本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

ブックレビュー

古今東西さまざまな読んだ本の書評です。

第17回飯田橋読書会の記録:『山月記』『名人伝』『悟浄出世』『文字禍』(中島敦 著) ~東洋のボルヘスが描く数々の名品~

中島敦といえば明治・大正・昭和と33年の短い人生で3つの時代を生きた日本を代表する作家である。中学校の教科書にも登場した記憶がある方も多いはずだ。 今回取り上げた短編の名手中島敦の『山月記』『名人伝』『悟浄出世』『文字禍』は、いずれも中短編。 …

読みました:『起業家ビル・トッテン ~ITビジネス奮闘記~』(砂田薫 著) ~日本のITがパワフルだった時代の貴重なドキュメンタリー~

書名にビル・トッテン氏の名前と、サブタイトルに「ITビジネス奮闘記」とあるので、同氏をフューチャーした起業物語かと思ったが、実は違う。1960年代から2000年代までの日本のIT史をビジネスという側面から切り出した、多数のインタビューに基づいた貴重な…

読みました:『新規事業を必ず生み出す経営』(守屋実 著) ~日本の企業たちに向けた現代の寸鉄詩~

税込14,850円の高額書ながら、重版を重ね売れ続けている名著。守屋さんの既刊『起業は意志が10割』『新しい一歩を踏み出そう!』の論調を軸にし、新規事業や起業に取り組む人にとって価値のある、最新事例と著者の見立てが読める。大企業で発生する「あるある…

本と音楽のマリアージュ「ピアニスト髙橋望による ブックトークと音楽」を開催

2024年2月23日(金)天皇誕生日、クラシック音楽に親しむ会、本とITを研究する会、株式会社ツークンフト・ワークスの共催で、「ピアニスト髙橋望による ブックトークと音楽」を都内B-tech Japanで開催した。満員御礼、あっという間の2時間だった。 今回取り…

新刊『エンジニアのためのWeb3開発入門』(インプレス刊)が配本されました

当社、株式会社ツークンフト・ワークスが制作のお手伝いをしました新刊、「『エンジニアのためのWeb3開発入門』 ~イーサリアム・NFT・DAOによるブロックチェーンWebアプリ開発~」の見本が到着いたしました。ブロックチェーン技術が成熟しつつあり、Web3は…

読みました:『ネオ・ダダの逆説 ~反芸術と芸術~』(菅章 著、みすず書房 刊) ~アートとその本質とのジレンマ~

作者は『現代美術史』(山本浩貴著)に記された日本現代美術史を取り上げ、「驚くべきことに〈ネオ・ダダ〉は〈ハイレッド・センター〉の項目の中で、赤瀬川原平を語る際(「赤瀬川原平とネオ・ダダ」という小見出しが付され)わずか10行の記述にとどまり、…

第45回・飯田橋読書会の記録:『アラブが見た十字軍』(アミン・マアルーフ著)

2023年ラストの飯田橋読書会は、『アラブが見た十字軍』(アミン・マアルーフ著、 筑摩書房刊)を取り上げた。アラブが語られる際に、私たちの耳目に入る情報は西洋からのものがほとんどであるが、本作はアラブがいかに西洋から侵略されたのかという逆の視点…

読みました:『ねむれ巴里』(金子光晴著)~濃い日本人が多数登場する1930年詩人のパリ滞在記~

少女の頭蓋骨から作った杯を見たとか、川の上の娼館から落ちた娼婦が鰐に食われたとか、どこまでが本当でどこからが詩想なのか、境界線がほとんど見えない金子光晴(1895~1975年)の作品は面白い。本作は純粋な紀行文学、文明論、エッセイとして味読できる…

読みました:中欧の香り漂うポーランド文学『逃亡派』(オルガ・トカルチュク 著、小椋彩 訳)

旅の物語や解剖学にまつわる昔話、量子力学、ショパンの心臓のエピソードなど、116の断章からなる不思議なポーランド文学。ポーランドと言えばお隣のウクライナが緊張状態で大変なことになっている。このような、西と東の狭間にある地理的状況と、それゆえの…

読みました:『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』(トーマス・マン著)

未完の中編ながらも、実は、本作は名著『魔の山』『ヴェニスに死す』にはめ込む挿話として構想されていたものだという。1922~1937年の作品。 トーマス・マン独特の、言葉をこねくり回したような表現と、この時代のドイツ語文学ならではの描写や文脈が盛りだ…

『リチャード三世』を読みました ~イングランド・シェイクスピア・デスメタルの深い関係~

10月に亡くなった友人の元Toransgressor(トランスグレッサー)Bass、キクちゃんが住んでいたストラトフォード・アポン・エイヴォンの作家、シェイクスピア『リチャード三世』を読んでいた。 シェイクスピアの悲劇といえば『ハムレット』や『マクベス』『リ…

バッハの大作をつづる、『ヨハネ受難曲』(礒山雅著)を読みました

師走になると日本もしだいにキリスト教の雰囲気(クリスマス商戦)になっていくが、課題図書として読んだイスラム教をめぐる歴史書『アラブが見た十字軍』から一変し、今度は『ヨハネ受難曲』(礒山雅著)を読んだ。原曲を聞きながら何度も読むとさらに味わ…

第44回飯田橋読書会の記録:『百年の孤独』(ガルシア・マルケス著)

前回の『昨日の世界』(シュテファン・ツヴァイク著)と打って変わって、今回は南米コロンビアのノーベル文学賞作家、ガルシア・マルケス(1928~2014年)の代表作、『百年の孤独』(原作1967年発表。日本発表1972年)を取り上げた。 架空の町マコンドを舞台…

『アラブが見た十字軍』(アミン・マアルーフ著)を読みました

昨今の課題であるパレスチナ問題を深く知ろうということで、今年最後の読書会のテーマとして取り上げられた作品。十字軍とパレスチナ問題の大きな違いは、やる側がバチカンかアメリカかという点。しかしやられる側はつねにアラブ人である。 歴史とは常に勝者…

読みました:『人間の条件』(ハンナ・アーレント著)~大衆の中での個人主義のあるべき姿~

ハンナ・アーレント(1906~1975年)と聞くと、全体主義批判の社会学者、ハイデッガーの元カノだったというイメージが先行するが、実際、本作『人間の条件』(1958年)とはどういった作品なのだろうか。先入観を排除して頭をクリアにし、独自解釈を施してみ…

読みました:『世界インフレの謎』(渡辺努著) ~経済解決はトリクルダウンか賃金アップか? 介入か対話か?~

COVID19による人間の移動の制約でグローバル物流が分断され、世界の物の動きが停滞した。物不足、世界インフレが発生。さらには戦争が追い打ちをかけ、状況を複雑化させている。この問題を起点に、本作の論旨が展開される。 パンデミック終息後もいまだ世界…

第43回飯田橋読書会の記録:『昨日の世界』(Ⅰ・Ⅱ)(シュテファン・ツヴァイク著)

今回の課題図書は、2度目に取り上げることになったオーストリアの作家、シュテファン・ツヴァイク(1881~1942年)の自伝、『昨日の世界』(1942年)であった(ちなみに前回は『人類の星の時間』)。 定例読書会の課題図書として私が初めて選書した作品で、…

『ゼロから理解するITテクノロジー図鑑』、中国語簡体字版が発刊

『ゼロから理解するITテクノロジー図鑑』 の、中国語簡体字版の見本がプレジデント社から到着いたしました。 コンパクトに美しくまとまっており、各国の編集者や読者の嗜好の違いを知るとともに、率直に、感動しました。 これにて、日本語原版にあわせ、韓国…

第42回・飯田橋読書会の記録:『世界史の誕生』(岡田英弘著)

歴史とはなんだろうか?歴史とは、過去に記述された文献や、人類が作り上げた物体の蓄積である。そして歴史学とは、これらを採集・解釈・再構成し、いまに生きる私たちの知恵として役立てるための学問である。また、歴史にはエンタテイメントの要素もある。…

『昨日の世界』を読了しました ~3つの時代を生き抜いたウィーン作家の壮大な自伝~

シュテファン・ツヴァイク(1881~1942年)の自伝、『昨日の世界』を読み終えた。定例読書会の課題図書として、私が初めて選書した作品。選書しておいて、647ページの大作を手にして一瞬面くらったが、私にとって非常に興味深い内容で、一気に読むことができ…

第41回・飯田橋読書会の記録:『舞姫・阿部一族』(森鴎外著)

森鴎外と聞くと、あまりにも古い作家だったり、国語の教科書を思い出したりなどと、なんだか遠い、お勉強の世界にある作家だというイメージを持つ人が少なくないかもしれない。 今回取り上げる『舞姫・阿部一族』は、明治(とはいえ生まれは幕末)の文豪、森…

読みました:『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ) ~大人も楽しめる政治メタファー・ファンタジー~

これはおもしろい。大作ファンタジー。エンデの世界観は壮大で好感が持てる。作品の使命とは、世界の可視化である。しかもエンデの場合は児童文学という領域で、大人が作り上げている世界を可視化している。 『モモ』が経済学の物語であるとしたら、『はてし…

読みました:『女の一生』(アルトゥール・シュニッツラー著) ~時代に流されながら生きる、一人生の縮図~

ウィーン世紀末文学の大御所、アルトゥール・シュニッツラーの最晩年の小説を読んだ。 この方の名前は知らずにも、スタンリー・キューブリックの映画「アイズ・ワイド・シャット」(『夢小説』)の原作者であるといえば、すぐにわかるだろう。 そして『女の…

読みました:『ハプスブルク帝国』(岩崎周一 著) ~共産主義以前の、東欧史の本質がわかる物語~

大変興味深く拝読した。30年前に読んでおいたら、いまの世界の見方が大きく変わっただろう。「なんでいままでハプスブルク帝国を知ろうとしなかったのだ!」と、長年のもやもやが解かれた印象が、今回の読後感だった。 東欧の本質はソビエトではなくハプスブ…

異端映像作家の全作品を通した正当な人物史:『パゾリーニ』(四方田犬彦著、作品社刊)

1088ページという長尺でありながらも、作品を通して人間パゾリーニに迫るという一貫した視点がブレない名作。 パゾリーニという名前を聞いただけでも、「ちょっとなぁ……」となる人は少なくない。エロ、グロ、汚い……、という単語でひとくくりに片づけられるこ…

第40回・飯田橋読書会の記録:『近代日本の陽明学』(小島毅著)

科学といえば森羅万象を仮説検証し再現性のある結果を得る学問で、哲学といえば人間が感知したことを言語化して検討、共有する学問。歴史学といえば過去に起こった事柄を文献や遺物で比較検証、解釈する学問。では、今回取り上げる「陽明学」とは、どんな学…

未来の天才プログラマーが『MQL4プログラミング入門』に熱心に取り組む ~フリースクール「にじLabo」にて~

登校支援型フリースクール「にじLabo」に、当方から『MQL4プログラミング入門』と『ゼロから理解するITテクノロジー図鑑』を献本させていただきました。同校の「孤立してしまった子どもたちの“自律”に向けたお手伝い」というメインテーマに共鳴しました。代…

第39回・飯田橋読書会の記録:『巨匠とマルガリータ』(ミハイル・ブルガーコフ著) ~スターリン時代のウクライナ人作家による幻想文学を考える~

第39回を迎えた読書会、現代ウクライナ文学の名作『巨匠とマルガリータ』(ミハイル・ブルガーコフ著)を取り上げた。 2月からのロシア・ウクライナ戦争という時流を鑑み、本作を取り上げることにした。その民族のメンタリティを知るためには文学がいちばん…

新刊『落葉』(高嶋哲夫著)を読みました

『落葉』(高嶋哲夫著)を拝読させていただきました。「パーキンソン病+ネットカルチャー+エンタテイメント+スタートアップ(ビジョンハッカー)」といった、高嶋哲夫さんの鋭い視点から「いま」が切り出されている興味深い作品です。 パーキンソン病とい…

悪の極限から見えてきた平和と美徳:『悪徳の栄え』(マルキ・ド・サド 著、澁澤龍彦 訳)

正編が黒、続編が赤という装幀が素晴らしい。マルキ・ド・サドの代表作。怪女ジュリエットの悪徳三昧の半生が描かれるアンチ・ユートピア小説。 正編では大臣に囲われる娼婦としてジュリエットが登場。大臣の権力の庇護下で悪徳の限りをつくす。大臣は慈善施…