本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

セミナー・レポート:12月7日(金)開催「2019年新入社員育成対策・特別講座 正しいITエンジニア研修を考えるセミナー」~本とITを研究する会協賛~

f:id:tech-dialoge:20181209190612j:plain◎日本のIT産業構造を図示する株式会社クロノスの大石宏一氏

12月7日(金)、株式会社クロノス東京本社セミナールームにおいて、同社大石宏一氏による「2019年新入社員育成対策・特別講座 正しいITエンジニア研修を考えるセミナー」が、本とITを研究する会の協賛により開催された。

新入社員の多くは「やりがい」を見出せないことにより意欲が落ち、ひいては早期退職に至ることを指摘。
同時に、新入社員教育において「優しさと甘やかしは違う」という線引きが大切であることも指摘。
現場の厳しさも伝えつつ、仕事達成の先にあるやりがいや、達成へいたる基盤となるチーム意識、他愛の意識を、新入社員教育時点で共有することが鍵であることを大石氏は強調した。

f:id:tech-dialoge:20181209190720j:plain◎内製研修のメリットとデメリット

IT教育におけるヒューマンスキルの重要性を強調する中、仕事の姿勢としてあるべき「フォー・ミー」「フォー・アス」「フォー・ユー」の発想が見逃されがちなことを解説。
エンジニアは自分の好奇心から「フォー・ミー」思考で仕事を進めがちである。
そしてキャリアが積まれることでサービスの受け手を視野入れた「フォー・ユー」思考に成長する。
しかしここで見逃していけないのは、「フォー・アス」思考が間に入ることである。
つまり、チームや社会を視野に入れた「フォー・アス」思考を経たうえで、「フォー・ユー」思考に至ることが重要である。

f:id:tech-dialoge:20181209190806j:plain◎新入社員研修のさまざまなスタイルを分類

IT教育の現場では講師の高齢化が進み、慢性的な教育者不足に悩まされている。
こうした現状において、2020年にきたる30万人のIT人材不足は、どのように解消されるのだろうか。
社内の内製教育だと、講師が現役エンジニアであることがほとんどなので、とくに繁忙期、生産性の低下に伴う売り上げ減少という、経営にとって大きな打撃を受ける。

f:id:tech-dialoge:20181209190832j:plain◎政府の助成金制度の仕組みを紹介

政府の助成金制度を活用することで、実質コストゼロでIT教育を受けることもできるが、その他にも選択肢が増えることを望む。
たとえば、政府が率先してIT教育者を増やす政策をとることは、状況改善への期待が大きい。
また、eラーニングやIT書籍など、教材となるコンテンツへの積極的な投資、という政府の動きにも期待したい。
IT人材不足という国家規模の深刻な問題を、教育者の力やコンテンツの力で克服できることを、私は願っている。

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30万人のITエンジニア不足が予測される、2020年のIT業界問題をご存じの方は多いはずだ。
12月7日(金)、その課題解決につながるセミナーを実施する。

私自身もこれには特別な問題意識を持っている。
ちなみに30万人がどんな数かというと、私が住む埼玉県越谷市の人口とほぼ同じ数である(越谷市は33万人)。
1つの市の人口に匹敵する数の、しかもITエンジニアという限定された職業で起こるこのような事実は、深刻な問題だととらえずにはいられない。

20年以上前のエンジニアの学びはほぼ独習だった、私の場合
私がITエンジニアだった時代は20年以上前。1991~1995年の4年間だった。
東芝の関連会社の総合情報システム部に配属され、1か月ほどの研修でコンピューティングの基礎とCOBOLプログラミングの基礎を学んだ。
高田馬場の教室に通い、PC98に表示される解説をひたすら見て聞くというものだった。
最後に少しだけコーディングもした。
わからないところがあったら教室にいる教官に随時質問するというカリキュラムだった。

現場に配属されると、OJTCOBOLの実践編とRPG2/RPG3を学んだ。
OJTとは名ばかりで、先輩からソースコードのダンプリストを渡されるだけ。
さすがにそれでは理解が深まらず、COBOLに関してはオーム社の入門書を買ってなんとかやり過ごしたが、RPGIBMの解説書の内容と翻訳が非常に不親切で、よくわからなかった。

現場にはJCLというIBMオリジナルのジョブ制御言語があり、さらにキャノンのレーザービームプリンターの帳票を描画するFGLというオリジナル言語も。
これら多くは先人のソースコードを読み、マニュアルも無しに純粋な独学で学び取る必要があった。

現場で動いていたハードウェアははじめはIBMの大型汎用機4381とオフコンのS/36。数年してこれらは9121とAS400にリプレイスされた。

私が任されたのは、いわゆる「メインフレームのお守り」だった。
オープンリール(当時はまだあった)やCTAPEの管理、用紙の出し入れ、COBOLの開発からバグ取り、海外輸出入システムの設計まで、一通りやらされた。

期末に予算が余ると上司が研修に行かせてくれた。
私が最後に受けた研修が、DB2プログラミング入門だった。
川崎のIBMの研修所に通い、短期間でリレーショナルデータベースの基礎からSQLまで、いろいろと学ばせていただいた。

システムがネットワーク化するとともに、求められる知識量も膨大に増加
世の中はクライアントサーバーシステムに移行していた。
若手エンジニアの多くはパソコンでVisualBasicをやらされていた。
当時の私としても、「VisualBasicやりたいなあ、大型汎用機、いけてないよ」などと思いながら、4年間のエンジニア人生に終止符を打った。

すでに気づいた人は多いと思うが、上記には「インターネット」という単語が一つも出てこない。それも当然で、1995年の時点でインターネットを使う企業はほとんどいなかった。せいぜい、あまり機能していないホームページぐらいで、インターネット・メールを使う企業すらまだまだ少なかった。

現在に目を転じると、ハードウェア(スマートフォンなどのモバイル機器、サーバーの小型高速化)とソフトウェア(オブジェクト指向開発環境、ライブラリ群、開発言語、AI)、インフラ(クラウド、高速ネットワーク環境)の急激な発展により、ご覧のとおりのネット社会になった。

1995年からの23年間で、ITの世界が拡大するとともに、このように、関連するキーワードは膨大に増加した。

当然、ITを生業としたい人たちは、これらキーワードを一通り理解しておく必要がある。
そして各分野の専門知識を深め、仕事のスキルとして育てていく必要がある。

これは大変なことである。

昔中国の方と話していたときに、「学生時代は歴史の授業が一番嫌だった。4000年分のことを学ばなければならず、覚えることが多すぎ」と聞いたことがある。

中国4000年の歴史とIT23年の歴史には大きな時間差がある。
とはいえ、IT23年の歴史の密度は、4000年まではいかないにしても、2000年ぐらいに匹敵するのではないか。

多摩大学大学院の田坂広志教授が、現代とは紀元後の2000年における中世である、ということを言っていたのを思い出す。つまりいまの時代、あと数十年もしくは100年以上激変を繰り返し、過去2000年とはまったく異なる文化が作られていくのである。レイ・カーツワイルの「シンギュラリティ」も、これに似た考え方である。

高度に複雑化したいまのIT業界において、あるべき学びの姿とは?
高速高密度に発展を遂げたITを生業にするエンジニアにとって、理解すべきこと、学ぶべきことは非常に多い。「どこから手を付けてよいかわからない」という声もしばしば耳にする。コーディングの手法を知っているだけでもその裏のネットワークやデータベースの知識がないことには次のステップに進みづらい。ネットワークのことだけを知っていてもインフラの知識もある程度は必要になってくる。このように、ITの知識はどこかに境界があるわけでなく、たえず隣接の知識が求められるのである。

私がエンジニアだったインターネットのない古い時代は、ITの仕組みが単純で、OJTないし独学でなんとか業務をやり過ごすことができた。
しかし、高度に複雑化したいまのITの仕組みにおいては、OJTや独学には限界がある。つまり、時代は新しい学びの形態を求めているのである。

朝会や勉強会、コミュニティでの自主的な学びから、オンラインによる独習、先輩エンジニアによる社内研修、研修会社によるオンサイト研修、合同研修まで、ITの知識体系の複雑多様化とともに、学びの体系も複雑多様化している。

12月7日(金)のセミナーでは、こうした複雑多様化したITの知識をどのようにとらえ、どのように学ぶべきか、学びのあるべき形を、対話し、ともに考えていきたい。

興味のある方は、以下のサイトからご登録いただけたら幸いである。

【12/7(金)第2部開催決定】「2019年新入社員育成対策・特別講座 正しいITエンジニア研修を考えるセミナー」 ~本とITを研究する会協賛~

三津田治夫

日本初の駐輪場シェアリングサービス「みんちゅう」のビジネスモデルを分析する

シェアリングエコノミーがついに駐輪場の世界にまで進出してきた。

11月22日(木)、東京ビッグサイトの「シェアリングMeetup Tokyo」で展示された「みんちゅう」(https://www.min-chu.jp/)は、アイキューソフィア株式会社(https://www.iqsophia.com/)が運営する日本初の駐輪場シェアリングサービスだ。

同サービスは2017年にリリースされ、首都圏を中心に現在約300か所、1000台を超える駐輪場を提供している。

自転車1台分の空きスペースさえあれば、有料駐輪場のオーナーになれる
「みんちゅう」は、空き地や駅前商店の駐輪場、宅地のスペースなど、自転車1台分の空きスペースさえあれば、そのスペースの所有者が「有料駐輪場のオーナー」になれる、というサービスである。

駐輪場のオーナーは住所や注意事項、現場の写真、貸出日をネット経由で登録し、駐輪スペースに「予約専用有料駐輪場」と表示するだけでよい。利用料金は駐輪場のオーナーが決めることができる(1日1台100~200円)。

スマートフォンアプリ「みんちゅうSHARE-LIN」をiPhoneで表示した様子f:id:tech-dialoge:20181123181349j:plain

利用者は、スマートフォンアプリ「みんちゅうSHARE-LIN」を導入する。
アプリ内で地図が表示され、駐輪可能な周辺の場所が表示される。そこで希望の場所を選択し、電話番号と自転車防犯登録番号(もしくは車体番号)、自転車の写真、利用したい日付を入力する。アプリ内でクレジットカード決済を行うことで、駐輪場の利用登録が完了となる。

利用者が支払った料金中の税込み60%を駐輪場のオーナーが受け取り、残りは「みんちゅう」の取り分になるという収益配分の仕組みだ。

◎これだけのスペースがあれば「有料駐輪場のオーナー」になれる(展示会会場から)f:id:tech-dialoge:20181123181445j:plain

駐輪場のオーナーに初期費用や運営費用、駐輪場に機器は設置されないのでそのコストはかからず、簡単に副業が開始できる。さらに、店舗のプロモや集客などの実験、テストマーケティングに活用することも可能だ。利用者においても年会費など初期費用が不要で、そのつどの決済でリアルタイムに利用することができる。

神奈川県大和市埼玉高速鉄道との地域貢献サービスに注目
個人や企業レベルを超え、「みんちゅう」は地方自治体や鉄道会社との提携を通し、地域貢献の一環としたサービスも展開している。

◎「みんちゅう」の活用事例(展示会会場から)f:id:tech-dialoge:20181123181546j:plain

その一つに、2018年2月に発表された、放置自転車問題の解決に向けた神奈川県大和市との共同プロジェクトがある。
「みんちゅう」を運営するアイキューソフィア株式会社は同市と協定を結び、放置自転車の多い大和駅中央林間駅の周辺でサービスを提供。同市は交通安全巡視員を派遣し駐輪場への不正駐輪のチェックを行う。このような役割分担のもと、運営が実現されている。これにより、市の予算軽減にも寄与している。同市は、商店会や商工会議所との連携サービスも検討しているとのことだ。

もう一つ、2018年10月に発表された、駐輪場不足に悩む浦和美園駅の事例がある。
浦和美園駅周辺は住宅開発から駐輪場不足が生じ、埼玉高速鉄道は2016年と2018年に月ぎめ駐輪場を設置するものの、いずれも即満車状態となり、次の打ち手に頭を抱えていた。

そうした背景のなか、アイキューソフィア株式会社と埼玉高速鉄道が連携。駅東口側と西口側にある未利用地を60台分の駐輪場とするプロジェクトが発足。地域の問題解決に貢献している。利用料は1日1台150円で、埼玉高速鉄道はサービスが成功すれば沿線にも展開する姿勢だという。

拡散と共有が収益を成長させるシェアリングエコノミーへの期待
1日1台150円で60台分とは、単純計算で月の売り上げは27万円。
これを「一企業として取り組むべきビジネスなのか?」という疑問は、シェアリングエコノミーの発想からかけ離れるといえよう。

この売り上げを見ただけでは、確かに微々たるものである。
しかし、シェアリングエコノミーは、「拡散と共有」によって広がる。
1日1台150円で60台分の契約が10になれば、単純計算で月の売り上げは270万円。100になればさらにその10倍である。
ネットワークとソフトウェアの力を借りることで、これが実現可能となる。
また、スポーツクラブやテニスコートなど他ビジネスへの横展開や、マーケティングツールとしての活用など、このビジネスには限りのない可能性を秘めている。

どんな未来が訪れるかは誰にもわからない。
この時代の資本主義経済が産み落とした申し子が、ポスト資本主義経済ともいえるシェアリングエコノミーである。

自転車の「あり方」が再定義されたいまの「みんちゅう」への期待
「みんちゅう」の対象とする自転車のあり方も、この20年で大きな変貌を遂げた。
以前は自転車といえば、お買い物で使うママチャリとスポーツ用途のサイクリング車、新聞配達などで使われる業務用軽快車という、ほぼ実用用途の3種類しかなかった。

しかしいまでは、これらに加えてマウンテンバイクやロードバイク、フォールディングバイク、電動自転車から数百万円の高級ブランドまで、私たちを取り巻く自転車という存在そのものが大きな様変わりを遂げた。
駅前の自転車屋が軒並み倒産したと思ったら、タイヤメーカーが全国の自転車チェーン店を仕掛けてきたり、高級自転車だけを扱うプロショップが現れるなど、産業構造も大きく変貌している。
1日1台1万円で駐輪する高級駐輪場、というビジネスが出現してもおかしくはない。

出現する未来に対して「そんなバカな」と受け入れを拒む大企業的な発想を通すことは、この時代、なかなか難しい。

自転車はCO2排出が極めて少なくエコであり、健康を推進し、災害時には機動的であることから、2017年5月には政府が「自転車活用推進法」を施行している。
国家レベルでも、自転車の意味付けや価値づけは、かつてのものとまったく異なっている。

こうした意識構造や産業構造の大きな変革を、「みんちゅう」は上手にとらえているといえよう。

シェアリングエコノミーを展開する「みんちゅう」の次の動きにぜひ注目したい。

三津田治夫

2020年に来る30万のIT人材不足に備え、ITエンジニア研修を考えるセミナーを開催します

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いま日本は、深刻な人材不足に見舞われている。
仕事があるのに人材が確保できずに倒産する企業もこれからは増える。
とくにIT業界は深刻である。

経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、2020年にはビッグデータやAI関連の先端IT人材が4万8000人不足することが想定され、IT業界全体では実に30万人の人材不足という、深刻な状況が予測されている。

本づくりの現場から見えるエンジニア数の減少とスキル・意欲の低下
私は23年間エンジニア向けIT書籍の編集制作に携わってきたが、本づくりの現場からもエンジニア数の減少とスキルや意欲の低下が顕著に見て取れる。

まず、本を購入するエンジニアが激減している。これは出版不況という理由以外に、「本まで買って学ぶ必要はない」と考えるエンジニアが増えていることが大きな理由だ。「学習はWebで済ませる」というエンジニアとは実際に何人か出会ったことがある(とくにWeb業界は顕著)。

もう一つ、本づくりを通してエンジニアのスキルや意欲の低下が見て取れる点として、読者からの問い合わせの内容があげられる。以前は、ソースコードの誤りなど(あってはいけないことだが)、読者であるエンジニアが問い合わせ窓口から丁寧に教えてくれたものだ。また、感謝の言葉も多数いただいた。感謝の電話までくれる読者もいた。しかしいまでは、これらが極端に少なくなってきた(感謝の言葉はほぼ皆無)。

まさにこれらは、かつてのオープンソース・ソフトウェア開発の時代に起こった出来事だった。
「エンジニアたちと一緒に本を作ってきた」時代。
ひと昔以上前、2000年代なかばまでの出来事だった。

オープンソース・ソフトウェア開発時代を乗り越えたエンジニアと「教育」を考える
こんな時代、ソフトバンククリエイティブの編集者だった私と共に過ごしたエンジニアが、12月7日金曜に開催の「2019年新入社員育成対策・特別講座 正しいITエンジニア研修を考えるセミナー」を主催する、株式会社クロノスの方々だ。

この方たちは、LinuxやSpring Freamwork、Seasar2など、当時のオープンソース・ソフトウェアの最先端技術を熱意をもって追いかけ、調査し、技術情報を書籍にまとめ上げた。私は当時の新大阪の本社にお邪魔し、原稿を受け取りに行くことはたびたびだった。このときのメンバーの一人である大石宏一氏はいまでも同社で教育者として力を注いでいる(登壇記事:「AI(人工知能)ビジネスの可能性を考える」~第1回 本とITを研究する会セミナー)。他社に移られた方、独立され世界中を飛び回っている方、さまざまなエンジニアたちが書籍の執筆を支えてくれた。

私が今回のセミナーに期待していることは、このような時代をともに過ごし、日本のエンジニアリングの底上げに注力した同志に、今度は教育を通して、日本のエンジニアリングの底上げに貢献していただきたい、という点である。その考えのもと、私が主宰する「本とITを研究する会」がセミナーを協賛する運びになった。

教育の力が日本のエンジニアリングを救う
日本を襲うIT業界の人材不足や技術力の低下は、教育の力で歯止めができる。そして5年後には、日本ならではのITの技術力を手にしている。私はそう確信する。教育の力は、エンジニアの育成だけではなく、エンジニアとノンエンジニアとの間でビジネスの話ができる人材の育成や、児童にエンジニアマインドを育成するなど、各方面から日本のエンジニアリングの底上げに貢献できる。

21世紀、日本人はさまざまな天災や世界的な動乱に飲み込まれ厳しい状況に置かれている。しかし日本人には本来、明治維新から戦後の復興まで、奇跡的な変身と復活を遂げてきた胆力がある。そうした確信のもとで、日本のIT人材復興プロジェクトを支援していきたい。これが、本セミナーの根底に横たわっている考えである。

本とITを研究する会ともども、こうした活動に貢献することができたら誇らしい。そして、5年後10年後という、日本の未来を底上げする力になれたらうれしい。
セミナーの参加を通して、皆さんがそのお力になっていただけることを切に願っている。

12月7日(金)開催「正しいITエンジニア研修を考えるセミナー」参加登録ページ
https://goo.gl/YbDHVn

三津田治夫

台湾で考えたメディアのこと、日本の「本」のこと(後編)

台湾のテレビを見ながら日本のメディアのことを考えていると、ふと、日本の出版のことが思い浮かんだ。
出版業界も視聴率を求めるテレビ業界と同様、経営難で生き残るために必死で、短期で収益化できる本が評価される傾向が日増しに高まっている。

台北のメディア企業の広告。「台灣的眼晴」という言葉がなんとも印象的f:id:tech-dialoge:20181115150605j:plain

そして、短期で収益化できる本の多くは「面白い」。
食べ物で言ったら、甘くて柔らかく口触りのいいもの。
甘くて柔らかく口触りのいいものばかりを食べていると、歯や顎が弱る。
同様に、甘くて柔らかく口触りのいい本ばかりを読んでいると、思考が弱り、言語運用能力が低下する。

食べ物と同様、甘くて柔らかく口触りのいい本には存在意義はある。
また、読むこともよい。
しかし、それに「偏る」のは、明らかに上記の弱りや低下を引き起こす。

以前は、娯楽雑誌や趣味の書籍と共に、文学や哲学、思想の本も書店に並び、読者はバランスよく言葉を摂取していた。
言い換えると、娯楽と教養のバランスがとれていた。
しかし、そのバランスがいまや崩れている。
これは先人の嘆きというものではなく、台湾のメディア(テレビ)との比較において、はっきりと感じたことだ。

台北の書店にて。語学の学習書に人気が高いf:id:tech-dialoge:20181115150649j:plain

以前の出版業界には、文学や哲学といった「地味だけれど人が生きるために必要な本」を支えるビジネスモデルが存在していた。それがいま、崩壊している。

最近は、個人が小さな書店を開いたり、ブックカフェを経営したり、小さな書店が同人誌を発行したりなど、いままでには見られなかった動きが出版業界に出てきている。
これは「地味だけれど人が生きるために必要な本」を人に届けるための、本そのものだけを収益の手段としない、新しいビジネスモデルだ。

作家の高橋源一郎さんが、「文学はなにに必要なのかと聞かれると即座に“生きるために必要”と答える。文学には生きるために必要な考えや言葉が詰まっている」と言っていたのが印象的だった。

私個人としても、「地味だけれど人が生きるために必要な本」をいかに人に届けるかが、大きな課題だ。そのための一活動として、人の目に触れづらい書籍をブログやSNSで紹介することを意図的に行っている。

とくに社会の頭脳を担うITエンジニアたちには、本をたくさん読んでもらいたい。
そんな思いを抱きながら、「本とITを研究する会」の運営を行っている。

私の経営する会社でも、「地味だけれど人が生きるために必要な本」を人に届けるためのビジネスモデルがいつか構築できたらと、活動している。
これは私のライフワークでもある。
似たようなゴール意識を持った同志たちがいつか集まることを、期待している。

(おわり)

三津田治夫

台湾で考えたメディアのこと、日本の「本」のこと(前編)

9月27日から4日間、高雄経由で台北のITコンベンション「Taiwan Innotech Expo」と「Discover Advanced Trends in E-commerce 2018」に仕事で行ってきた。

超高層ビル台北101」を直下から撮影f:id:tech-dialoge:20181110191750j:plain

超高層ビル台北101」に隣接する台北世界貿易センターで開催され、地元企業を中心に、世界中からAIやロボティクス、IoTの展示など、多数の企業が出展していた。

◎「Taiwan Innotech Expo」の入り口付近f:id:tech-dialoge:20181110191841j:plain

◎「Discover Advanced Trends in E-commerce 2018」の会場内f:id:tech-dialoge:20181110191919j:plain

コンベンションにしては日本のAIバブルのような騒がしい雰囲気はなく、地に足のついた技術を中心におとなしくブースが構えられていた。

◎「Discover Advanced Trends in E-commerce 2018」の会場ブースf:id:tech-dialoge:20181110192035j:plain

ホテルに戻ってテレビの電源を入れると、政治や経済のニュースが終始放映されているのが、とても印象的だった。

日本ではここ20年ほどで、芸能人の息子が覚醒剤やった、相撲の話など、政治経済以外のニュースが露出される割合が日増しに増えてきた。
芸能やスキャンダルも娯楽のニュースとしてもちろん必要だが、言い換えるとこれら要素は、政治や経済のニュースを飽きさせずに見せるための呼び水でもある。

台北の旧市街「迪化街」(てきかがい)f:id:tech-dialoge:20181110192120j:plain

◎迪化街南の大通りf:id:tech-dialoge:20181110192220j:plain

テレビは娯楽の道具であると共に報道の道具。台湾でこれを改めて感じた。報道で政治経済を知ることは、人間にたとえると、自分自身の健康状態を知ることに似ている。

娯楽の提供に偏りすぎてしまったいまの日本のテレビ業界は、経営難で視聴率を稼ぐことが生き残りの手段となった結果である。しかし、国民が報道を通して自国の健康状態を知る機会が減ることで、日本の明日ははたして大丈夫なのかと、いささか不安になった。

台湾には、中国や日本との歴史や国交のこと、国連に加盟していないこと、兵役があることなど、日本人には知り得ないさまざまなお国事情がある。とはいえ、この報道格差には驚きを隠せない。

後編に続く)

三津田治夫

澁澤龍彦の遺作、海洋伝奇小説:『高丘親王航海記』(澁澤龍彦著)

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澁澤龍彦の遺作小説。同氏が亡くなられたのが私がちょうど大学のときで、いまでもはっきりと覚えている。

同級生には、彼の作品のどこが面白いのだろうかという懐疑的なものが多く、私自身同時代に何冊か読んでいたが、さほど印象は強くなかった。
彼の死語数年を経てエッセイや翻訳をいくつか読んでみたが、まあ、どれもこれもよくできているというか、感心の一言だ。
悪徳の栄え』はよくも訳したというか、あの見事な日本語運用能力は、まさに、澁澤龍彦あってのサド、という事実を再認識した。

『高丘親王航海記』は、この作家のオリジナル小説。
作家58歳の作品で、遺作とは思えないようなみずみずしさをたたえた、空海を師とする高丘親王の天竺への冒険を描いた伝奇小説、海洋文学である。
人間の言葉を喋るジュゴンや、犬の頭を持つ人間の登場、東南アジア諸国で遭遇する謎の現象など、澁澤龍彦氏の闊達なファンタジーがちりばめられた作品だ。

オビには奥野健男氏の言葉として「私小説ではなく奇譚において作者が直接的自己表出できるというのは稀有のことではないだろうか。」とある。確かに同感だ。本当に楽しそうに、ユーモアたっぷりで、面白おかしく小説を書いている姿が想像できる。

さらに感じるのは、澁澤龍彦氏の体験の大半は「言語体験」である、という点だ。作家が言葉で得た情報を、頭の中でさらにふくらませ、それを物語化していくという、作家ならではの天才的な思考プロセスが手に取るようにわかる。

1987年に亡くなってしまったこの方、ビッグデータやAIの跋扈するいまの社会に生きていたら、果たしてどういった作品を書いていただろう。もしくは周囲にはまったく感知せず、一貫してあのスタイルを崩さず、書き続けていただろうか。非常に興味深い。
『高丘親王航海記』は、箱入りで、装幀も美しくすばらしい。

三津田治夫