本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

書籍の企画書をつくるためのノウハウ① ~基礎編~

最近「本を書いて出版したい」という相談を受ける機会が増えてきた。
ブログやSNSなど、好きに書いたものをデジタルで世に出すことが容易になった昨今、「出版」といったフォーマルな形をとった情報発信の価値が再評価された結果であろう。
この相談に私は必ず、「まずは企画書から書いてください」と返答している。
そこで間違いなく返ってくるのは、
「で、どこからどう書くの?」
である。
今回は、実用書出版に焦点を当て、「出版の企画書とはなにか?」から、その書き方のノウハウまでをまとめる。

そもそも、出版の企画書とはなにか?
出版の企画書とはなんだろうか。
一言でいって「本の図面」である。
その出版を通して、受け手である読者がどんな道筋でどう幸福になれるのかが記された概要書だともいえる。

その出版を通して他人を幸福にしたいのか、自分を幸福にしたいのか、双方を幸福にしたいのかを明確化するのだ。

「他人を幸福にしたい」の重みが大きければ大きいほど出版形態は商業出版になり、「自分を幸福にしたい」の重みが大きければ大きいほど自費出版になる。

たとえば、プログラミングなどの「専門書」で考えると、対象なる読者はプログラミング初心者であり、読者はその技術を理解し、仕事で使えるようになったり、資格試験に通過したり、ステップアップのための材料が手に入ることで幸福になる。

「ビジネス書」の場合は、対象となる読者は現場のビジネスパーソンであり、読者はその概念をざっくりと把握し、会議や商談で話せるようになったり、社内共通言語をもってプロジェクトや事業を立ち上げ推進し、ビジネスに価値と収益を提供し、社内外での評価が上がることで幸福になる。

自伝を書きたい人も多い。松下幸之助のような偉人や知名度の高い人物になると、単なる自伝だけで商業出版が可能だ。
しかし知名度が低い人が自伝を書く場合は、読んで幸福になる読者の数がまずもって少ない。したがって大半は自費出版やオンデマンド出版、電子出版になる。商業出版の場合は見込み読者の数が少なくとも3000人は必要になる。

知名度が低い人であっても、自分の開発した商品や独自の技術や手段の解説など、専門性が高く、かつ「どうしても読みたい」という一定数の読者が見込めれば、専門性を軸にした自伝をなんらかの形で商業出版することは可能である。

出版の企画書はどのように評価される?
企画書を出版社に提出すると、それが出版に値するものなのか、編集者がそれに目を通す。
編集者は企画書を以下の基準で評価する。

・ワクワクするか?
・オリジナリティが高いか?
・「どうしても書きたい」という作者の熱意がこもっているか?
・社会的に価値が高いか?

そのうえで、出版形態が商業出版の場合、編集者は以下の基準で企画書を評価する。

・書店で売れそうか?
・いま売れている書籍と類似の読者をとれるか?
・すぐに利益を回収できそうか?
・社内で企画が通りそうか?
・自分や出版社のポリシーとミッションにかなっているか?

出版形態が自費出版の場合は、編集者は以下の基準で企画書を評価する。

・出版を通して著者の満足が充たされるのか?
・収益以外の出版による社会的意義が見込めるか?

最近は協力出版といって、出版費用を著者と出版社とで折半する形態もある。
また、上記のような、出版費用が実質無料のオンデマンド出版やKindleなどの電子出版、また、ブログへの原稿アップやPDFでの原稿配布など、広義の「出版」の選択肢は相当数ある。

ゆえにいまでは、「出版できない」という状況は、まず考えづらい。
逆に、全国から年々書店の数が減少しており、各出版社は流通させる出版物の数を絞ってきている。狭義の「出版」が日々縮小している意味からも、「出版」という言葉は日々再定義されている。

出版の企画書はどう書くのか? ~そのノウハウ~
出版の企画書を書くノウハウを以下に列挙する。

①まずは「どんな読者向けの出版物か」を考える。
上記の「どんな読者が読むことで幸福になるか」、である。読者は同業者なのか、経営者なのか、主婦なのか、ITエンジニアなのか、自分自身なのか、を考える。

②次に、書きたい企画のテーマを決める。
書きたいテーマを絞り、箇条書きする。
それを目次概要にまで落とし込んでいく。

③最後に、上記①で設定した読者が、読んだことでどうなるかを考える。
読者が幸福になることで社会が幸福になり、その出版が文化や技術に貢献する道筋を企画書に織り込む。
出版社や書店、企画に関連する業界がプラスになる未来が、企画書から見えるとなおよい。その社会的なスケールと企画内容とのバランスが重要である。

④①~③までを反復して考えながら、以下フォーマットを埋めていく。

・書名(仮題でOK)
・概要
・対象読者像(どんな人か?)
・目次案
・ページ数(概算)
・版型(書籍のサイズ)
・色数(カラーかモノクロか)

最終的にはA4で2ページほどで企画書がまとまるとよいが、パワポの資料として12ページ前後で、図表や写真資料をふんだんに使った企画書をまとめるのもよい。

いずれにせよ企画書は、自分の脳内整理と、出版社・編集者へのプレゼン資料となる、出版のための必須材料である。

書籍企画書を書くためのポイント ~調査と相談~
「①~③までを反復して」と、さらりと語ったが、実はそんなに簡単ではない。
企画書を書いていると、さまざまな疑問が湧いてくる。
ここで湧いてくる疑問との取り組みが重要なのである。
上記反復は、言い換えると、企画の中核を発見する自問自答、自己対話である。
自己対話と同時に、調査や他人の意見を聞くといった、外部との対話も重要である。

外部との対話には大きく以下3つがある。

①調査
書店や図書館に行くことやWeb検索、ChatGPTへのプロンプト発行、街を歩く、などの情報収集がこれに含まれる。

②他人の意見を聞く
「読者」に近い人に聞くことがポイントである。
友人、家族、同僚など、信頼関係のある人に聞く。
また、SNSやブログなど、ネットで聞くという方法もある。

③プロの編集者や出版プロデューサーなどに聞く
出版の専門的観点からのアドバイスが手に入る。
「壁打ち」サービスを提供しているプロ編集者や出版プロデューサーもおり、壁打ちを通して湧き上がってくるアイデアや記憶、経験、知識、広がりの獲得もある。

そして企画書が書きあがったら、以下2つの行動をとる。

①企画書に従って原稿を執筆する
②出版社や編集者に持ち込む(送付する)

前者は、先に原稿を書いてしまう戦略だ。
企画書と共に原稿を出版社や編集者に持ち込んで商業出版の判断をゆだねたり、自費出版や電子出版、オンデマンド出版としてそのまま出版する。
後者は、原稿なしで、企画書のみで出版の判断をゆだねる方法だ。商業出版決め打ちでの出版を目指している著者の場合が多い。言い換えると、企画書が出版社から採用されない限り原稿は書かれない、という状況になる。

おわりに
最初から「売れる」ことを狙って商業出版の企画書を書くケースや、「どうしても本を書いて伝えたい」という湧き上がる思いから企画書を書くケースなど、人によって動機はさまざま。

あなたが書いた企画書は、何らかの形であなた個人の人生や取り巻く社会、ひいては世界を変えることは間違いない。

本を出版したい人、まずは企画書から書いていただきたい。

三津田治夫