本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

カントの思想探検に最適な名著:『プロレゴーメナ』(エマニュエル・カント)

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強烈に素晴らしい書物と巡り会った。
『プロレゴーメナ』は、カントが自ら語っているが、代表作『純粋理性批判』の手引き書のようなものである。
200ページちょっとで読め、かつ、内容密度が大変に濃く、読み応えがある。

形而上学の入門書としても読める
形而上学とは、自然を超越したもの、自然の上にあるメタなものを追求する学問である。
この形而上学を「非経験(ア・プリオリ)の世界」と「経験の世界」という2つの世界に分離して解釈したのが、カントの最大の発見であり、発想の転換である。
これが俗に言う、カントの「純粋理性」である。

ア・プリオリの世界とは端的に言うと、「時間」と「空間」の世界。
時間と空間は、人間が個人的な学習や経験を経ることなく知り得るものである。
コップが高いところから落ちれば割れるし、時間が経てば草花は成長し枯れる。
アプリオリな認識とは、こうした共通の認識である。

このように、世界には個人的な学習や経験を超越した(ア・プリオリな)事物が存在する。
人間の経験と共に、その経験を超越したア・プリオリなものを、形而上学の範疇に入れ、形而上学を再構築し、理解しましょう、というのがカント理論の骨格。
カント以前は、形而上学とは個人的な経験や空想が唯一の判断基準で、ともすると形而上学は学問を離れオカルト的な領域にまで手足を伸ばしていた。
カントによると、「『純粋理性批判』が普通の学校形而上学に対する関係は、科学が錬金術に対する関係、あるいは天文学が予言をこととする占星術に対する関係とまさしく同じである。」という。

カントの純粋理性の枠組み
カントの純粋理性に基づいた形而上学の枠組みは、以下の構造になっている。

経験の伴わない(アプリオリな)純粋直観の世界
 ↓
感覚(感官)の世界
 ↓
経験的直観の世界
 ↓
現実的印象の世界
 ↓
経験の世界
 ↓
悟性(理解)の世界
 ↓
統合された経験の世界
 ↓
真理

すべての出発点を、感覚や感性を超越したア・プリオリな純粋直観の世界とすることで、人間の恣意や性癖、空想といった、理性を離れた世界のみで事物を把握するという事態が回避された。

これが、カント哲学のもたらした脱構築であり、最大のパラダイムシフトである。

ヘーゲルフッサールなど、カント以降の大哲学者はほぼ全員大なり小なり影響を受けている。
身体(時間)と経験(空間)という認識の方法は、フロイトがかなり影響を受けており、世界人類を視野に入れたコスモポリタンな思想や「批判」を軸にした分析の手法はマルクスが強く影響を受けている。

上記の、『プロレゴーメナ』でカントは純粋理性の世界を教育的に解説した。
そして次に、『人倫の形而上学の基礎づけ』(中公新書に併載されている)で、カント理論をいかに現実社会に適用するのかを、具体例を交えて語っている。

カントの入門書として、ぜひ一読をお勧めする。

三津田治夫