本ワーク(前回の結果)で作り上げられた以下事業アイデアに共通していえることは、「人」と「コミュニケーション」がビジネスモデルの中心に色濃く織り込まれている点だ。
●レビューを通じてつながる本屋
●想いがつながる「未来写真」
●知識と食を軸に地域コミュニティを活性化する本屋さん
●ハプニングがインセンティブになる接客業
●出会い系本屋
これらアイデアは「想いが伝わる社会を実現する」というミッション(つまり、言葉)を解体し、再定義し、社会に向けたサービスへと、思考を通して言葉を再構築した作業の結果である。
◎『リーン・スタートアップ』を紹介するファシリテーターの小関伸明氏
集団による言葉の解体と再定義には労力の消費とゴール意識のブレが起こりがちだが、事業開発の思考の手順としてリーン・スタートアップを利用することで、このようなアウトプットが可能となった。
◎模造紙を囲んで移動しながらのワーク
ワークから出てきたビジネスのアイデアをプロの書店経営者が目にしたら、果たしてどのような印象を受けるだろうか。
「いうはやすしだが……」、「授業でやった机上の空論じゃないか」という意見が少なからず出るだろう。あるいはその逆に、インスパイアされて事業復興の行動を起こす書店経営者もいるだろう。
確かに、ワークショップという、ビジネスを想定した仮想の空間で起こった出来事には違いない。
しかし言い換えると、お金や組織、人間関係、企業風土、慣習という、経営とは切っても切り離せない「しがらみ」から解放されている。ゆえに、企業がゴールへと向かうためにあるべき純粋な姿から出たアウトプット、ともいえる。
◎ワークの手を休め、レクチャーに聞き入る生徒さんたち
のべ2日間のワークを通して私が確信したものがある。
それは、いまの日本人に欠けているものはお金でも時間でもやる気でもない、ということ。
いまの日本人に欠けているものは、「ミッション」である。
つまり、「なぜ」が、企業を牽引するリーダーである経営者や管理職からすっぽり抜け落ちている。彼らの多くは「なぜ」を飛び越して「なんのために」を口にしはじめる。株主のため、収益のため、事業目標達成のためなど、論点を自分の外部へとすり替える。これはこれで事業として大切である。しかしこれにより、なぜ働くのか、なぜ生きるのか、なぜ会社なのか、なぜ社会なのか、なぜ企業なのか、などの、根幹中の根幹が言語化されないという事態に陥る。言語化されないということは、根幹の意識や情報が共有されないことを意味する。そこから出てきた結果が、いまの日本の姿そのものである。
結果が出づらく、見えづらく、評価しづらい現代を、出口の見えない混迷の社会と言い切るのは簡単である。ここから一歩踏み出し、「なぜ」に答えることに焦点を当て、ミッション指向で生きること、働くことが、この混迷の中から脱出する最短の道である。
いまでは幸いなことに、スタートアップのフレームワークやビジネスモデルのパターンなど、ビジネスには「型」が用意されている。古来は相手を殺傷するための暴力手段の一部が、数千年数万年のときを経て、武道という「型」へと昇華した。市場経済が世界を支配して250年を経たいま、古来は搾取と金儲けの手段だった市場経済活動の一部は、ビジネスという「型」へと昇華した。武道で精神が重んじられるのと同様、ビジネスではミッションが重んじられる。これも一つの「型」である。型を身につけてこそ、はじめて型破りができる。新しいビジネスの創出も、型を身につけることが第一歩だ。
ワークを終え、生徒さんの中から「このクラスのコミュニティをつくりましょう」という声が上がったのは嬉しかった。主催の越水教授によると、このような声が上がったのは初ケースだという。
◎生徒さんたちが挙手するのは懇親会の参加人数確認
夕方からの懇親会では、品川区の60代、70代のベテラン事業家の方々と交流ができてよかった。その他地元企業の管理職の方々、若いIT事業家など、いろいろな方々からいろいろな話を聞くことができた。一見狭いこの世の中、心を開くと多彩な想いと考えが広大に広がっていることが見えてきた。
教えることは最大の学びになる。今回のワークはまさにこれであった。学びの多い二日間に感謝すると共に、生徒さんたちの事業のイノベーション、人生のイノベーションが実現されることを、心から願っている。