本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

読書会レポート

読書会でのメンバーの発言と出現した見解や新しい読み方をまとめました。

2015年1月25日(土)開催:第1回・飯田橋読書会の記録:『トランスクリティーク』(柄谷行人著)

都内で読書会を開催。参加者は五名。テーマは、カントと、柄谷行人の『トランスクリティーク』。 話題のほとんどはカントの認識論的形而上学でした。 次回は、西洋哲学と東洋哲学を横断したテーマにしたトランスクリティークを試みたいという要望から、2月22…

2015年4月4日(土)開催:第6回・飯田橋読書会の記録:『モモ』(ミヒャエル・エンデ著)、『綿の国星』(大島弓子作)

今回のテーマは2冊ということで、ミヒャエル・エンデの『モモ』と大島弓子の『綿の国星』の組み合わせだった。前回、「次回のテーマ」を考える際、参加者から『モモ』の声があがり、「ならば『綿の国星』も」と、どんな関連が見出されたのかわからないが、こ…

2014年5月24日(土)開催:第3回・飯田橋読書会の記録:『婆娑羅』(山田風太郎著)、『異形の王権』(網野義彦著)

今回のテーマは、「山田風太郎著『婆娑羅』と網野義彦著『異形の王権』を読み解く」でした。 乱世の時代とはなにか、そもそも南北朝とはなんだったのか、後醍醐天皇は怪人だった、などの意見が2時間飛び交いました。博覧強記の先輩方の薫陶を受け、私の脳は…

2015年7月4日(土)開催:第7回・飯田橋読書会の記録:『言葉の海へ』(高田宏著)

今回のテーマは高田宏著『言葉の海へ』でした。西洋に比肩する日本初の国語事典『言海』を編纂した、大槻文彦の評伝小説。 前半の8割が幕末や明治維新を舞台にした人間模様、戦争の物語。後半の2割が辞書作りの話。この辺が『船を編む』の原案になっている。…

2024年5月25日(土)開催:第47回・飯田橋読書会の記録『「空気」の研究』(山本七平著) ~空気という認知バイアス支配の構造を考える~

ひと昔前「空気読めよ」という言葉が流行った。今回取り上げた『「空気」の研究』(1977年、山本七平著)は、まさにこの流行り言葉の先鞭をつけた作品である。本読書会ではおもに、古典の文学や評論、思想を中心に、誰もが読むベストセラーではないが、一定…

読書会に参加する効能について ~未知・差異との出会い、感動~

近ごろ、読書や教養というキーワードを目にする機会が増えてきた関係か、「読書会」に関する質問や相談をよく受ける。世の中にあふれる専門用語が急速に増え、いわゆる「価値観の多様化」が、本や教養への関心の高まりの原因であるようだ。ここでは、読書会…

2024年2月24日(土)開催:第46回・飯田橋読書会の記録:『少年が来る』(ハン・ガン著) ~現代の死者の書~

今回は、読書会初の韓国文学への挑戦である。 2016年、イギリスのマン・ブッカー国際賞を受賞した作家、ハン・ガンによる『少年が来る』を取り上げた。 ハン・ガンは1970年生まれ。本作は、彼女の生地、かつての全羅南道道庁所在地の光州で起こった「光州事…

第17回・飯田橋読書会の記録:『山月記』『名人伝』『悟浄出世』『文字禍』(中島敦 著) ~東洋のボルヘスが描く数々の名品~

中島敦といえば明治・大正・昭和と33年の短い人生で3つの時代を生きた日本を代表する作家である。中学校の教科書にも登場した記憶がある方も多いはずだ。 今回取り上げた短編の名手中島敦の『山月記』『名人伝』『悟浄出世』『文字禍』は、いずれも中短編。 …

第45回・飯田橋読書会の記録:『アラブが見た十字軍』(アミン・マアルーフ著)

2023年ラストの飯田橋読書会は、『アラブが見た十字軍』(アミン・マアルーフ著、 筑摩書房刊)を取り上げた。アラブが語られる際に、私たちの耳目に入る情報は西洋からのものがほとんどであるが、本作はアラブがいかに西洋から侵略されたのかという逆の視点…

第44回・飯田橋読書会の記録:『百年の孤独』(ガルシア・マルケス著)

前回の『昨日の世界』(シュテファン・ツヴァイク著)と打って変わって、今回は南米コロンビアのノーベル文学賞作家、ガルシア・マルケス(1928~2014年)の代表作、『百年の孤独』(原作1967年発表。日本発表1972年)を取り上げた。 架空の町マコンドを舞台…

第43回・飯田橋読書会の記録:『昨日の世界』(Ⅰ・Ⅱ)(シュテファン・ツヴァイク著)

今回の課題図書は、2度目に取り上げることになったオーストリアの作家、シュテファン・ツヴァイク(1881~1942年)の自伝、『昨日の世界』(1942年)であった(ちなみに前回は『人類の星の時間』)。 定例読書会の課題図書として私が初めて選書した作品で、…

第42回・飯田橋読書会の記録:『世界史の誕生』(岡田英弘著)

歴史とはなんだろうか?歴史とは、過去に記述された文献や、人類が作り上げた物体の蓄積である。そして歴史学とは、これらを採集・解釈・再構成し、いまに生きる私たちの知恵として役立てるための学問である。また、歴史にはエンタテイメントの要素もある。…

第41回・飯田橋読書会の記録:『舞姫・阿部一族』(森鴎外著)

森鴎外と聞くと、あまりにも古い作家だったり、国語の教科書を思い出したりなどと、なんだか遠い、お勉強の世界にある作家だというイメージを持つ人が少なくないかもしれない。 今回取り上げる『舞姫・阿部一族』は、明治(とはいえ生まれは幕末)の文豪、森…

10年目に突入。飯田橋読書会の軌跡(2014年~2023年:第1回~第41回)をまとめました

飯田橋読書会を開催して今年で10年目を迎え、41回を数えることとなりました。読んだ作品は一冊一冊、いずれも印象深く、この読書会の力を再確認する、忘れがたいものばかりでした。これらを以下、リストアップしてました。読書会であと何冊読めるのか、とて…

第40回・飯田橋読書会の記録:『近代日本の陽明学』(小島毅著)

科学といえば森羅万象を仮説検証し再現性のある結果を得る学問で、哲学といえば人間が感知したことを言語化して検討、共有する学問。歴史学といえば過去に起こった事柄を文献や遺物で比較検証、解釈する学問。では、今回取り上げる「陽明学」とは、どんな学…

第39回・飯田橋読書会の記録:『巨匠とマルガリータ』(ミハイル・ブルガーコフ著) ~スターリン時代のウクライナ人作家による幻想文学を考える~

第39回を迎えた読書会、現代ウクライナ文学の名作『巨匠とマルガリータ』(ミハイル・ブルガーコフ著)を取り上げた。 2月からのロシア・ウクライナ戦争という時流を鑑み、本作を取り上げることにした。その民族のメンタリティを知るためには文学がいちばん…

第38回・飯田橋読書会の記録:『新しい世界の資源地図:エネルギー・気候変動・国家の衝突』(ダニエル・ヤーギン 著)

「地政学」という言葉に皆さんはどのような印象を持つだろうか。「学」と言われながらも大学で正式に学問されていない分野である。日本では太平洋戦争敗戦後、国土侵略の思想原理であるとしてマッカーサーにより禁止されていた、など。 今回は、2月に勃発し…

第37回・飯田橋読書会の記録:『テヘランでロリータを読む』(アーザル・ナフィーシー著) ~革命、ジェンダー、自由を描いた女子群像劇~

第37回を迎え、もはや歴史的な会となった飯田橋読書会。今回は新規のHHさんとTTさんが加わり、レギュラーメンバーのKMさん、MMさん、HNさん、AAさん、SMさん、KNさん、SKさん、KHさん、私を含め、総勢11名の過去最高の大人数となった。こういうときにZOOMと…

第22回・飯田橋読書会の記録:『見えない都市』(イタロ・カルヴィーノ著) ~都市を再定義した摩訶不思議な作品~

今回は初のイタリア文学作品ということで、イタロ・カルヴィーノ(1923~1985年)の作品、『見えない都市』を取りあげることにした。作品が発表されたのは1972年。おりしも東西の列強がアジアの都市を奪還しようと火の粉をまきあげていたベトナム戦争のまっ…

第36回・飯田橋読書会の記録:『ギリシャ悲劇全集Ⅱ』(ソポクレス編) ~悲劇の世界から舞台とメディア、カタルシスを考える~

2014年1月に第1回目を開催してはや7年。今回で第36回を重ねることになった飯田橋読書会。お題は、たびたび取り上げるジャンルの戯曲。今回は、古代ギリシャの劇作家、ソポクレスの悲劇を取り上げた。 2020年2月5日の第30回読書会『ガリレイの生涯』(ブレヒ…

第35回・飯田橋読書会の記録:『現代経済学の直観的方法』(長沼伸一郎 著)~「縮退」の停止した多様な世界はどこに?~

毎回連続したテーマを取り扱わないことをモットーとした飯田橋読書会。前回の『孔子伝』(白川静著)から変わって、今回は『現代経済学の直観的方法』(長沼伸一郎 著)を取り上げる。世界的に経済が混乱をきたすいまだからこそ、経済学に取り組むことには意…

第34回・飯田橋読書会の記録:『孔子伝』(白川静著) ~乱世に現れた反逆の聖人~

皆さんは孔子というと、どのようなイメージを持たれているだろうか。渋沢栄一の『論語と算盤』はテレビドラマの影響で最近よく話題に上がるが、孔子の名前はその『論語』の原作者として第一にあげられる。 「論語読みの論語知らず」のことわざでも『論語』は…

第33回・飯田橋読書会の記録:『ヴェニスに死す』(トーマス・マン著) ~「パンデミック、ツーリズム、美少年」の謎を解く~

ヴェニスといえば、ゴンドラが行き交う水の都、世界中のツーリストが集う名観光地、ユダヤ商人がヒロインのポーシャにまんまとやられるシェイクスピア作品の舞台であったりなど、非常にコンテンツ力の高いイタリアの土地である。 イタリアはドイツのアーティ…

第23回・飯田橋読書会の記録:『最後の親鸞』(吉本隆明)/『歎異抄』(親鸞)

本会では過去に宗教関連の書籍としてイスラムを取り上げることがあったが、今回は仏教、浄土真宗の宗祖、親鸞の『歎異抄』と、それを扱った吉本隆明の評伝『最後の親鸞』の二冊を取り上げた。 宗教書という扱いづらい題材からか、または偶然か、今回は女性陣…

第32回・飯田橋読書会の記録『生物はウイルスが進化させた』(講談社ブルーバックス、武村政春 著) ~ウイルスと生命の本質を探る~

ZOOMで開催の読書会ニューノーマル・バージョン第2回目。時宜にかなった話題として、今回は初のサイエンス書を取り上げることとなった。お題は『生物はウイルスが進化させた』である。 会場からは、「中身がよくわからない本」「理解のためにいろいろ読みま…

人と人とをつなぐ、本のチカラ

2014年1月25日に『トランスクリティーク』(柄谷行人 著)にてはじまった読書会、11月7日をもって、のべで32回の開催となった。そして次回から8年目を迎える。先日、その忘年会を開催した。 メンバーの増加やオフラインでの開催ができなくなるなど紆余曲折を…

若手編集者に向け、編集者育成半日研修を実施しました。

11月27日(金)、都内某編集制作企業にて、編集者育成半日研修を実施しました。 参加者の本そのものや編集制作に対する意欲の高さには驚きました。セミナーや勉強会で「哲学書を読むとよいです」とお勧めすると「なにがお勧めですか?」とたびたび聞かれるの…

第31回・飯田橋読書会(withコロナ・バージョン)の記録:『人間・この劇的なるもの』(福田恆存著)

今回は「読書会withコロナ・バージョン」と題し、初のZoomによるオンライン読書会を飯田橋読書会において開催した。 半年ぶりの生存確認も兼ねたチェックインでは、リモートワーク三昧のKMさんや、ゲームばかりやっていたMさん、普段から家にいるからあまり…

第28回・飯田橋読書会の記録:『ぺてん師列伝』(種村季弘著) ~ぺてんと詐欺の本質を徹底討論~

本書の副題に「あるいは制服の研究」とあるように、読書会の冒頭は平田オリザさんの学園劇『転校生』を私が観劇したエピソードからはじまった。 紀伊国屋書店でホールの入り口を探していると、制服を着た女子高生の集団が「上ですよ」と声をかけてくれた。で…

第20回・飯田橋読書会の記録:『サド侯爵夫人』(三島由紀夫著、新潮文庫)

今年で早くも5年目に突入。20回目となった読書会のお題に、読書会初の戯曲、三島由紀夫の『サド侯爵夫人』を取り上げた。 基本、この読書会のメンバーはあくが強く満場一致の意見はまずないが、今回は見事に意見が分かれた。「共感できない、面白みがわから…