本とITを考える

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本やニュースを読みながら、ITの未来を考えていきます

努力が花開く、黄金時代のサラリーマン文学:『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)

f:id:tech-dialoge:20171206130415j:plain

数年前ある著者さんから、「これは面白いから」と薦められて手に入れ書棚に放置されていた本を、一気に読んでみた。結論だけ言うと非常に面白く、ビジネス小説の枠組みを超えた大作であった。

舞台は1970年代を思わせる工場。著者が唱える、ToC、つまり、「ボトルネック(制約)を味方に付ける」という生産性拡大のための理論(トヨタの「カイゼン」にかなり近い)を、とある工場長の視点で面白く書き上げている。恐らく、数名の小説家と組んで書いたのではないかという、絶妙なストーリーテリング

工場を閉鎖するぞとなかば脅迫じみた上司からの宣告に戦々恐々とする工場長や、数ヶ月の奮闘でカイゼンが達成し工場長は見事出世。同時に部下も1階級ずつ出世するという、ある意味「みんなの努力が花開く、のどかな時代のサラリーマン像」が、人間模様や会社組織との関係において鮮明に描写されている。

生産性拡大の対象がロボットやプロセスであったりと「システム」にフォーカスされ、人格や属性には目を閉じている点が興味深かった。当たり前といえば当たり前だが、仕事をしくみ化しスケールさせるためには、属人化や人格、精神論による生産性の向上などはあり得ないということである。

いまとなっては工場における生産性のカイゼンは飽和状態に達しており、近年のIndustrie4.0やIoTの登場により、他社の工場どうしで生産物や情報を共有したり、低価格でプロトタイプの生産を請け負う工場や3Dプリンタの登場など、生産のパラダイムは大きく様変わりした。そうした様変わりの差異を検証するという意味でも、この『ザ・ゴール』は読むに値する。

近所の図書館でこの本を偶然見つけたところ「英米文学」の棚に置かれていた。確かに、これは文学だ。

三津田治夫