この作品は、「芸能人だから……」という先入観を完全に捨てさせてくれた。
文芸作品としての価値が高い。
いままで、文壇や版元が、芸能人の出版界への流入を意図的にシャットアウトしていたのではなかろうか。
つまり「こっちの領域には来ないでくれ」と。
以前私が、ももクロ主演の映画『幕が上がる』に感動し、それを人に伝えると、「いつから三津田はモノノフになったんだ」「たかがアイドル映画ではないか」と言われたことは記憶に新しい。
私には、単に「作品」しか目に入らなかった。
クリエイターがアイドルであれ作家であれ芸術家であれ、いいものはイイし、だめなものはダメ。
作品を作ったクリエイターに、職業や性別、人種、年齢、貴賎の、境界線はどこにもない。
芸能人の名前やゴシップ性でのみ本を作り、売り切るという、出版社がかつて持っていた悪癖こそが、「芸能人だから……」という、著作に対するネガティブな先入観を植え付たのではなかろうか。
これは出版界の罪である。
で、話は加藤シゲアキ『ピンクとグレー』に戻る。
本当にこの作品は20代の若者が書いたのだろうか。
文体と語彙に高い知性を感じる。
この作品はいわば、ポオの名作『ウイリアム・ウィルソン』の現代版だ。
内容詳細はネタバレになるから、Amazonなどに譲ることにする。
『閃光スクランブル』もぜひ読んでいただきたい。
こちらも傑作。
三津田治夫
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