10月4日(木)、株式会社スターダイバー セミナースペースにおいて、同社代表取締役の米津香保里氏を講師に、「本をプロデュースするほど楽しい仕事はない! ~ゼロからわかる出版プロデューサー入門~」と題し、第13回本とITを研究する会セミナーを開催した。
◎講師をつとめる株式会社スターダイバー代表の米津香保里氏
駆け足ながらも、テンポの良い解説と簡潔に抑えらえた要点で、ワークも含めた高密度な勉強会を以下内容で共有することができた。
1. 出版プロデュースほど面白い仕事はない
2. 未来の著者と出会うには?
3. 著者を口説く
4. 本の企画を作ってみよう
5. 出版社の編集者をその気にさせよう
6. 本づくりが始まったらなにをする?
7. 出版! 新しい景色が広がる世界
8. 出版プロデュースとお金の話
9. 企画書ワーク
10. 成功する出版プロデュース7つのポイント
本会の根幹は、「出版プロデューサー」のビジネススキルは出版などのコンテンツ制作において重要性が高く、さらには出版以外の、人や言葉にかかわるあらゆるビジネスに適用できる可能性がある、という考えのもとにある。
そのうえで同氏は、著者と編集者の間に立つ出版プロデューサーとしてのビジネスを主軸に、企業や経営者のブランディング、作家、ライターを生み出す学びの場の運営を手掛けるなど、幅広い活動に取り組んでいる。
「作家さんからコンテンツを引き出す産婆役」としての出版プロデューサー
出版プロデューサーとは、編集者と著者との間に立ってコンテンツの質を高める立場にある。企画を作り、著者を探し、著者と編集者を説得し、執筆の際の著者の伴走者や相談役になるという、「作家さんからコンテンツを引き出す産婆役」として重要な役割を演じる。
本来、「作家さんからコンテンツを引き出す産婆役」は、出版社に属する編集者の役割だった。それが読者の嗜好の多様化や専門性の細分化、編集者が企画の一点一点を細かくフォローすることが困難などの状況から、編集者が本づくりを一手に引き受けてコンテンツを作り上げることが難しくなってきた。
すでに本づくりの分業化が進んだ欧米では、編集者と著者との間に出版プロデューサーが立つというビジネススタイルが確立している。このような環境で、自費出版から世界的ベストセラーが生まれる(たとえばルトガー・ブレグマン著『隷属なき道』)など、さまざまな高価値コンテンツが発信されている。
さらに、この「作家さん」という単語を「経営者」や「ライターさん」「デザイナーさん」「イベント主催者」など、「なにかをアウトプットしたい人」に置換することで、出版プロデューサーの技能から新たなビジネスモデルが生まれる可能性をも内包する。このような未来も本会では示唆されている。
勉強会の後半では二人一組になって「企画書ワーク」を実施。短時間で相手の興味や関心、活動内容を対話(インタビュー)により引き出し、それをもとに、対話相手をテーマにした書籍の企画書を作っていく演習である。対話のポイントとして、「語り手の自慢話を引き出す」を、講師の米津香保里氏は強調。語り手が目を輝かせ、自分の夢や至高体験を語り出したら、それこそがコンテンツの種になる。出版プロデューサーはここに着目し、枝葉を広げ、企画を磨き上げていく。
発表も含めて20分ほどの短いワークであったが、そのまま書籍や雑誌、Webの企画になるのではというレベルのユニークな企画案がいくつも出てきた。コミュニケーションの時代、対話の時代といわれるが、ワークを通して見方を変えると、本当のコミュニケーションとはなにか、相手の本質に迫る真の対話とはいったいどのようなものなのかを、改めて考えさせられた。
出版プロデューサーが日本のビジネスを活性化させる
私は司会進行役として同席し、23年間編集者として活動してきた立場からも、いろいろな気付きや学び、忘れかけていた本づくりの基本、耳の痛いこと、再確認することなど、得るものが多かった。また、いまの出版界にこそ重要な「作家さんからコンテンツを引き出す産婆役」としての出版プロデューサーの価値や、出版社の外にいるからこそ発揮できる価値、他業種への応用可能性など、気づきも多かった。
書籍やコンテンツは、作家さんとともに、編集と制作の力で生み出される。それが営業や物流、オンラインの力で受け手のもとへと届けられる。これをつかさどるのが、経営の力である。そして、出版社など企業の外から作家さんに働きかけ、プロジェクトを駆動し、ビジネスとしてコンテンツの価値を最大化するのが、出版プロデューサーの役割である。
出版プロデューサーの仕事が日本のコンテンツ業界にビジネスとして定着し、コンテンツを活性化し、ひいてはそのビジネスがさまさまな業界に適用され、日本が元気になることを期待したい。私個人としても、そのような未来が訪れることを心から期待している。