本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

時代を操る毒にも薬にもなる「神話」という魔術:『現代議会主義の精神史的状況』(カール・シュミット著)

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某月某日、読書会初の試みとして、政治学を取り上げた。
カール・シュミットといえば名著『陸と海と』があり、このイメージから、本文が100ページほどでAmazonにも在庫があったので、『現代議会主義の精神史的状況』が取りあげられることになった。
読書会での論調は、作品に深くはまってカール・シュミットの著作集にまで手を出したというポジティブな意見から、この本の意味も価値もまったく理解できない悪書だという意見まで、見事に真っ二つに分かれた。
本読書会21回目にして、まとまりのつかない、かつ紛糾直前、予定調和を抜きにしたダイナミックな展開になった。

波乱に満ちたカール・シュミットの半生が投影された危険な作品
1923年に発表された『現代議会主義の精神史的状況』は、矛盾をはらむ行間に真実が織り込まれた、ある意味危険な作品である。
まず、作者の経歴から見てみよう。

カール・シュミット1888年生まれのドイツ人。
1919年からのワイマール共和国時代に議会制民主主義と自由主義を批判し、1933年にナチスが政権を握りワイマール共和国が崩壊すると、同時にナチスの御用学者になる。1936年にはナチスを批判したとして追放。第二次世界大戦後はソ連軍に逮捕され尋問のうえ釈放。その後アメリカ軍の手に渡りニュールンベルク裁判で不起訴、釈放。戦後はプレッテンベルクという小さな町で1985年に96歳で亡くなるまで政治学者、法学者としてひっそりと活動を続けた。

◎ドイツ・ワイマール共和国の版図(色がついている部分、Wikipediaより)f:id:tech-dialoge:20180619193337j:plain

◎ドイツ・ワイマール共和国の構成(Wikipediaより)

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『現代議会主義の精神史的状況』を読んでみると、ヘーゲル批判、マルクス主義共産主義批判、民主主義・自由主義批判という、3つの批判の柱があることがわかる。

ヘーゲルに関して、こう言う。
ヘーゲルの哲学は、善と悪の絶対的区別を基礎づけることができるようないかなる倫理をももたない。それにとって善とは、弁証法的過程のそのときどきの段階において理性的なるものであり、それゆえに、現実的なるものである。善とは、正しい弁証法的な認識と意識性の意味において「時宜にかなっていること」である。」
ヘーゲルに従えば善と悪を区別する判断軸はどこにもなく、タイムリーなトピックでさえあれば現実的で理性的で正しい、ということになる。そうした曖昧さから独裁が芽生えるとしている。

「世界史がたえず進展してゆくべきものだとすれば、事物に反するものを力によって除去することが永遠に必要であり、それゆえに独裁は永久的となろう。ここでもまた、ヘーゲル哲学によればあらゆる出来事に存する一般的な二面性が、とりわけヘーゲル哲学そのものにひそんでいることが示されている。すなわち、その発展段階は、独裁を廃棄しうると同時に、その永久性をも説明しうるのである。」
「世界史の進展」を妨げる非現実的なものは除去されるべきものであるから、その現実性の保持のためにも、「理性的な独裁」が容認されるのである。

自由平等博愛のもとで革命が起こり、その後に現れたのは民主主義でも自由主義でもなく、独裁と恐怖政治だったフランスを例にあげ、こう言う。
「ルソーがはっきりと続けて言っているように、一般意思は真の自由と合致するものであるから、敗れた者は自由でなかったことになる。このジャコバン的理論でもって、周知のように、多数者に対する少数者の支配をも正当化することができる。」
「真の自由と合致する」合理的な独裁が成立することを歴史が証明していると筆者は述べる。

啓蒙主義を「公開性の光は啓蒙の光であり、迷信や狂信や権謀術数からの解放である。啓蒙専制主義の体制においてはすべて、公開の意見〔公論〕が、絶対的な矯正手段の役割を演ずる。啓蒙主義がひろがればひろがるほど、専制者の権力は大きくなることができる。」と、公開性と民主主義はイコールでなく、むしろこれらは独裁者の権力を拡大させる装置となることを指摘。そして独裁により「自由の強制、公開性の強制」が生じ、独裁が独裁自身をさらに強化させるという。ちなみに公開性を共同体の動力源として重視するユルゲン・ハーバーマスカール・シュミットの大の論敵である。

共産主義への時代的嫌悪感から生まれた独特な論調
「哲学とサーベルとの同盟」によるフランス革命はナポレオンの没落で清算され、合理主義的独裁の可能性が出現し、「その担い手は急進的なマルクス主義社会主義」であると結論づける。

そのうえでマルクス主義共産主義を「通俗的マルクス主義は、その思考の自然科学的な精密性、唯物史観の法則に従ってある事物がやってくる「鉄の必然性」について、好んで書いている。」とし、「法則」や「鉄の必然性」という、あたかも科学的・客観的に見える物語をマルクスは弄しているという。そうした姿勢で「マルクスは、ブルジョワを貴族的および文学的な怨みの感情の領域から、ひとつの世界史的な存在へとひき上げた。」と、ブルジョワ没落の物語を文学から社会学の次元に持ち上げることで共産主義という「神話」を作り上げたとしている。

そして「ブルジョワジーとプロレタリアの間で燃えあがる闘争の当事者たちは、現実の【具体的な】闘争にとって必要な具体的な像を手に入れなければならなかった。具体的な生の哲学が、そのために精神的な武器を提供した。」とあるように、神話は、革命を実行するための精神的エネルギーとなる。そして「弁証法的な必然」によって革命は起こる。

スパルタクス団蜂起、銃撃戦の様子(1919年1月12日、Wikipediaより)f:id:tech-dialoge:20180619193509j:plain

1917年、共産主義革命はマルクスの故郷ドイツではなく、ロシアで起こることになる。それに続かんとばかり1919年にスパルタクス団による暴力蜂起がドイツで勃発するが、ワイマール共和国政府により鎮圧。多数の犠牲者を残してドイツ共産主義革命は失敗に終わる。こうした時代背景からも『現代議会主義の精神史的状況』が発表されたワイマール共和国体制ドイツの1923年は、まさに反共産主義の世相だった。

これらをふまえ、選択肢としての民主主義・自由主義を、次のように定義づけている。
「近代議会主義とよばれているものなしにも民主主義は存在しうるし、民主主義なしにも議会主義は存在しうる。そして、独裁は決して民主主義の決定的な対立物ではなく、民主主義は独裁への決定的な対立物ではない。」と、近代議会主義と民主主義もイコールではなく、議会を模した独裁は十分にありうるという。そのうえでこう結論づける。

「民主主義は、軍国主義的でも平和主義的でもありうるし、進歩的でも反動的でも、絶対主義的でも自由主義的でも、集権的でも分権的でもありうる。」

議会とは一つのフィクションであり、そのフィクションをもてあそぶ民主主義ほど危険な体制はないのである。

3つの批判を下支えする「神話」の魔術
ヘーゲル批判、マルクス主義共産主義批判、民主主義・自由主義批判の三拍子がそろい、国家を独裁するマルクス主義的な科学的発展と共産主義、そして民主主義を否定する、国民に選ばれた「平和政権」であるナチスが、ワイマール共和国を飲み込む思想的な下準備ができたのである。

これら3つの柱を下支えするものはなにか?
カール・シュミットが繰り返し口にする「神話」である。

「真の生の本能の深みから、偉大な熱狂、偉大な精神的決断および偉大な神話が生ずる。熱狂した大衆は、大衆のエネルギーを駆りたて、殉教への力や暴力行使の勇気を大衆に与えるところの神話像を、直接的な直観からつくり出す。」と、フランス革命ロシア革命という過去直近の革命を指してこう述べるのだが、皮肉にもこれと同様の原理がナチスでも実装されることになる。

このように革命や独裁を批判しながらも、「討論し妥協し交渉をする商議は、なによりも重要な神話とそれに伴う偉大な熱狂を、裏切ることである。」と、民主的な対話を否定し独裁を容認するような矛盾に満ちた発言もするところにカール・シュミットの危険性がある。

過去直近の革命を参照しながら「人間の生がもっている価値的なるものは、理屈からはでてこない。それは、偉大な神話像によって魂をふきこまれて闘争に参加する人間が闘争の状態に立ったときに生まれる。」と、「ロジカルでない神話」こそが革命の原動力であると説く論調はワイマール共和国の崩壊に結びつく。すなわち、ナチスへと。

そして同時代のファシストであるムッソリーニの演説を引用し、「「われわれはひとつの神話を創造した。神話は信仰であり、高貴な熱狂である。それは現実であることを必要としない。それは起動力であり、願望、信仰、勇気である。われわれの神話は民族、偉大な民族であり、われわれはそれを具体的な現実にしようと欲する」。この同じ演説でかれは、社会主義を、劣位の神話とよんでいる。」と、過去の革命で用いられた神話を超えた「優位の神話」こそがワイマール共和国のパラダイムを書き換えるのだと示唆する。

さらに「無政府主義の著作家たちが権威と一体性とへの敵対性から神話の意義を発見したとき、かれらは、そうなることを欲せずにではあるが、新しい権威、秩序と規律と階序性への新しい感情の基礎づけに貢献したのであった。」と、ときのファシストを評価しながら、同時に無政府主義者アナーキスト)たちをも評価する。

高度な筆力で綿密な論考や扇動的な文体を駆使しながら、ヘーゲル批判、マルクス主義共産主義批判、民主主義・自由主義批判を繰り広げ、これら批判に対するソリューションは一切提示せず、批判ならぬ「否定」で本論考は終わりを告げる。

ある意味危険な作品と書いたが、付け加えれば、この作品が発表された時代背景を鑑みても、ある意味不気味な作品だともいえる。

*  *  *

カール・シュミットほどの明晰な頭脳と文体をもってすれば、もうなんでも言えてしまうであろう。ヘーゲル批判、マルクス主義共産主義批判、民主主義・自由主義批判までしたのだから、同様のコンテキストでナチスの批判も可能である。これをしてしまったことで彼は党の御用学者から引きずり下ろされることになる。ある意味リベラルな人とも言え、そうした観点からもニュールンベルク裁判で不起訴となったことは想像に難くない。

読書会のメンバーの間では賛否が真っ二つ、毀誉褒貶に満ちた作品であったが、私としては彼の3つの批判、ヘーゲル批判、マルクス主義共産主義批判、民主主義・自由主義批判に「こういう切り口があったのか」と、目からうろこが落ちた。のちの新左翼たちに支持されたという事実にも納得がいく気がした。また、『陸と海と』の印象が強く、たしかに筆の立つ男だと思いつつも、「こういう本も書くのだ」という発見と感心もあった。

そしてこの本を読書会で読んだ意義、いま読む意義は、混乱する日本の政治やアメリカのトランプ政権、朝鮮半島問題などの「いまという混迷の時代の中でどんな未来が出現するか」という洞察を得たところにある。つまり、過去直近の政治改革や経済破綻などから出た残念な結果を超える「未来」とは、どんな「理論」からも出てくることはない、ということである。「理論」に見えるもの聞こえるものほど、その多くは権力に耳心地のよい神話であり、作り事、後付けであると疑って間違いない、ということでもある。

最後に、メンバーの一人一人が個人の意見を発表した。20代の女性営業職メンバーが「『現代議会主義の精神史的状況』を読むことでいまの日本の政治のあり方を考えるきっかけになりました」と発言したのに対し、「就職面接の応答のような模範的意見ですね」とのコメントが大手システム会社の管理職メンバーから入った。就職面接で『現代議会主義の精神史的状況』の書名を出して採用に直結するプラス印象を面接官に与えることは、まずないだろう。本書はそれだけの奇書であるともいえる。

さて次回、第22回目はさらに趣を変え、ドイツから南に下って、ムッソリーニの故郷イタリアの文学へ行くことにする。お題はイタロ・カルヴィーノ著『見えない都市』。すでに読みはじめたメンバーも何人かおり、前半はボルヘス的な内容展開であるらしい。久しぶりの小説を、そして、本読書会で初となるイタリア文学でどんな議論になるのか。次回もお楽しみに。

三津田治夫

おしらせ:6月29日(金)に「人にしっかりと伝わる アクティブ・ライティング入門」を開催します

好評のライティングセミナー、今月は29日(金)に開催します。
言葉に積極的にかかわる書き方「アクティブ・ライティング」を学ぶ2時間のコースです。参加登録ページは以下です。

goo.gl

参加された方全員に、ライティングの要点中の要点がまとめられたカラー・リーフレットを無料進呈します。
ぜひこの機会に、ライティングの扉を開き、いまを自分らしく生きるためのスキル、「アクティブ・ライティング」を身につけていただきたいです。
なお、5月のセミナー・レポートが以下にあがっています。ご参考にどうぞ。

5月11日(金)開催、「人にしっかりと伝わるアクティブ・ライティング入門」(前編)
●5月11日(土)開催、「人にしっかりと伝わるアクティブ・ライティング入門」(後編)

恐怖政治をもたらした自由と平等の革命:『フランス革命』(上・下)(アルベール・ソブール著、岩波新書)

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人間に自由をもたらした革命。
自由・平等・博愛の革命。
もしくは、恐怖政治。
マリー・アントワネットという無意識な人が好き勝手やっていた。
ルイ十六世がダメだった。
実はフリーメイソンの革命だった、など……。

フランス革命はいろいろな読まれ方があるが、一つだけいえることは、それは「持てる者」すなわち「お金持ち(ブルジョワジー)のためのお金持ちによる革命」であり、「持てる者」が社会のリーダーシップを取るという、資本主義の出発点だった。反対から見れば、フランス革命がなければマルクスもいなかったし共産主義もなかった。
「持てる者」理論を簡単に言うと、思想を行動へと移せるのは「持てる者」であり、それ以外の人は「持てる者」についていきなさい、である。
しかしフランス革命時の「持てる者」(=お金を持つ人)といまの時代の「持てる者」の間には決定的な違いがある。それは、「利殖以外にも関心があった」という点だ。

言い換えれば、利殖をするにもフランス革命時代のお金持ちには障壁が多すぎたので、利殖以前にそれらを取り除くことに関心があった、ということである。その障壁がすなわち「封建制」であり、封建制のトップにいる「王」が障壁の根源、ということになる。それがルイ十六世をはじめとした封建貴族の処刑へとつながり、封建主義者(反共和主義者)の処刑により社会をリフォームしていこうという動きが恐怖政治へとつながる。

そしてお金持ちが封建制と同時に目をつけたのが、大衆の不満意識だ。彼らの中には市民ともお金持ちともつかない「小金持ち」(プチ・ブルジョワ)がいて、「不満意識」という共通点のもと、お金持ちと大衆が連帯した。そしてその連帯を実現するために、お金持ちたちは、「思想」を現実社会に実装しようとした。それが、ルソーやロックなどの「啓蒙思想」である。この点もまた、いまのお金持ちとはまったく異なった立ち位置にある。

人民が共有した連帯の物語
「持てる者」とそうでない者が共感し、連帯し、双方にとって気持ちのよい社会を作っていこうという姿勢は、数えてあまりある恐怖政治の犠牲を差し引いても、人類の歴史的な大進歩である。
しかしいまは、フランスの封建時代のような強烈な抑圧は市民にない。さらにいえば、お金持ちと一般市民の間に、「共通の不満」はない。ゆえに、連帯はほぼ無理だ。

つまり、現代のお金持ちと市民の間に、共感や連帯が生まれる基盤はない。だからこそ、現代の「持てる者」は利殖と蓄財といった「自衛」に走る。一般市民やサラリーマンができる自衛とは、わずかな貯蓄と、クビにならない程度に手を抜き働くこと、になる。それによって生産性は低下し、お金持ちはますます自衛に走る。現代のブラック企業の構図が、フランス革命の史実を通してありありと目に見えてくる。つまり、共通の問題点や共通のゴール意識が市民社会の中にない、ということである。それは言い換えれば、切迫した危機感や、切迫した目標、どうしても実現したい理念がないからである。さらに言い換えれば、現代人は物質的に十分恵まれている、ということでもある。もしくは、恵まれていない人は、連帯する影響力や感性がなく、その気力すらない、ということでもある。

日本人が持つ「連帯の物語」とはなにか?
フランス革命には人々に強烈な理念と理想があった。
誰からも約束されていない未来に向かっていくこの情熱は、いったいどこから来るのだろうと、何度も考えた。しかし一言で言えば、フランス封建制という「日常の不満からの脱却」が情熱の原動力である。そうした現実を素直に受け入れなかったのは、啓蒙思想家が残した幸福の物語だ。そしてフランス人が共有した幸福の物語とは、ルソーやカントが唱えた、「自由」の物語である。人間の最も幸福な状態とは、自由な状態、という物語が、徹底的に考えられ、思想として書き上げられ、フランス人のナショナルヒストリーに組み込まれていった。

フランス革命の時代には、人々が共感し連帯する素地が備わっており、起こるべくして起こった革命だった、と考えることもできる。

では現代日本の市民の共感や、連帯の素地とは、いったいなんだろうか。
少なくとも、お金を通じた共感や連帯は、現代市民においてはないはずだ。それよりも、意識的な共感や、島国としての土地による連帯の可能性が高いだろう。言い換えれば、昔の日本人に戻りつつ、いままでにない価値体系の中に暮らす、というイメージではないか。

フランス革命は、現代の革命の原点であると同時に、いまの資本主義社会を読み解くための重要な歴史的ムーブメントである。

最後に、フランス革命のアウトラインを時系列でまとめておく。

*  *  *

●背景
1)ブルジョワジー啓蒙思想の影響
2)フランスの英国に対する経済的劣等があった
3)資本主義の幕開け

●1774年 ルイ16世政策により財政が傾く
アメリカ独立戦争への支援・戦費がかさむ
→貴族の年金の付与がかさむ
→貴族への課税を実施(→貴族の王権への反発が起こる)

●1789年 フランス革命勃発
→第3身分と貴族、国王による内戦(「貴族の陰謀説」が発端だった)
→貴族対農民(旧体制に反対する)の内戦

●1789年 7月14日 バスティーユ監獄襲撃事件
ブルジョワジーが権力を持つことに

●1789年10月 パリ市民がベルサイユ宮殿に集結
●1791年9月 新フランス憲法公布
→土地の国有化

●1792年8月 王政廃止
●1792年9月22日 共和制公布
ジロンド派ブルジョワと同盟)
ジャコバン派ブルジョワ派ながら農民と同盟)

●1793年 ジロンド派ジャコバン派の対立激化
●1793年5月~6月 ジロンド派追放「ジャコバン政府革命」
●1793年~94年 農民による旧体制一掃の要求
→社会政策の実施、ブルジョワの反発

●1794年春 ダントン処刑
ロベスピエールによる恐怖政治

●1794年7月27日 ブルジョワによる、テルミドールのクーデター
ロベスピエールが処刑される

●1795年 新憲法発布 普通選挙制を廃止
●1796年 「財産と労働をと共にする共同体」の共産主義イデオロギーが現れる。バブーフの陰謀。
●1799年11月9日 ナポレオン、クーデターを断行
軍事独裁
フランス革命終了
→欧州および世界にフランス革命の思想が拡散

*  *  *
三津田治夫

セミナー・レポート:5月18日(金)開催、「はじめてのグラレコ・ミートアップ ~共創力を身につけよう~」 ~第6回 本とITを研究する会セミナー~

登録開始から数日で満席になり、その後も11人のキャンセル待ちになった人気セミナーのテーマは、「グラレコ(グラフィックレコーディング)」である。
5月18日(金)、秋葉原ビリーブロード株式会社にて「はじめてのグラレコ・ミートアップ ~共創力を身につけよう~」が開催された。

◎講師が即興で作成した看板が参加者たちをお出迎えf:id:tech-dialoge:20180602180730j:plain

チームで結果を生み出すには議論や意思決定が不可欠。より効率的にする見える化のために、イラストや図表をふんだんに使った議事録「グラレコ」が取り入れられる機会が増えてきた。

今回は「チームの共創力を身に付ける」をテーマに、話題のグラレコの描き方とそのコツ、基礎スキルを身に付けるまでをゴールにセミナーをミートアップ形式で開催した。

講師は、本とITを研究する会のメンバーで、ビジュアル・プラクティショナーとしてイベントや会議の記録をリアルタイムでイラストにまとめる達人、宇治茶更(うじさかえる)氏。セミナーでは講師の持つ技能の一部を初心者でもわかりやすい形にブレイクダウンされ、レクチャーを挟んだ実習カリキュラムとして提供された。

◎ペンの先端f:id:tech-dialoge:20180602180843j:plain

ペンの先端は刀型になっており、この傾きの具合で線の太さが変わる。このペンづかいから実習がスタート。

◎スキルを高めるには作例に触れることが重要。講師が用意した多数の作例を研究中f:id:tech-dialoge:20180602180937j:plain

「困ったときは“困った”と声に出しましょう」という宇治茶更講師のアドバイスのもと、会場内は終始会話はたえなかった。

◎グラレコの練習を準備中f:id:tech-dialoge:20180602181055j:plain

会場内の熱気からも、表現したい人は多く、また、グラレコにより「心の中がアウトプットされた」という感動を得た人も多かった。言葉にできないなにかが、ペンを動かすことで目に見える形になるということは、人の心の不均衡状態を整える効果もあり、心理学的にもとても重要だと思う。

◎練習前の座学でもしっかりと学習f:id:tech-dialoge:20180602181221j:plain

以降、百聞は一見にしかずで、セミナーの模様を写真でお届けする。

◎練習開始!f:id:tech-dialoge:20180602181311j:plain

◎講師が多数の作例を提供してくれたので、安心して練習が進められたf:id:tech-dialoge:20180602181424j:plain

◎配布された教材。ノートに繰り返し描くことでグラレコ力が身につくf:id:tech-dialoge:20180602181504j:plain

◎上達したら、少なくともこのぐらいの色数は使いこなせるようになりたいf:id:tech-dialoge:20180602181551j:plain

◎上達には練習あるのみ。そして練習を続けるには「楽しむ」こと!f:id:tech-dialoge:20180602181642j:plain

三津田治夫

セミナー・レポート:5月11日(土)開催、「人にしっかりと伝わるアクティブ・ライティング入門」(後編)

セミナー・レポート後編では、Web記事の実例分析やワークショップを通して示された、実践メソッドをご紹介しよう。

「書く」技術を上げるポイントをまとめた三津田治夫講師作成の特別冊子も配布された。そばに置いて、繰り返し利用したい。

伝えるための媒体の選び方
「書く」メディアには、書籍、雑誌、POD(プリント・オンデマンド、オンデマンド出版)、電子書籍、Webサイト、ブログ、SNSなどがあり、発信難易度や発信スピード感、そして受け手の信頼性・信憑性に違いがある

たとえば、書籍は、発信難易度が高くて発信スピードは遅く、受け手の信頼性・信ぴょう性は高い。一方、SNSは、発信スピードが高くて発信難易度は低いが、受け手の信頼性・信ぴょう性は低い。いまは1部から出版できるオンデマンド出版があるほか、発信が簡単なSNSから火がついて派生することもある時代だ。メディアの特性を選んで書こう。

セミナー後半では、アクティブ・ライティングのポイントが、実例をあげてわかりやすく解説された f:id:tech-dialoge:20180525183541j:plain

企画から原稿完成までの7ステップ
ステップ1:企画を作る

企画は、与えたいものと世の中のニーズのすり合わせだ(セミナーレポート前編参照)。タイトル・テーマ・読み手の想定(年齢層・職業・ペルソナ)をして、アウトラインを書き出しながら考えるのがコツだ。思いついたことは、常々クラウド上のメモなどに残しておくようにするといい。

ステップ2:企画を人に見せる

周囲の人に企画を見せたり、Webなどのオンラインで発表して反応を見よう。見せる相手の人選は重要。ブログやSNSも利用して、信用できる人、好意で読んでくれる人を探そう。講師自身も、フェイスブックに短く書き、反応がよかったらブログに書くというようなことをしている。

ステップ3:執筆のスタイルを決める

単独で書くか、複数で書く共著にするかを決める。ただし、人数が多くなると管理が大変であり、取りまとめ役を置く必要がある。

文章を構造的に捉え、このステップを踏めば、伝わる文章が書ける!f:id:tech-dialoge:20180525152339j:plain

ステップ4:執筆時の作業内容の洗い出し

調査・取材→執筆→実例や画像など掲載用サンプルの作成→図表の作成→校正→推敲の手順がある。時間が足らず、校正や推敲はスキップされることがあるが、実は、ライティングと同じくらいの時間が必要だ。この有無が原稿のクオリティを決めるので、絶対に削らないこと。どうしても時間が足らないときは、レビューを飛ばそう。

ステップ5:原稿のレビューを考慮

知人や関係者にレビュー(下読み)を依頼して原稿の精度を上げる。SNSで呼びかけてもいい。共著の場合は、回し読みも有効だ。有名な著者さんもされており、著書の奥付に名前が記されていることもある。ライティングは1人でやっているように見えるが、実はそうではない。

ステップ6:執筆期間を見積もり、完成予定を作成

試し書きをしながら執筆速度を計測しよう。協業の場合は、できあがった予定を、外部と共有することも忘れずに。一般的な書籍執筆は、3か月~1年を要する。

ステップ7:執筆を開始し、完成原稿をアップ

ステップ4「推敲」やステップ6「完成予定」などを考慮しながら原稿を書く。図面を引いたら、一心不乱にひたすら書く文章の基本構造は、章→節→項→目の入れ子構造になっている。起承転結など物語構成を考えたり、身近なところから書き始めて、最後は視野を世界に広げるなどすると書きやすい。書けないのは、図面がないからだ。

書いているとあれもこれもと迷ってしまいがちだが、文章は書けば書くほど伝わるというのは勘違いだ。

推敲では、できるだけノイズを削り、読み手をハッピーにする文章に仕上げよう。感謝のメールがたくさん来ているなどとイメージしながら進めるといい。字面にも注目。漢字を減らして読みやすくすることも必要だ。

執筆とレビューが終わったら、アップ(入稿)する。

Webの「いいね!」機能で読まれるコツを見つける
ウェブではSNS機能が付いているものが多く、「いいね!」の数で人気のある記事かどうかがわかる。これを参考に、読まれる記事を分析してみるのもいい。文章だけでなく、コンテンツ全体を見ると、見出しや写真の重要さも発見できるだろう。

タイトルは簡潔であるほどいい。1画面に1~2本の見出しは欲しい。結論が分からないからこそ、読んでみたいと思わせる見出しもあるが、基本的には、文章の全貌がわかる見出しが望ましい。文章の最後の要約を使うのもコツだ。漢字が少なく、センテンスが短いと読みやすい。

ただし、お金を払って「いいね!」を獲得している場合もあるので考慮を。

Webの分析、推敲のビフォア・アフター、見出しをつけるワークで、実践メソッドを体感f:id:tech-dialoge:20180525152504j:plain

自分の存在意義を問いながら書こう
「書く」きっかけは、認められたい、売りたいという個人的、即物的欲求でよい。目標があれば書き進められるし、書き進めるうちに、即物的欲求が、昇華していく。文章がうまければ読まれるとは限らない。最も重要なのは、あなたが与えたい内容だ。どう相手をハッピーにさせるか、どう共有するかが重要なのだ。

『ティール組織』という本が売れている。自分の存在意義を問いながら仕事をすることがビジネスに成功をもたらすと説いているが、「書く」ことも同じ。与えたいことを徹底的に考えることや主体性・熱意が大切なのだ。自発的に「書く」機会を作ることは、とてもいいことだと思う。

積極的な「書く」がポジティブな「明日」を作る
ノーベル賞を受賞したガルシア・マルケスが『物語の作り方』で語っている。「理想を高く掲げて、一歩でも近づこうとすること。他人の意見に耳を傾けて真剣に考える勇気を持たなくてはいけない。そこから一歩踏み出せば、自分たちがいいと思っているものが本当にいいものかどうか確かめられるようになる」と。「書く」ことを通じてそれを実践して欲しい。積極的な「書く」が、コミュニティの活性化、顧客や仲間との関係の深まり、安定した収入などポジティブな循環を生む。ひいては素晴らしい明日を作るだろう。

前田 真理

セミナー・レポート:5月11日(金)開催、「人にしっかりと伝わるアクティブ・ライティング入門」(前編)  

5月11日(金)、会議室MIXER(日本橋本町)にて、「人にしっかりと伝わるアクティブ・ライティング入門」が開催された。

ITの発達が、あらゆる人に「書く」必要性をもたらしている昨今、「書く」悩みを抱える人は多い。第4回分科会となるセミナーには、幅広い年齢・職種の方が会同。本の執筆を目指す経営者、デザイナー、広告営業職、大学教員など、バラエティ豊かな参加者の多角な視点も、セミナーを充実したものにした。

講師は、「本とITを研究する会」代表・三津田治夫氏。編集者の視点から、アクティブな姿勢で、伝わる文章を書く術を伝授。講義とワークを通じ、参加者は大きなヒントを得たことだろう。

「書く」ことは、言葉へ積極的な働きかけ

意外かもしれないが、本とITには深いつながりがある。ITは情報を伝える技術であり、その原点は印刷。活字と活版印刷は、14世紀にドイツのヨハネス・グーテンベルクが発明。印刷機械は、ワイン絞り機を改良したものだったという。 

アイディアはあるのになかなか書き出せない。読んでくれる人がいるのか自信がない。いつまでに書き終わるかわからない……など、「書く」ことに様々な悩みを持つ人がいるが、その問題点は、「テーマ」「自信」「時間」の3つに集約される。 

「書く」ことは、言葉にかなり積極的に介入しなければ辛いものだ。しかし、それができれば、書けるようになる。つまり、「書く」とは、言葉にアクティブに関与することなのだ。 

歴史を振り返ると、時代の変革期には、言葉が積極的にかかわっている。たとえば、明治維新後の日本は、人々の言葉への働きかけにより作られた。日本初の国語辞典を編纂した大槻文彦、西洋の哲学用語を日本語に置き換えた西周蘭学を学んだ勝海舟など。言葉へ働きかける力が人間を動かし、世界を作った世界は言葉でできているの。言葉は、再現性・保存性・移動性に優れたコミュニケーションツールだ。変革の時代こそ、言葉への積極的な働きかけが求められる。 

時代はいま、あまり変化のない時代から、変化の時代へ突入している。20代の人が生まれたころから大きな変化が始まっており、40代後半から50代の中には、戸惑っている人が多いのではないか。そんないまを、変革の時代と定義している。言葉に関わることが重要な時期だからこそ、このセミナーを機に、ぜひ書く技術を身につけてほしい

「書く」ことの深堀りからセミナーはスタートf:id:tech-dialoge:20180522203343j:plain


受け手をハッピーにするために書こう

編集者視点から「書く」ことを見てみよう。メディアは、人とコンテンツのマネジメントでできている。コンテンツは、言葉・画像・音声でできている。コンテンツが完成するまでには、人間・時間・お金のリソース管理が必要だ。

与えられた時間内、コスト内で、受け手に向けてコンテンツを完成させるためには、文字や人に対していつも積極的に働きかけ、クオリティ管理する必要がある。

編集という言葉への積極的な働きかけにより、出版物やWebコンテンツが成立するのだ。そうして生まれるコンテンツは、受け手をハッピーにすることがゴールだと考える。いまは、一億層編集者の時代とも言われる。職種にかかわらず、ぜひそのマインドを持ち帰って欲しい。 

伝わる文章の基盤「テーマ」は、自分の中にある

書けない人の中には、テーマ設定で迷う人が多いが、企画はどのように作ったらいいのだろう? テーマの源泉は自分の中にしかない。流行っているから、人に言われたからではダメ。自分の中から湧き出てくるものでなければ書けないものだ。つまり、本当に書きたいことと、書かなければならない内容とを重ね合わせることが重要だ。

「テーマ」=「与えたいこと」とも言える。まずは「与えたいこと」を発見しよう。その手法は、まずは与えたいことを付箋に書き出し、それを「与えたい度」と「有益度(ニーズ)」で分類「与えたい度」と「有益度(ニーズ)」の交差点にテーマはある。この作業は最も重要で、最も時間を要する。しかし、難しく考える必要はない。与える側と受け取る側、いわば料理の作り手と食べる人と考えれば分かりやすいだろう。

大切なのは、「与えたい」を探すにも自発性が重要であるということ。それは歴史も証明している。明治維新フランス革命しかりだ。

お客さんに提案書を出す際も、上司から命令されたからではなく、自分の「与えたい」を探そう。あなたには必ず「与えたい」ことがある。その提供で人をハッピーにしよう。


アクティブ・ライティングは、自分の内外双方への積極的な介入からf:id:tech-dialoge:20180522203459j:plain


テーマを文章に落とし込む技術

伝わる文章を書くには、軽んじがちだが、作文の基礎の基礎である「てにをは」をしっかり使い分けることが大切だ。日記やブログなどで、見えたものや感じたものを積極的に文章に書き残し、言語化する癖をつけよう

見て、感じるためには、意識的に多ジャンル本を読むことや、意識的に街に出ることがおすすめ。散歩・美術館・博物館・勉強会・読書会などに出かけてみよう。実際に文章を書いたら、Webや電子書籍、オンデマンド出版などで、文章を発表し、読み手の反応を見ながら文章修行をしよう。その際、特定の人を傷つける表現には、十分注意して欲しい。

文章作成に役立つおすすめテキストも紹介f:id:tech-dialoge:20180522203606j:plain


日本語の作文技術』『実戦・日本語の作文技術』 本多勝一著(朝日新聞出版)

演劇入門』 平田オリザ著(講談社

物語の構造分析』 ロラン・バルト著(みすず書房

考える技術・書く技術』 バーバラ・ミント著(ダイヤモンド社


アクティブ・ライティング
を実践するには、書くきっかけを自己内部から徹底して掘り起こし、積極的な情報収集と内省をひたすら繰り返すことが必要。日記やメモなどでもよいので、とにかく考えて「書く」癖を付けよう。文章は心と体からできている。考え、動いていれば、文章技法は、後からついてくる

(実践メソッドは、後編で)

前田 真理

「非宗教的な精神性」が組織と人類を豊かにする:『ティール組織 ~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~』(フレデリック・ラルー著)

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英治出版『ティール組織』は600ページ近い大著でありながら発刊早々で異例の3万部を突破したという、近年まれに見る話題のビジネス書だ。事業のイノベーションに参考になる例がありそうで気になるので、早速買って読んでみた。

まず、巻末の「本書に寄せて」を見て驚いた。
かのインテグラル思想の権威、極言が許されればスピリチュアルの親玉、ケン・ウィルバーが寄稿していたのだ。
ケン・ウィルバーの代表作『無境界』の帯に書かれている「トランスパーソナル心理学」とは、人間どうしは個別な人間性を超えて抽象度の高い精神でつながっている、という仮説に基づいて展開される、ユングの流れをくむ新派の心理学だ。心霊や超自然現象、UFOや易学も研究したユングの流れを組むというぐらいだから、トランスパーソナル心理学には、一部で「オカルト」と呼ばれる要素も少なからず含まれていることはここで言っておく。

なにが言いたいのかというと、『ティール組織』という研究や調査の集大成でできたビジネス書の源流をたどってみると、実はスピリチュアルやオカルトに行き着くという点が非常に興味深いのである。しかもその本が累計3万部を超え販売されているということは、それだけの数のビジネスリーダーがこの領域に関心を示している、というあかしでもあるのだ。もしくは、「過去の成功」や「過去のデータ」がほぼ通用しなくなった現代において、ビジネスリーダーたちのもはや藁にもすがる気持ちの表れ、なのかもしれない。同時に言えることは、いまのビジネスに求められるものは、過去の事例やデータの反復ではない。これからおこりうる未来に焦点を当てること、である。これがまさしく、イノベーションに応用できる考え方だ。

「全体性(ホールネス)」とは、仏教でいう「縁起」である
前置きが長くなったが、『ティール組織』では、文化や組織の発展段階を色にたとえる。暴力と恐怖で人を支配する最も原始的な組織形態を「衝動型」(レッド)とし、現代の組織形態は多様性や文化を重視した「多元型」(グリーン)で、さらに進化した組織形態が、「自主経営と全体性(ホールネス)、存在目的」を重視する「進化型」(ティール、青緑色)である。本書では「進化型」の「ティール組織」をいかにして実現するかの考え方と方法を、欧米企業の膨大な事例を取りあげながら説明している。

前述の「自主経営と全体性(ホールネス)、存在目的」に関して、とくに日本人にとって「全体性(ホールネス)」はわかりやすいだろう。本文にあるように、組織の運営において絶対性ではなく、「ほかの人々との関係における全体性(ホールネス)」を重視する。日本人になじみが深い、仏教用語の「縁起」である。「ご縁」ともいわれるが、こうした人間どうしのつながりや偶然性を重視する考え方は、日本人ならすっと腹落ちするだろう。

訳者があとがきで「進化型のコンセプトを学ぶことで機能不全の(日本の)ハイコンテクスト文化を進化させることができるのではないか」と書いているように、「ティール組織」では、言葉による規約や定義の外にある、「精神性」ないし「非言語」の領域に重きを置く。聖書にも「はじめに言葉ありき」とあるぐらい、欧米ではあらゆるものが言語化され、定義され、規約される。そうした文化が当たり前にあるからこそ、法律を作ったり、プログラミング言語や複雑なシステムをつくったりができる。このマインドは残念ながら日本人のDNAには組み込まれていない(目下獲得中といったところ)。ゆえに『ティール組織』を読んで、「なんでこんなことをいまさらいうの?」と疑問を持つ日本人は多いかもしれないし、逆に、日本人ゆえに共感を持つ人も多いかもしれない。

互いの成長と承認が組織を豊かにする
言葉による規約や定義ではなく、人間の心の状態(精神性)に重きを置く「ティール組織」では、「自分の才能を発揮し使命を果たすことの方が報奨金や賞与よりも重要」な「内在的欲求で動く人に価値を置いて」いる。
また、「権力の獲得を、誰かが持つとほかの人の分が減る、という「ゼロサム・ゲーム」とは見ていない。全員がお互いにつながっていることを認め合い、あなたが強くなれば私も強くなれる、と考えている」と、「ティール組織」では「知識のない人から取る」「安く買って高く売る」といった、いままでの資本主義ないし競争社会の考えとはまったく一線を画している。すなわち、「成長と利益は目的ではなく、一日の終わりにその実現に向けた集団的な努力がどの程度進んだかを示す単なる指標に過ぎない。」のである。

「なにをいまさら、理想論を……」と思われる方も多いだろうが、上記を実装した事例は多数『ティール組織』の中に書かれている。ぜひ、手に取って読まれるとよい。そしてまた欧米は、幾多の理想を掲げ、社会実装し、挫折し、また理想を掲げ、社会実装し、挫折し……、を延々と繰り返している社会でもある。そうした循環や弁証法的発展の一例が、『ティール組織』であるともいえる。では、先を続ける。

「自己の存在意義を徹底して問う」が組織を強くする
人の心の状態に重きを置く「ティール組織」では「モチベーション」に着目する。たとえば、「人は、本当に意味があると確信できる目的を追求しているときには、効果を高めたいと思うものなのだ。」と、組織においても個人においてもつねに「目的」を問い、確信することに価値を置いている。これにより人は自分らしさを失わず使命感を獲得し、それを原動力として組織活動へ変換できる、という考え方だ。そして使命感を深めることにより、「自分自身の中の、そして外部世界とのつながりを通じて全体性を取り戻せる」のである。使命感の深まりは言葉や制度を超えた精神的な「全体性」(ホールネス)へとつながり、全体性は新たな使命感や原動力を生み出す「場」となる。つまり、「人々が自分の目的を人生の中心に位置づけるほど、組織の通気性が高くなる」のである。

また人のモチベーションを削ぐものとして、「判定(ジャッジメント)と統制」による従来型の評価システムを例にあげる。「ティール組織」ではむしろ「私たちが心から熱望していることは何か?」「世界になにを提供できるのか?」「私たち独自の才能は何か?」「何が障害になっているか?」「どうすれば、会社の中でもっと自分らしく生きられるようになるだろう?」という問いへの答えが、評価されるべき軸なのである。

言葉による規約や定義は組織社会を作り上げることに成功したが、文明の発展の中で組織社会は人の心の状態にネガティブな影響を与えるようになった。そこから脱却するためのソリューションが「ティール組織」である。組織社会を構成する言葉による規約や定義の代表例として「役職」があげられるが、「役職に社会的名声が伴っていると離れられなくなる。そしてたいてい自分がその役職「そのもの」であると勘違いしてしまう。」と、組織社会は勘違いや錯誤を生む温床ともなりえる。昔のロシア文学に、出世欲にとりつかれた男がその象徴である勲章欲しさのあまりに気が狂い、ある日突然自分が勲章に変身してしまったと思い込むという話があったのを思い出す。

言葉は重要。されど、言葉に支配されるな
「進化型組織には、もはや生き残りへの執着はない。」と、「ティール組織」は、マズローの欲求5段階説の最下位に位置する「生理的欲求」を追求するものではないことを明らかにする。経営者が口にする「生き残りをかけて」という合い言葉は「ティール組織」ではありえない。空気を吸うために必死に生きる人がいないことと同様(溺れかかっている人は別だが)、「生き残りをかけて」を合い言葉に高いパフォーマンスを発揮した企業がある、という話はあまり聞いたことがない。

「精神性」に関し、宗教と絡めて次のように結論づける。

「人々は、個人的な経験と慣行を通じて統合と超越を求める。つまり、以前の宗教的な対立を解消し、非宗教的な精神性を通じて現代の物質的な見方を変え、喜びと幸福をもたらそうとするのだ。」

『ティール組織』は、膨大な事例を集めたビジネス書であり、社会心理学の学術書でもあり、啓蒙主義や観念論など世界の知見を集めた哲学書でもある。そして宗教の対立が戦争や惨劇を生み出す現代にこそ、「非宗教的な精神性」が求められる、ということを訴えかけている。かつて日本人は大和魂天皇への忠誠といった「精神」というスローガンのもとに戦争を行ってきた。これに対する反省と罪悪感から、日本人には長らく「精神」という言葉がタブーになっていた。一方で、言葉による規約や定義が作り上げた金融社会は破綻を来し、組織社会は人間の心を疎外し、宗教の対立は戦争を生み出した。そうした時代の背景において、「非宗教的な精神性」が求められるようになったのである。

最後に、「神話」について言及されている点が興味深かったので引用する。

「神話は自民族中心主義的な「選民意識」を生み、女性への抑圧、奴隷制、戦争、環境破壊をもたらしたのだ。」

神話とは信憑性の有無ではなく、その時代の人たちが文句なしに信じ切った物語、すなわち、言葉の集大成のことを指す。資本主義や共産主義国家社会主義も、すべては神話の産物である。『ティール組織』では、神話という言葉の集大成が戦争や差別、環境破壊を生んだという。言葉よりも精神を重んじる「ティール組織」においても、組織を定義する「言葉」が必要であることはまことに皮肉である。まるでフランスの哲学者デリダが「言葉には意味がない」と、言葉で延々と説明しているようなものである。精神性は重要である。しかし、精神性を共有するには言葉という媒体が必要なのである。とはいえ、その媒体に支配されてはいけない、が『ティール組織』のいいたかったことである。

日本の組織から虐待の連鎖を断ち切ることはできるのか?
いま、地球上の資源に限りがあることや、差別や暴力、虐待の連鎖が戦争を生み出すことが世界的に認知されている。アムネスティ・インターナショナルなど欧米の団体が部族の習慣的な儀礼に対して「残酷」「暴力的」などと廃止を求める運動を端で見ていて、「民族の風習に介入するのは、それっていいのか?」と、私はかねてから思っていたが、どうもこれは、「差別や暴力、虐待の連鎖が戦争を生み出す」につながっているらしい。同様に、日本でもセクハラやパワハラという言葉がここ数十年で日常で使われるようになってきたが、組織の権力や性差を利用して力を行使することは「差別や暴力、虐待の連鎖が戦争を生み出す」につながるのである。昔は、部下の女性従業員の体に触れて「コミュニケーション」といったり、部下を密室に連れ込み叱り怒鳴りつけ「教育」とする管理職がいたものだが、これらは「差別や暴力、虐待の連鎖が戦争を生み出す」につながるので、いまはあってはいけないことである。いまの世界において、日本型の「ティール組織」とは果たしてありうるのだろうか。この点も考えさせられた。

*  *  *


スピリチュアルやオカルトは精神の探求ともいわれるが、企業の飛躍的な成長やGDPの永続的な拡大がもはや幻想になったこんにち、ビジネスの世界では、いままで真逆に位置していた「精神性」という、過去事例の反復や短期的な収益の数値化とは別次元の領域に焦点が当てられるようになったわけだ。ちなみに「ティール組織」の源流に思想を供給したユングと袂を分かったフロイトの理論構造は、上下階層をなすピラミッド型(「アンバー」)である。一方でユングの理論は、上下左右内外という複雑な構造をなすマンダラ型(「グリーン」ないし「ティール」)である。この点で、組織構造の発展と心理学の関係が見えて興味深い。

ロックやモンテスキュー、ルソーなどの啓蒙思想が世界に現れ、カントが人の心と存在の関係に扉を開き、ヘーゲルが高みに登りつめる精神性の弁証法的発展を解き明かし、フランス革命が起こり膨大な移民がアメリカ大陸に押し寄せ、マルクスが物質や環境が歴史をつくるという唯物論を唱え資本主義のあからさまな現実を暴き出し、ロシア革命が起こりボルシェビキソビエト連邦を建国し、第二次世界大戦を経て東西冷戦に突入、ベトナム戦争オイルショックベルリンの壁の崩壊による東西冷戦の終焉、リーマンショックによる貨幣経済の限界の露呈、キリスト教イスラムの宗教的対立を経て、現在にいたる。

今後、非宗教的な精神性とビジネスの融合が世界にどれだけの成果をもたらすのだろうか。そして、どれだけの幸福を世界にもたらすのだろうか。未来を考えていると、楽しみである。

◎参考図書

ケン・ウィルバーの代表作
『無境界 ~自己成長のセラピー論~』
『科学と宗教の統合』

「自主経営」の参考になる事例
『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(ロバート・キーガン著)

トランスパーソナル心理学の入門・概論
『24時間の明晰夢―夢見と覚醒の心理学』アーノルド・ミンデル著)
『うしろ向きに馬に乗る―「プロセスワーク」の理論と実践』(アーノルド&エイミー・ミンデル著)

三津田治夫