本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

壮大なテーマと詳細なデータで読者を「次世代の大使」へと導く、リーダー必読の啓蒙書:『海の歴史』(ジャック・アタリ著)(後編)

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前編から続く)

後半は、海とともに人間がいかに生き残り、いかに成長するのかを提言する。
歴史や政治経済は組織のトップダウンで決めるものではなく、ボトムアップで個人が作り上げていくという姿勢を、著者は一貫して崩さない。
そのうえで、一人一人が人類の「次世代の大使」として生きよ、というメッセージを投げかける。
つまり、一人一人が海との共存を自覚し、利他的に生きることが、人類存続のための最善の生き方である。この著者の訴えは真剣に受け止めたい。

海とは、リーダを育てるインフラである
とくにこの本は、リーダーに向けて書かれている。著者は一人一人を、人生を自律的にコントロールして生きる「リーダー」としてとらえている。
海を主眼に生きることで、民主的で自律的なリーダーが育つと指摘する。
そして、「海に対して利他的に生きよ」と主張する。
海を人間のための手段として占有するのではなく、海を共有し、海を生かすために生きるのである。

ではなぜ、海を主眼に生きることでリーダーが育つのか。
海には死とサバイバル、権力があると同時に、海は生と冒険、大胆さ、自律、協調、自由を包摂する。
このような場で勝ち抜き、生き抜くにために、倫理観や生命観、大局観というマインドセットが育まれる。そのマインドセットのもとで、起業家精神イノベーションが生まれると著者は述べる。

そうした個人のマインドセットのあり方を出発点に、海のために国際社会はなにをなすべきか、国家はなにをなすべきか、企業はなにをなすべきかなど、海を守るためのソリューションが細かく提示されている。

スケールの大きな思考と知識が身につく
ここまで、本書の大枠を説明したが、膨大な史実と詳細なデータに関しては、この本を読んでご確認いただきたい。
そして、海による地球史・人類史・世界史を整理し、よりよく生きるためのインサイトを手にしていただきたい。
読み物としても実に面白く仕上がっているので、わくわくしながらスケールの大きな思考と知識を身につけることができる。

変化が激しく、多様性に富むいまの時代、リーダーを目指す人、すでにリーダーの立場にある人は、本書を読むことで、全体性を重視した視点と大局観が身につく。
そのうえで「次世代の大使」としてのリーダーシップに磨きがかかることは間違いない。

最後に本書から、著者アタリ氏の言葉を引用する。

「地球は、宇宙という荒波を漂う船のようなものなのだ」

三津田治夫

 

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