本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

セミナー・レポート:5月11日(金)開催、「人にしっかりと伝わるアクティブ・ライティング入門」(前編)  

5月11日(金)、会議室MIXER(日本橋本町)にて、「人にしっかりと伝わるアクティブ・ライティング入門」が開催された。

ITの発達が、あらゆる人に「書く」必要性をもたらしている昨今、「書く」悩みを抱える人は多い。第4回分科会となるセミナーには、幅広い年齢・職種の方が会同。本の執筆を目指す経営者、デザイナー、広告営業職、大学教員など、バラエティ豊かな参加者の多角な視点も、セミナーを充実したものにした。

講師は、「本とITを研究する会」代表・三津田治夫氏。編集者の視点から、アクティブな姿勢で、伝わる文章を書く術を伝授。講義とワークを通じ、参加者は大きなヒントを得たことだろう。

「書く」ことは、言葉へ積極的な働きかけ

意外かもしれないが、本とITには深いつながりがある。ITは情報を伝える技術であり、その原点は印刷。活字と活版印刷は、14世紀にドイツのヨハネス・グーテンベルクが発明。印刷機械は、ワイン絞り機を改良したものだったという。 

アイディアはあるのになかなか書き出せない。読んでくれる人がいるのか自信がない。いつまでに書き終わるかわからない……など、「書く」ことに様々な悩みを持つ人がいるが、その問題点は、「テーマ」「自信」「時間」の3つに集約される。 

「書く」ことは、言葉にかなり積極的に介入しなければ辛いものだ。しかし、それができれば、書けるようになる。つまり、「書く」とは、言葉にアクティブに関与することなのだ。 

歴史を振り返ると、時代の変革期には、言葉が積極的にかかわっている。たとえば、明治維新後の日本は、人々の言葉への働きかけにより作られた。日本初の国語辞典を編纂した大槻文彦、西洋の哲学用語を日本語に置き換えた西周蘭学を学んだ勝海舟など。言葉へ働きかける力が人間を動かし、世界を作った世界は言葉でできているの。言葉は、再現性・保存性・移動性に優れたコミュニケーションツールだ。変革の時代こそ、言葉への積極的な働きかけが求められる。 

時代はいま、あまり変化のない時代から、変化の時代へ突入している。20代の人が生まれたころから大きな変化が始まっており、40代後半から50代の中には、戸惑っている人が多いのではないか。そんないまを、変革の時代と定義している。言葉に関わることが重要な時期だからこそ、このセミナーを機に、ぜひ書く技術を身につけてほしい

「書く」ことの深堀りからセミナーはスタートf:id:tech-dialoge:20180522203343j:plain


受け手をハッピーにするために書こう

編集者視点から「書く」ことを見てみよう。メディアは、人とコンテンツのマネジメントでできている。コンテンツは、言葉・画像・音声でできている。コンテンツが完成するまでには、人間・時間・お金のリソース管理が必要だ。

与えられた時間内、コスト内で、受け手に向けてコンテンツを完成させるためには、文字や人に対していつも積極的に働きかけ、クオリティ管理する必要がある。

編集という言葉への積極的な働きかけにより、出版物やWebコンテンツが成立するのだ。そうして生まれるコンテンツは、受け手をハッピーにすることがゴールだと考える。いまは、一億層編集者の時代とも言われる。職種にかかわらず、ぜひそのマインドを持ち帰って欲しい。 

伝わる文章の基盤「テーマ」は、自分の中にある

書けない人の中には、テーマ設定で迷う人が多いが、企画はどのように作ったらいいのだろう? テーマの源泉は自分の中にしかない。流行っているから、人に言われたからではダメ。自分の中から湧き出てくるものでなければ書けないものだ。つまり、本当に書きたいことと、書かなければならない内容とを重ね合わせることが重要だ。

「テーマ」=「与えたいこと」とも言える。まずは「与えたいこと」を発見しよう。その手法は、まずは与えたいことを付箋に書き出し、それを「与えたい度」と「有益度(ニーズ)」で分類「与えたい度」と「有益度(ニーズ)」の交差点にテーマはある。この作業は最も重要で、最も時間を要する。しかし、難しく考える必要はない。与える側と受け取る側、いわば料理の作り手と食べる人と考えれば分かりやすいだろう。

大切なのは、「与えたい」を探すにも自発性が重要であるということ。それは歴史も証明している。明治維新フランス革命しかりだ。

お客さんに提案書を出す際も、上司から命令されたからではなく、自分の「与えたい」を探そう。あなたには必ず「与えたい」ことがある。その提供で人をハッピーにしよう。


アクティブ・ライティングは、自分の内外双方への積極的な介入からf:id:tech-dialoge:20180522203459j:plain


テーマを文章に落とし込む技術

伝わる文章を書くには、軽んじがちだが、作文の基礎の基礎である「てにをは」をしっかり使い分けることが大切だ。日記やブログなどで、見えたものや感じたものを積極的に文章に書き残し、言語化する癖をつけよう

見て、感じるためには、意識的に多ジャンル本を読むことや、意識的に街に出ることがおすすめ。散歩・美術館・博物館・勉強会・読書会などに出かけてみよう。実際に文章を書いたら、Webや電子書籍、オンデマンド出版などで、文章を発表し、読み手の反応を見ながら文章修行をしよう。その際、特定の人を傷つける表現には、十分注意して欲しい。

文章作成に役立つおすすめテキストも紹介f:id:tech-dialoge:20180522203606j:plain


日本語の作文技術』『実戦・日本語の作文技術』 本多勝一著(朝日新聞出版)

演劇入門』 平田オリザ著(講談社

物語の構造分析』 ロラン・バルト著(みすず書房

考える技術・書く技術』 バーバラ・ミント著(ダイヤモンド社


アクティブ・ライティング
を実践するには、書くきっかけを自己内部から徹底して掘り起こし、積極的な情報収集と内省をひたすら繰り返すことが必要。日記やメモなどでもよいので、とにかく考えて「書く」癖を付けよう。文章は心と体からできている。考え、動いていれば、文章技法は、後からついてくる

(実践メソッドは、後編で)

前田 真理