本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

セミナーレポート:4月25日(水)開催、「新規事業を次々と生みだせるようになる講座(基礎編)」(後編)

前編からの続き)

顧客の「課題」と「ジョブ」をあぶり出した例として、「ミルクシェイク」が取りあげられる。ミルクシェイクという一つの商品でも、顧客の置かれた状況や属性により、その意味あいはまったく異なってくる。たとえば車で通勤するビジネスパーソンにとって、渋滞時の退屈と空腹という問題を解決するために働いてくれるものがミルクシェイクである。この顧客に対してはストローを細くし粘度の高いミルクシェイクを提供することで、退屈と空腹への問題解決を同時に提供し売上を伸ばすことに成功した事例がある。

◎ミルクシェイクの物語f:id:tech-dialoge:20180511143330j:plain

また同じビジネスパーソンでも、休日には父親や母親になる。そのときには、子供にミルクシェイクを買い与える優しい親になるという、新たなジョブが発生する。ここで演じられるミルクシェイクの役割はもはや退屈と空腹への問題解決ではない。顧客は子供にミルクシェイクをさっと与え、遊びに連れて行きたい。その欲求を満たすためのジョブとして、ストローが太く、粘度の低いミルクシェイクを提供する。

◎ビジネス化までの具体的なプロセスf:id:tech-dialoge:20180511143421j:plain

イノベーションを支える3大理論の後者2つ、「リーンスタートアップ」「ジョブ理論」からもわかるように、顧客の置かれた特定の状況や本当の望みはつねに可変で、顧客を「20代男性会社員」「30代主婦」という定量的なレベルで把握することはできない、ということである。そういった文脈中では次々とアイデアを生み出すことが必然となり、それには「選別」ではなく、発見したタネから育てあげる「育成」が最も効果的である。

「ミッション」「ビジョン」という、大きな未来とそれを実現するための方法を明確化し、組織内で共有、課題解決のための仮説検証を繰り返し、タネが見つかったら市場にリリース、成長させていくというサイクルを繰り返す。これが、イノベーションの理論に則った事業の作り方である。

研修では2日間でプロトタイプ作成までを実施
最後に、産業技術大学院大学の研修の模様も紹介された。「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに掲げ書店チェーンを復興させるというストーリーで、社長によるミッションの伝達から研修がスタート。30人の生徒さんたちはその実現のために各自がやりたいことを表明した。類似の思いを持った生徒さんたちごとに5チームに分かれ、顧客の持つ現実とのギャップを未来への願望から現在の願望へと落とし込んでいくバックキャスト法を使い、顧客像をあぶり出していった。

◎研修で行われた、ビジョンとギャップの抽出f:id:tech-dialoge:20180511143516j:plain

顧客像のあぶり出しには、各班一人ずつ生徒さんに顧客役になってもらい、デプス・インタビューを実施。デプス・インタビューには慣れとコツが求められるが、「いつ?」「だれ?」「どこ?」「どう?」という、過去の事実にのみ焦点を当ててインタビューするという、基本的なポイントを学んだ。

◎ターゲットを決めてインタビューを実施f:id:tech-dialoge:20180511143602j:plain

その間にさまざまな情報が集まり、出てくるアイデアも膨大になる。それを事業に落とし込むまでには「発散と収束」により、膨大な数のアイデアをメンバーどうしで精査、現実レベルに収束させていくという作業を繰り返した。

スターバックスのビジネスモデル・キャンバスの例f:id:tech-dialoge:20180511143654j:plain

ビジネスモデルは「ビジネスモデル・キャンバス」に書き出す。それに則りプロトタイプ化し、市場にリリースする(研修ではプロトタイプ作成まで)。ビジネスモデル・キャンバスはビジネスを取り巻くさまざまな状況を簡素に体系化できるツールである。スターバックス・コーヒーを例にあげれば、安心が欲しい人に提供する場として、同社はバリスタという技能を持ったスタッフが香り高いコーヒーとおもてなしという価値を提供する。その実現のため人材育成にコストをかけ、高い商品価値を維持する。これらは一つも欠かすことができず、すべては体系をなしている。同じコーヒー・ショップでもドトール・コーヒーは真逆のビジネスモデルを持っている。これら体系の相違や類似を可視化し事業開発の羅針盤とするツールがビジネスモデル・キャンバスである。

イノベーションの理論と手法で、次々と事業が生み出される可能性は高いf:id:tech-dialoge:20180511143745j:plain

産業技術大学院大学の研修ではこのような流れで学びが続き、机上から数多くのビジネスが生み出された。その模様の詳細は以下にエントリーがあるので、こちらをごらんいただきたい。

セミナーレポート:2月24日(土)、産業技術大学院大学オープンキャンパスイノベーションと学びを共有(ワーク1日目)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/03/01/211028

セミナーレポート:「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに、書店復興事業のアイデアを構築(ワーク2日目・前編)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/03/07/220424

セミナーレポート:「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに、書店復興事業のアイデアを構築(ワーク2日目・後編)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/03/09/124450

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研修後にアップデートされた内容も含め、2日間にわたる研修のダイジェストとして「新規事業を次々と生みだせるようになる講座(基礎編)」を終えた。いままさに進化を続ける、最新イノベーション理論の一部である。この研修の1日版も目下開発中である。研修がリリースされたころには、さらにイノベーションの理論は進化し、より使いやすくなり、事業により多くの成果が生まれているはずである。

◎参考図書
『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(クレイトン・クリステンセン著、翔泳社刊)

『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』
(クレイトン・クリステンセン、タディ・ホール、カレン・ディロン、デイビッド・ダンカン著、ハーパーコリンズ・ジャパン刊)

『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著、日経BP社刊)

三津田治夫