本とITを研究する

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全建物がアートにより構成。バウハウス旧宅ミュージアム「ハウス・ラーベ」(Haus Rabe)を訪問

かつては「小パリ」と呼ばれたドイツの音楽や文芸の街、ライプツィッヒ(Leipzig)から交通機関で1時間ほど南下すると、小さな町ツヴェンカウ(Zwenkau)がある。ツヴェンカウの36年来の友人コリンナの旧宅で現ミュージアム「ハウスラーベ」(Haus Rabe)にお邪魔してきた。

観てのとおり、バウハウスの古い建築。
友人の祖父のエーリッヒ・ラーベさんがバウハウスの作家たちと親しく、建築家のアドルフ・ラーディングに依頼して1930年に完成したのがこのHaus Rabeである。

室内には数々の絵画や彫刻、ダンス作品を生み出したバウハウスの巨匠、オスカー・シュレンマーの彫刻が多数備え付けられており、もともとは診療所兼住宅であった。
友人は脳外科の医師で、彼女のお母様もお兄様もおじいさまも皆様医師という、医師の家系である。

以前から泊まりに行く約束をしていたが、なかなか訪問は実現しなかった。
古建築ゆえメンテナンス費用がかさみ、東西ドイツ統一後にこの家を旧西ドイツの資産家に泣く泣く売却。バウハウス宅宿泊の夢は実現しなかった。

2011年2月に友人と一度ここに訪れたが、そのときはすでに他者の手に渡っていた。外観しか見ることができなかったが、大戦時にイギリス軍の空爆でバルコニーが破壊された話や、外観の斬新さから地元では変わり者扱い(いまでいう楳図かずおの家のような見られ方だったはず)されていたことなど、立派な建築だと感心しながら町と歴史にまつわる友人の解説を聞いていた。

そして今回、友人にドイツ行きのことを連絡したら「旧宅が博物館になったから見に行こう」と嬉しいお誘いをいただいた。
さらに、「休館日なのだが“ワタシが特別に開けさせる”」というので、特別に中に入れていただいた。
友人旧宅Haus Rabeは、現在は博物館として財団により手厚く管理、保管されている地域の文化財になっていた。

現在ではHaus Rabeにアーティストを招いて講演会を開催したり、ワインパーティや結婚式をやったりなど、文化財であるとともにコミュニティの中心部になっている。

写真のいちばん右側に写っているのがライプツィッヒ地域文化財団マネージャーのニナ・シュレッケンバッハさん。
彼女から友人に一通のメールが届いたことから、財団と友人との関係が始まったと語っていた。
Haus Rabeの保存に情熱を燃やし、私が訪問した最中も、次のイベントや改築のことなど、庭のベンチで友人と2人で1時間以上打ち合わせをしていた(海外からの来客の私は放置で……)。

Haus Rabeの建物や庭を行き来しながら、友人の子供時代の懐かしい思い出を聞くのが楽しかった。
現在は水がない小さな池の前には紅葉が植わった日本風ミニ庭園があり、池には金魚が泳いでいたという。子供時代によく遊んだ真っ赤なブランコは、落雷による倒木でブランコを支える太い支柱が折れ曲がり、いまは使えない。

Haus Rabeをあとにし、近所の教会に案内された。祖父のエーリッヒ・ラーベさんと祖母、お母さまとご先祖がそこに葬られている。友人ご先祖の文化に対する感性と知性と勇気に深く敬意を表し、手を合わせてきた。

いまを生きるリアルなバウハウスを体感できる貴重な場だ。
ぜひ、訪れていただきたい。

Haus Rabe
https://haus-rabe.de/en/

※3月~10月の期間限定による開館(事前予約が必要です)/入館料は11ユーロ

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三津田治夫