
仕事の仕組みを図に描く。すると、一体何が見えてくるのだろうか。
2026年10月20日に開催された『やさしいデータベース設計』の出版記念セミナー「実践編 ~手を動かすと、業務が見えてくる。モデル作成ハンズオン~」 では、実際に手を動かしながら、仕事で使う情報を整理し、情報同士の関係を図に表す、業務設計のための方法を学んだ。
講師を務めた著者の衛藤豊氏は、データベース設計の基本的な考え方を説明し、Web上で使える「TMモデリングミニツール」を使って、注文システムのモデル図を作成する方法を実演した。

今回のセミナーで印象的だったのは、データベース設計とは、単にパソコンで表を作ることではないという点である。
仕事の流れを理解し、情報のつながりを整理することが、システムづくりの出発点になるのだ。
業務を理解することからデータベース設計は始まる
データベースとは、仕事で使う情報を整理して保存し、必要なときに取り出せるようにする仕組みである。
たとえば、書店では、書籍の名前や価格、在庫数、注文内容、販売記録など、さまざまな情報を管理している。
こうした情報をデータベースに保存しておけば、在庫を確認したり、商品の販売状況を調べたりできる。
しかし、いきなりパソコンで表を作り始めるのが正しい方法とは限らない。
まず必要なのは、どのような仕事があり、その仕事を進めるためにどのような情報が必要なのかを理解することである。
仕事の仕組みを整理しないままシステムを作ると、必要な情報が抜けたり、同じ情報を何度も入力したりする問題が起きやすい。
反対に、業務の全体像を整理しておけば、必要な情報や情報同士の関係が明確になる。
つまり、業務にフィットした質の高いシステムを作るためには、最初に仕事そのものを理解することが大切なのである。
情報を「リソース」と「イベント」に分ける
セミナーでは、仕事で扱う情報を「リソース」と「イベント」に分けて考える方法が紹介された。
リソースとは、継続的に管理する対象のことである。たとえば、会員や商品などが該当する。
一方、イベントとは、仕事の中で発生する出来事である。注文や納品などがそれに該当する。
書店を例に考えてみよう。
・会員は、継続的に管理する情報である。
・商品は、販売する対象として管理する情報である。
・注文は、会員が商品を購入しようとする出来事である。
・納品は、注文された商品を届ける出来事である。
このように情報を分類すると、管理すべき「対象」と、仕事の中で起きる「出来事」を区別できる。
すると、会員が注文し、その注文に基づいて商品が納品されるという仕事の流れも理解しやすくなる。
一見すると難しそうなデータベース設計も、身近な仕事を例にして考えると、少しずつ仕組みが「見えてくる」のである。
モデル図を描くことで情報のつながりが見える
今回のセミナーでは、「TMモデリングミニツール」というWebツールを使い、注文システムのモデル図を作成した。
モデル図とは、仕事で扱う情報を箱で表し、それぞれの関係を線でつないだ図である。
情報を文字だけで並べるのではなく、目で見て理解できる形にする。
作成の基本的な手順は次のとおりだ。
1. 注文番号、会員番号、商品コード、納品番号など、必要な情報を洗い出す。
2. 会員や商品などのリソースと、注文や納品などのイベントに分類する。
3. それぞれの情報を箱として図に配置する。
4. 情報同士の関係を線でつなぐ。
5. 情報のつながりに問題がないか、全体を見直す。
たとえば、「会員」と「注文」の箱を線でつなぐことで、会員と注文が関係していることを表せる。
このように図にすると、情報がどのようにつながっているのかがわかりやすくなる。
また、どこにもつながっていない情報や、関係が不明確な部分にも気づきやすい。
セミナーでは、講師の実演を見るだけでなく、参加者自身もツールを操作し、モデル図の作成に取り組んだ。
実際に手を動かすことで、知識を学ぶだけではわかりにくい設計の考え方を体験できる。
情報同士の関係を正しく整理する
モデル図を作るときには、箱を並べるだけでなく、情報同士のつながり方を正しく表すことが重要である。
たとえば、一人の会員が何度も注文することは珍しくない。
この場合、一人の会員に対して複数の注文が存在する。
このような関係を「1対多」と呼ぶ。
また、一つの注文に複数の商品が含まれる場合もある。
書店で本を3冊注文したとする。
このとき、注文の情報だけでなく、どの商品を何冊注文したのかという情報も必要になる。
注文と商品をどのようにつなげれば、必要な情報を正しく管理できるのか。
こうした点を考えることも、データベース設計の大切な作業である。
セミナーでは、リソース同士、リソースとイベント、イベント同士、同じ種類の情報同士など、さまざまな関係を図に表す方法について説明された。
情報同士の関係を正しく整理すること。
これこそが、現実の仕事を正確にシステムへ反映させることにつながるのである。
最初から複雑に考えすぎないこと
仕事の情報を整理していると、さまざまな分類や例外が見つかることがある。
たとえば、会員には個人と法人があるかもしれない。書店であれば、書籍のISBNやレシート番号、在庫情報、販売担当者なども管理する必要がある。
こうした情報をすべて最初から細かく分類しようとすると、モデル図が複雑になり、何が重要なのかがわかりにくくなる。
そこで講師が勧めたのは、まず基本的なルールに従って図を作る。そして、必要な情報を追加していくという方法だ。
最初に業務の基本的な仕組みを整理し、そこから細かな違いや例外を考える。
この考え方は、データベース設計だけでなく、物事を整理するときにも役立つ。
最初から完璧を目指すのではない。
全体の骨組みを作り、そこから細部を整えることが大切なのだ。
仕事の変化にも強い、モデル図の力
モデル図を作るメリットは、データベースを作りやすくなることだけではない。
情報を整理することで、同じ情報を何度も登録する無駄や、必要な情報の不足を発見しやすくなる。また、情報を適切に整理する「正規化」という考え方にもつながる。
さらに、会社の仕事のやり方が変わったときにも役立つ。
これまで一度で納品していた商品を、複数回に分けて納品するようになったとしよう。
その場合、注文と納品の関係をどのように管理するかを見直す必要がある。
あらかじめ業務全体をモデル図にまとめておけば、変更の影響を受ける情報や関係を把握しやすくなる。
モデル図とは、システムを作るための設計図である。同時に、仕事全体を理解するための地図でもあるのだ。
AIが発達する時代だからこそ、業務を理解する人間の力が重視される
セミナーでは、AI技術の進歩や、仕事、書籍市場への影響についても話し合われた。
AIを活用すれば、情報の整理や資料の作成などを効率よく進められる。
しかし、AIが作った内容が正しいかどうかを判断するには、システムに携わる人間が仕事の仕組みそのものを理解している必要があるのだ。
注文と納品の関係を正しく理解していなければどうなるだろう。
AIが作ったデータベースの設計図に問題があっても、気づくことができない。
だからこそ、業務の流れを分析し、情報同士の関係を整理する人間の力は、AIが発達する時代にも重要なのである。
講師の衛藤氏は、参加者が自分の会社で実際に扱っているデータを使い、モデル図を作成することを勧めた。
また、モデリングを学ぶ「TMの会」などの学習コミュニティへの参加を通じて、継続的に学ぶことの大切さも伝えた。
実際の仕事を題材にして学ぶこと。
これにより、知識を現場で使える力へと変えていくことができるのだ。
システムを作る前に、業務を見える化しよう
今回のセミナーを通じて学んだのは、データベース設計の出発点は、パソコンの操作ではなく、仕事の仕組みを理解することだという点である。
会員、商品、注文、納品などの情報を分類し、それぞれの関係を図に表すことで、業務全体をわかりやすく整理できる。
結果、情報の重複や不足を防ぎ、仕事の変化にも対応しやすいシステムを設計できる。
データベース設計という言葉には難しい印象があるかもしれない。
しかし、基本的なルールを学び、身近な仕事を題材にして手を動かせば、少しずつ理解を深めることができる。
そしてAIを活用する時代だからこそ、仕事の本質を人間が理解し、必要な情報を見極め、正しく整理する力がますます求められる。
まずは、自分の身近な仕事を、自分の目で観察してみよう。
次に、どのような情報があり、それぞれがどうつながっているのかを、自分の頭で考えてみよう。
そこから、業務を見える化する第一歩が始まる。
関連動画:やさしいデータベース設計ハンズオンセミナー20261020












