、「日本国内に5000のテーマパークを設置する」というビジョンを持った企業があったとしよう。この企業の採用サイトのビジュアルには「遊び」と「幸福」を彷彿させる写真が掲載され、見出しには「日本国内に5000のテーマパークを設置する仲間募集」という趣旨を伝え、本文ではそれを実現するための会社としての具体的な取り組み、そのために従業員にどのような対価とサービスを与えられるのか、従業員は快適な環境で成長できるのか、などの事実が書かれている必要がある。

積極的な採用活動が必要な中小企業にこそ「ストーリー」は重要である。ストーリーは昨今の流行語とまでいえそうな、企業のアイディンティティ付けの手段として重要視されている。従業員の数や売上高の数値など事業規模のみでその企業の善し悪しが判別された時代もあったが、大企業が赤字企業に転落したり、一流企業が海外企業に買収されてしまう時代、数値だけで人を説得することは困難になった。そこでいま企業に重視されているものは、数値でもないデジタルでもない、いたって身体的な「ストーリー」である。

ストーリーさえ自社で持てば、さまざまな傾向や個性を持つ採用サービスサイトに依存せず、自社ならではの採用展開ができる。また、作成したデータやノウハウが自分のものになるので、今後のデータ再利用やグロースが楽になる。その意味で今回のセミナーでは、「自分でつくる」をゴールに解説を進めている。つまり、これらサービスを活用しつつ、自前でサイトを運営し、セミナーやインターンといったオフラインでの活動も複合し、中小企業ならではの機動性を生かして採用に結びつけるのである。

後編に続く

三津田治夫