本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

「夏休み子供科学電話相談室」から学ぶ「どうして?」の力

f:id:tech-dialoge:20190818215652j:plain

毎年夏になると、NHKラジオで恒例の「夏休み子供科学電話相談室」が放送されている。
最近は仕事で子供たちと接する機会が多い関係もあってか、
これを聞くたびに、子供たちの感性の豊かさに心が動かされる。
たとえば、

「どうして星は流れ星になって落ちてこないのですか?」
「どうして蜂は自分でとった蜜を人間に取られてしまうのですか?」
「どうして蝉の幼虫は硬い土を掘れるのですか?」
「蝉の幼虫は掘った土をどこに捨てているのですか?」

など、相談内容はバラエティに富み、聞いているだけでワクワクする。
大人は、生きていくために知識と情報を利用している。
同時に大人は、まかり間違えると知識と情報の奴隷にもなる。
子供の疑問提示力というフィルタにかけると、
そういった大人の弱点が改めて浮き彫りになる。

子供の持つ純粋な問いによる「どうして?」には、
とてつもないパワーが潜んでいる。
これはすなわち、生きるための創造性の源泉に他ならない。

夏休み子供科学電話相談室の中で、私に最も印象的だったものがある。
それは、小学5年生のシンジ君が出した
「どうして太陽は光っているのですか?」
を巡る問答だった。
先生による回答は、
「水素とヘリウムが核融合を起こしているんだよ。
シンジ君、核融合って、わかるよね?」
であった。
シンジ君は便宜上「うん!」と元気よく答えていた。
(もちろん、水素とヘリウムが核融合を小学生がわかるわけない)

私はなにが言いたいのかというと、子供は成長と共に「しったかぶり方」を学ぶ。
これに伴い、子供の素晴らしい「どうして?」の力も喪失していく、ということだ。

**「どうして?」の力を鍛える本当の意味**
子供たちは「どうして?」の力の喪失と共に、大人へと成長していく。
しったかぶりをする大人が多いのは、こうしたプロセスを経て成長した
子供たちの一つの結果である。
「どうして?」の力が衰退した中で疑問が発生すると、
人はたびたびGoogle検索に依存する。
Google検索は非常に便利でスピーディで、私もよく活用している。
むしろ、日常の疑問を解決する中、なくてはならない存在だ。
しかし忘れてはならないことがある。
これは、あくまでも「キーワードによるデータベース参照」に過ぎないということ。
疑問となる言葉をインプットすると、答えがアウトプットされてくるだけだ。

Google検索は、人間の「どうして?」の力を動かすものではない。
また、その力を鍛えるものでもない。
「どうして?」の力を動かすことは、ある意味精神的な苦痛が伴う。
それを回避するためにも、キーワードによるデータベース参照は
実に手っ取り早いし、精神衛生的にもよい。

とはいえ、「どうして?」の力を動かさないことには、その力は確実に錆びる。
だからこそ、大人になっても「どうして?」を持ち続け、動かし続けられる状況が、
非常に好ましいといえる。

狭い土地の中で多言語多人種がひしめき合い、価値観のるつぼの中で秩序を保つヨーロッパでは、
人が「どうして?」を持つことは当たり前である。
むしろ、「どうして?」を持たないと、生きていけない。
なぜなら、理由がわからないものに個人が判断を下すことができないから。

日本人の場合、他人や目上の人間に判断の多くをゆだねる。
だから、「どうして?」は、不要だ。
島国として海で他国から守られていた日本人にとって、かつてはこれで通用していた。

しかしもはや、ネット社会により国境や人種、性別の壁がなくなりつつある。
もはや、「どうして?」のない生き方は、通用しない。
本当の意味で、自律した判断能力が個人に求められる。
ゆえにいま、日本人は、「どうして?」の力を鍛えることが迫られている。

その「どうして?」の力を鍛えるのに最適なツールは、本を読むことである。
本を読むことは、自問自答の訓練である。
読書とは、本からの問いに答え、本に問い返すことを、延々と反復する作業である。

子供たちが持つみずみずしい「どうして?」の力を見習おう。

そして大人たちも、本を読み、生きる力として、「どうして?」の力を鍛えよう。

三津田治夫

鎌倉仏教が教える、企業経営に流れる宗教性と精神性:『立正安国論』(日蓮 著)

f:id:tech-dialoge:20190812110919j:plain

会社勤めのころからビジネス書や経営者向けの本をたびたび読んできたが、実際独立するにおよんで、この本ほどいまの心に響くものがなかったことを告白する。

立正安国論』とは日蓮鎌倉幕府に提出した檄文である。
そして日蓮とは日蓮宗の宗祖で、宗教家である。

中公新書版の本書には『立正安国論』のほかに、流刑先の佐渡で語られた心情や支援者たちへの謝礼の手紙、弟子への手紙など、日蓮の人となりがうかがえる貴重な文書が収められている。

多くの経文を自由に読み解き伝える文章家としての彼の天才性や、二度の流刑におよんで生き延びた彼の体力や精神力は奇跡以外のなにものでもない。

真言宗をはじめ、当時の新興宗教である浄土宗や曹洞宗も全否定し、「法華経あるのみ」という姿勢を一貫して崩さなかった日蓮ゆえ、非常に戦闘的で過激な宗教家であると歴史的にはとらえられている。

しかしふと、彼の文面を読んでいてほうふつさせられたのは、ニーチェの『この人を見よ』である。
腐敗した現代社会を救える力は自分にしかないと言わんばかりの、ある種の狂気にも似た迫力がある。

リーダーたるや、何度も暗殺の憂き目にあって、反対者にもめげず、孤立してでも最後まで戦い抜く力がないとそのお役目はつとまらない。
本書を読んで強く感じた。

同時に、経営者と宗教家のアナロジーも、ここで強く感じた。
パナソニック創業者の松下幸之助のエピソードにこういうものがある。
あるとき建造中の天理教の施設を訪問する機会があった。
そこで信者たちが無償で、笑顔で生き生きと汗水流しながら材木や土砂を運んでいる姿を見た。
松下幸之助はその光景を目にしたとき、「これが経営だ」と、すとんと腹落ちしたらしい。

経営者の発信する情報に帰依し、待遇や給与の多寡にかかわらず笑顔で生き生きと働ける職場と精神の状態を提供する。
こうした教祖としてのスキルが経営者には必要である。
これを松下幸之助は鋭く見抜き、経営に実装し、日本の資本主義経済の基盤と大企業集団を創造した。

経営の神様と言われる松下幸之助は、換言すれば、経営教の教祖である。
経営は科学というが、その根底には深く宗教が備わっている。
参考として、経営と宗教性との深い関連について、以下のエントリーをご参照いただけたら幸いである。

「非宗教的な精神性」が組織と人類を豊かにする:『ティール組織 ~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~』(フレデリック・ラルー著)

立正安国論』を読むにおよんで、経営と科学の背後に潜んだ、経営と宗教性、経営と精神性を、深く感じた次第である。

三津田治夫

読書会の記録:近代科学の基盤を作った天才科学者の隙のない自伝:『方法序説』(デカルト著)

f:id:tech-dialoge:20190727183627j:plain

アフォリズムも満載。天才が編み出した学問の軌跡
デカルトといえば「われ思うゆえわれあり」の、当時としては画期的な、精神と肉体を分離して人間を考えた哲学者、近代科学の基盤を作った科学者、代数幾何を確立した数学者である。
ダヴィンチやゲーテなどに類する、典型的な昔の天才である。

「よい精神をもつというだけでは十分ではないのであって、たいせつなことは精神をよく用いること」
「歴史の物語る目ざましいできごとは精神を高めるものであり、慎重に読むなら歴史は判断力を養う助けになる」
「世間という大きな書物のうちに見いだされうる学問のほかは、もはやいかなる学問も求めまい」

アフォリズムとして一級の言葉がたくさんちりばめられ、読んでいてなかなか勉強になる。

◎医学的な図版が多数掲載。学問が細分化されていなかった時代を象徴しているf:id:tech-dialoge:20190727183735j:plain

代数幾何を体系化したきっかけは、先人の残した数学書を読み尽くしたがどれも中途半端で、そこで私が整理して新しい数学の体系を作ったのだという経緯もまたすごい。
方法序説』では、こうしたデカルトの編み出した学問の軌跡が、自伝仕立てで記述されている。

f:id:tech-dialoge:20190727183757j:plain

方法序説』とは少し離れるが、デカルトの生きた1596~1650年は、1632~1677年に同郷のオランダで活動したスピノザの前半生と重なっている。
デカルト流の宗教からの思想的離脱という方法論は、スピノザの汎神論的な形而上学に引き継がれさらに進められた。
デカルトがいなければゲーテニーチェもいなかったわけだ。

f:id:tech-dialoge:20190727183705j:plain

日本が鎖国を開始した時代とデカルトが活躍した時代が重なるのは決して偶然でない
ところで、日本が鎖国を開始したのが1633~1639年で、デカルトが現役で活躍した時代と重複する。
いつの時代にも最先端の科学は軍事に実装され、それが帝国主義という形で世界に進出する。
1641年にはオランダがマラッカおよびアンゴラ海岸部ルアンダを占領。
まさに、欧州帝国主義まっただ中の時代であった。
デカルトの仕事も、間接的に帝国主義に力を貸していたことは間違いない。

方法序説』は、すでに評価が終わっている書物であり、「誰もが否定できない結果を出した人物が語った隙のない自伝」である。

単に、「議論しづらいなぁ」というのが、今回の読書会の結論だった。

三津田治夫

メンバーに支えられた「本とITを研究する会」の2周年を感謝し、懇親会を開催

f:id:tech-dialoge:20190719123213j:plain

8月21日(水)、本とITを研究する会の創立2周年記念懇親会を都内で開催する。

プレスリリース:8月21日(水)、編集者とITエンジニアのコミュニティ
「本とITを研究する会」が創立2周年を記念した集まりを開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000045009.html

この2年間の歩みを振り返りつつ、考えたことを事実の行間としてとらえ、まとめてみた。

ITエンジニアに自信と勇気をもたらそうと取り組んだ2年間
2年、いろいろなテーマに取り組んだ。
AIやシステム設計、ディープラーニングのための数学から、事業イノベーション、お絵かき、ライティング、コミュニティづくり、英会話、速読まで。
ひとえに、ITエンジニアがわくわくし、ITエンジニアのためになることをゴールに、さまざまな企画を作成し、提供してきた。

この2年間を支え、後押ししてくれたのは、数々の登壇者や参加者の力以外の何物でもない。
この場をもって、深くお礼を申し上げたい。
メンバーの数は900人を超え、いよいよ1000人に突入しようとしている。

本とITを研究する会を立ち上げるにあたって、「メンバー増加を目標とはしない」は、固く決めていた。
メンバーの数よりも、より深い問題意識と幅広い好奇心を持った人たちの集まりを求めていた。
そのメンバーの中心がITエンジニアであることに、意味を持たせたかった。

日本のITエンジニアは、欧米のように一定の社会的地位がないのが残念な現実である。
知的な活動で、社会的に強い影響力を与えているITエンジニアに対し、これでよいのか。
このままではいけないという危機感とともに、本とITを研究する会を立ち上げた。

もともと、本を書いたITエンジニアと読者の交流の場が、本とITを研究する会の出発点だった。
会では、著者と、メンバーである読者の交流とともに、各メンバーにも、著者のように社会的な影響力のあるリーダーになってもらいたいという意味も持たせていた。

本とITを研究する会のこの2年間で、日本のITエンジニアたちに、わずかばかりでも自信と勇気を与えることができていたら、この上なくうれしい。

3年目に向けて、懇親会で、新たな出会いを!
この2周年を境に、3年目では、新しいフェーズに入る。
成果を残しあえるような場を作り上げていきたい。
いまは、単発で集まり、学び、語るといった場になっているが、もう少し連続的に取り組める場を作りつつある。

限られたリソースで運営するコミュニティゆえ、変化と歩みが遅いところはお許しいただきたい。
緩やかでも、着実に変化し、成長していけることを目指し、日々活動を続けている。

3年目以降のご支援、ご指導ご鞭撻、いただけたら嬉しい。
以下8月21日の懇親会では、1人でも多くの方にご参加いただき、出会いと発見を共有し、語り合えたらと思っている。

登録サイト:【8/21(水)開催】「本とITを研究する会」創立2周年記念・懇親会を開催!(東京・田端)
https://manage.doorkeeper.jp/groups/tech-dialoge/events/94016

過去の登壇者やITエンジニア、出版関係者も多数来られるので、参加者された方にとって、新しい出会いの場になれば幸いである。

三津田治夫

7月3日(水)開催の勉強会「「AI導入は出版業界を救うか?」 ~第28回 本とITを研究する会~」が、ITmediaに取材されました

f:id:tech-dialoge:20190712192810j:plain

7月3日(水)に開催した勉強会、「「AI導入は出版業界を救うか?」 ~第28回 本とITを研究する会~」の、ITmediaによる取材記事が以下にアップされました。

出版業界もAIに熱視線 「どう使う?」技術者らが提案
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1907/09/news019.html

2時間におよぶ白熱した議論内容をまとめていただきました。

本来はパネルディスカッションだったのですが、会場からの質問が多数飛び交い、終止の質疑応答となりました。
会場の半数が版元からの参加者が占めていたせいか、「言いたい人」(笑)が多かった模様です。

しっかりまとめていただいた、記者の村上万純さん、お疲れさまでした!

三津田治夫

起業の「身体性」を示したプロフェッショナルのドキュメント:『新しい一歩を踏み出そう!』(守屋実著、ダイヤモンド社刊)(後編)

f:id:tech-dialoge:20190705200756j:plain

事業がうまくいかなかったときにも関係を継続できる「人」に投資
「守屋実さんを囲む会」では、本文外部のエピソードを著者自身からたくさん聞くことができた。
たった一滴の血液から10秒で検査ができるサービスをケアプロで提供した社会的意義について。
パチンコ屋に行くと空腹時血糖値が500オーバーの老人客が多く、数えると実に100人に一人の割合でそれに該当していたという。
ケアプロはこうした人の医療費に充てられている税金が莫大であることに着目。
同社の活動が医療費の節減に貢献できるはずだ。
こうした現実把握のもと、医療事業を推進しながら、さまざまな抵抗を乗り越え政府の法改正を強く促したという。

「囲む会」では質疑応答が飛び交った。
参加者に起業家や事業家が多かったせいか、組織論や企業論など、質問の内容が人間にまつわる「すでに行動してしまった人が持つ課題」が主だった。

本文の「人を見て決める際の分岐点をあげるとしたら、上手くいかなくなったときも、いっしょにやっていけるかどうか」という言葉に関連し、実際に守屋氏は「事業がうまくいかなかったときにも関係を継続できる「人」に投資する。」という。

組織での従業員の育成についての質問では、「人は育てるよりも、自分で「育つ」」といい、「初期の組織は戦力としての個人の集合体だが、組織が成熟してくると個人は戦力から駒となる。その過渡期の人の扱いは非常に難しい。」と説明。

大手が新規事業で負けるのは、起業が「業務」になってしまうから
また、
「事業がダメになる原因の多くはビジネスモデルではない。組織と人のゴタゴタ、個人という、人間系である。」
「組織がどうのではなく、「その人がなにをしたいか」が大切。」
「理屈で起業すると血が通わなくなりその事業は死ぬ。」
というように、事業に占める人間を中心に力点を置く。

そうした人の行動や心理を踏まえたうえで、「大手が新規事業で負けるのは、起業が「業務」になってしまうから。土日休みの起業などありえない。」と指摘。だからこそ、本文にもある「本業ルールから外れた「特区」(出島)は新規事業開発に重要。」という。

事業の推進には解決のできない悩みも発生する。その際には「「悩みの同志」を探すとよい。悩みが解決することがある。」とアドバイスする。

最後に私からの質問で、「事業を成功させた/失敗させたリーダーのいくつかの典型パターン。」を聞いた。
答えは、「それはわからない」であった。
しかし一つだけ、「人間はそもそも利己的な生き物。しかし、利己心が強すぎる経営者に人はついてこない。」とははっきりと言っていた。経営者にはやはり、自律、すなわち利己心のコントロールが大切なのである。

最後に、『新しい一歩を踏み出そう!』を2周以上読まれた方は、巻末の「企業の心得」「企業50」から読まれることをお勧めする。
本文を読めば読むほど、「企業の心得」「企業50」が実に深く刺さってくる。
本文と巻末の往来は、一つの効果的な読み方であることをお伝えする。

* * *

以上、書籍からの引用と談話内容を基に、『新しい一歩を踏み出そう!』を紹介させていただいた。

会を主催いただいた航海家で作家、経営者の拓海広志さん、参加いただき貴重な質疑応答を共有した起業家や経営者の皆様、会場と場の雰囲気をご提供いただいたおかみ丼々和田の和田真幸さん、そして素晴らしい作品をお書きいただき、会では血の通った力ある言葉を共有いただいた守屋実さん、本当にありがとうございました!

f:id:tech-dialoge:20190705200909j:plain

三津田治夫

 

当ブログ運営会社

f:id:tech-dialoge:20190320130854j:plain

盛況のもと「出版を元気にする勉強会プロジェクト:「AI導入は出版業界を救うか?」が終了!

f:id:tech-dialoge:20190704173319j:plain

f:id:tech-dialoge:20190704173343j:plain

7月3日(水)、「出版を元気にする勉強会プロジェクト:「AI導入は出版業界を救うか?」 ~第28回 本とITを研究する会~」、盛況のもと、無事終了いたしました。
多数のご参加に、深く感謝いたします。

f:id:tech-dialoge:20190704173411j:plain

f:id:tech-dialoge:20190704173431j:plain

会場での闊達な質疑応答と熱気には、圧倒されました。
このときに共有した気づきや内容が、出版の新しい未来に貢献できたらうれしいです。
今後ともなにとぞ、よろしくお願いいたします!

三津田治夫