AIやディープラーニング、ブロックチェーン、画像・音声認識技術、自然言語処理など、さまざまな要素技術が飛び交う複雑化した社会で、いま、ITエンジニアの持つべきキャリアやその考え方はどういったものか。そして、ITエンジニアが悔いのないエンジニア人生をおくるにはどうしたらよいのか。
人材スカウト事業を27年間営む、テクノブレーン株式会社会長の能勢賢太郎氏に話を伺った。
◎テクノブレーン株式会社会長の能勢賢太郎氏
---- ●この事業を始めたきっかけ
はじめに入った人材スカウト会社でIT担当だったこともあり、1992年に元上司と操業しました。IT特化型の人材スカウトという業種は日本で当時としては珍しかったです。
1990年代の初頭はミニコンやオフコンが流行っていました。
クライアント・サーバーから、インターネットに向かっていく、ITがワサワサしていた本当に面白い時代でした。管理工学研究所やジャストシステム、ノベルなど、元気のいい会社が多かったですね。
---- ●経営者としてITエンジニアに伝えたいこと
ITエンジニアにはいつも、「技術の波を捉えること」が大切だとお伝えしています。
社内のテクノロジーと社外のトレンドの差分をつねにウォッチするという習慣が大切です。
知らぬ間に技術トレンドに取り残されてしまうITエンジニアは多いです。
社内ばかりに目を向けているとそうなりがちです。
とくに、中高年は安定志向が強いと感じます。
社会にアンテナを張ることが大切です。
もう一つお伝えしたいのは、信念と覚悟です。
技術の変化は急速です。
知らないうちに技術のトレンドが変わっていることは多々あります。
自分はどういったエンジニアとして、どういった技術で生きるのか。
自問自答し、プロのエンジニアとして選んだ道を自覚できるようになっていただきたいです。
最後に、「自分のピークを見極めましょう」とはよくお伝えします。
エンジニアが最高に忙しいときが「ピーク」です。
そんなときには、自分のキャリアをじっくり考える余裕はありません。
多くの場合、エンジニアのピークは30代後半。
体力も知力も最高の時期です。
このときのエンジニアの売値は最も高いです。
いったん手を休め、自分のピークを見極め、一つ視点を上げて自分のキャリアを見つめなおしてください。
---- ●失敗しないキャリアづくりの考え方
キャリアづくりに「失敗しない」はありません。
むしろ失敗は学習のチャンスです。
逆に、成功は怖いです。
失敗に気づかず5年10年と時間が経過しているのは危険です。
キャリアづくりは、失敗して当たり前と思ったほうがいい。
失敗は、課題を発見できる絶好のチャンスです。
失敗を課題発見へと転換するには、自分の置かれた状況を客観的に見ることが大切です。そのためにも、情報収集してください。
情報収集には異業種との交流や専門の人材担当者との面談も有効です。
情報収集にサーチエンジン検索を使う方は多いですが、これはお勧めできません。
自分の好みにマッチした情報ばかりを取りがちで、正確な情報が得られません。
人間系の情報収集をお勧めします。
そのうえで、自分なりのキャリアづくりの選択肢を持てるようになっていただきたいです。
---- ●キャリアプランとライフプランの正しい見方・作り方のヒント
エンジニアにとってキャリアプランとライフプランは表裏一体です。
それをふまえたうえで自覚していただきたいのは、「技術は消滅する」です。
1980年代、世界一だった日本の半導体産業は一瞬にして消滅しました。
世界中の誰もが、日本の半導体産業を崩せる国はないと思っていました。
それが一瞬です。
これはいまのソフトウェア産業とまったく類似していますね。
昔は中国やベトナムが日本のオフショア開発先でしたから。
いまでは単価が上がり、その逆です。
ベトナムが日本に発注している時代です。
テクノロジーは根底から変わるものです。
今日のことが明日も続くことは、テクノロジーの世界にはまずありません。
テクノロジーの変転を受容し、その道のプロとしてあえて斜陽産業に身を置く判断もありです。
そうした覚悟があるか否かが、エンジニアとして納得した仕事が続けられるかを決めます。
日本の半導体産業は他国に崩されたとはいえ、大手メーカーで半導体はまだ小さく生産されています。そうした現場でプロとして覚悟し生き残ることも、一つの選択肢です。
COBOLのエンジニアにも突出した技術を持つ人への需要はまだあります。
これらは極端な例ですが、エンジニアが決めるべき覚悟の、わかりやすい例です。
そのためにも繰り返しますが、情報収集は大切にしてください。
企業側にも、技術に対してどういった思いでエンジニアを採りたいのか、明確にしていただきたいです。人事部の採用告知だけでは、担当部署の長がどういった思いでエンジニアを採用したいのかまではわかりません。だから私は、その本心を、採用部署に出向いてヒアリングします。
エンジニア側にも、キャリアに対する自覚を高めていただきたい。
自分がどういった思いでエンジニアリングに向き合っているのか、自問自答してください。
企業の数だけ技術への思いはあります。
ですがそれがエンジニアに伝わっていないケースが多い。
企業とエンジニアの双方が、自らのエンジニアリングへの思いを明確にしていただきたいです。
エンジニアは、自分の思いを受け止めてくれる会社で働いてください。
企業は、自社の思いを受け止めてくれるエンジニアを採用してください。
これが互いにとっての最高の幸福です。
互いの思いが結びつくことは、転職マッチングではまず不可能です。
エンジニアリングに対する互いの思いを深め、気づきのきっかけを与えるのが、私たちの役割です。
---- ●近年のエンジニアに求められるスキルの傾向
エンジニアに対する高い技術への企業の要求は年々高まっています。
たとえば、AIやブロックチェーンの技術を扱うには、数学の知識が必須です。
私たちが企業からのリクエストに応じ、エンジニアさんにお声がけする際には、学術論文や講演内容を精査することも増えてきました。そのうえで、リクエストに近いスキルを持ったエンジニアさんにお声がけしています。
最近は理系の大学院生に人気が高い傾向があります。
高い技術への要求の高まりがこうした形で顕在化しています。
---- ●理想とするエンジニアのキャリア
エンジニアのキャリアに特定の理想はありません。
「この要素技術を手にすれば業界で生き残れる」という公式もまずない。
半導体をはじめ、消え去っていく技術をまのあたりに見てきました。
技術の流れは誰にもわかりません。
社内外の情報を丹念に収集し、その情報をもとに、考える癖をつけてください。
エンジニアごとに、キャリアは千差万別です。
エンジニアとしてどう働き、生きるかを考えることで、自分個人の理想を見つけてください。
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能勢会長とのインタビューで印象に残っているのは、エンジニアのキャリアにセオリーや理想はなく、千差万別。エンジニアの数だけキャリアがある、という言葉だった。それゆえに考えること、自問自答をすることが大切だと強調されていた。
だからこそ、エンジニアには「本」を読んでもらいたい。本は自問自答を促す最高のツールである。2000円も払えばビジネス書は手に入る。文庫本なら1000円もあれば手に入る。納得がいく最高のキャリア構築のためにも、エンジニアには、実用書でも歴史書でも文学でも哲学でも詩でもなんでもよい。自分の心を動かし、自問自答を促す、自分だけの書物と数多く出会っていただきたい。
◎キーパーソン略歴
能勢賢太郎(のせけんたろう)
テクノブレーン株式会社会長。
1960年 パリ祭の日東京に生まれる。
大学卒業後、大手証券会社に入社し、バブル絶頂を迎える1988年に同社を退職。
日本で老舗の人材紹介会社へ転職し、ハイテク、金融、不動産業界を担当する。
1992年 平成不況真っ只中、テクノブレーン設立とともに入社。
2005年1月 同社代表取締役社長に就任。
2019年3月 同社会長に就任。
企業のコンサルティングを担当。
クライアントに対して採用戦略を立案・提案し、研修やセミナーなどを企画・運営する。
また、新規開拓の営業活動や広告代理業も行う。
テクノブレーン株式会社
https://www.techno-brain.co.jp/