本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

編集、この愛すべき仕事(前編)

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私は企業のシステムエンジニアとしての新入時代4年間を除いて、25年間編集者である。この間、本ばかりを作っていた。
起業してからも、出版プロデュースを軸に、編集の仕事を手掛けている。
なぜか知らないが、編集者になりたいという願望が強かった。
業種を変え、現在にいたっている。
本づくりのほかに、出版や編集のセミナー、勉強会もたびたび実施してきた。
そういった立場から、

「編集者ってどういうことをしている?」
「どんな1日?」
「どんな仕事?」
という質問をたびたび受けてきた。

「単なる職業ではないか。説明するほどでも……」と思った時期もあった。
しかし外部から見ると、なにをやっているのかよくわからない。
そして、なにがその仕事の価値になっているのかも見えづらい。
そして、いまのような社会の価値観が激変していく時代には、背後で編集者が動いている。
そして、こういう時代には、編集者という仕事人が必ず求められる。
そこで今回は、編集者の仕事とはなにかを紹介する。

編集者の仕事一般
編集者の仕事は大枠として、以下がある。
漫画やドラマなどでしばしば編集者が取り上げられてきたので、イメージの湧く人も少なくないだろう。

・企画立案
・企画会議
・企画発注
進捗管理
・原稿回収
・原稿編集
・発刊後プロモーション

一つ一つ見ていこう。

○企画立案
これは、いわゆる「企画書作成」である。
編集者は売れそうな企画、社会的に意義のありそうな企画を考案・調査し、企画書としてアウトプットする。
考案・調査のプロセスでは、知人のつてを頼ったり、書店やWebで調べて既存の著者さんに連絡をしたり、さまざまなアクションが発生する。アクションなしに、外部から企画が舞い込んでくる場合もある(いわゆる「持ち込み」)。
著者さんの候補が決まったら、この方と企画の方向性のすり合わせや企画の内諾をいただいたりなどの会議を行う。

○企画会議
企画は立案し、企画書にアウトプットすれば終わりというわけではない。企画書の目前には、企画会議という関所がある。ここを通らずに本は出ない。
この関所には、検察官ならぬ経営者や営業や販売管理担当など、さまざまな関係者が登場する。関係者たちが、「この企画は売れる」「売れない」と、各方面からの意見をコメントする。編集者は、この人たちとのやり取りに時間を費やす。関所を潜り抜け、版元(出版社)からのゴーサインが出ることになる。

〇企画発注
事前に約束していた著者さんに、正式に執筆を発注する。
もしくは、著者さんが未定の場合は、この時点から著者さんを探し出して発注することもある。
出版業界がいまほど不況でなかった時代は、企画会議を通す前に企画発注をし、原稿が来てから企画会議に通すようなこともしばしば行っていた(いまでは考えづらいが)。

進捗管理
著者さんの原稿が予定通りに書かれているか、編集者は進み具合を管理する。
原稿回収の前処理として、いわゆる、先生・著者さんを「山の上ホテルに缶詰め」にして締め切りまでに原稿をお書きいただく、という行為もこれに相当する。もしくは、先生・著者さんのご自宅に訪問し、書斎の隣部屋で原稿の仕上がりを他社編集者の行列に並んで待つ、という行為もこれに相当する。
原稿を待っている状況を共有したり、定期的にメールや電話でご様子を伺い、原稿の仕上がり具合を共有する。これが、進捗管理だ。
言い換えると、マラソンの伴走に等しい。
先生・著者さんに編集者が、ゴールインまでの掛け声を投げたり、水補給をしたりなどをする。

〇原稿回収
書きあがり(脱稿)が目前になれば、あとは編集者は原稿を受け取るだけだ。そこから、原稿編集の工程へと入る。

〇原稿編集
いただいた原稿は、編集チームで整理を行う。
企画内容と照らし合わせ、文字や図表の過不足や整合性の不一致を検査する。先生・著者さんも執筆が長期間に至ると、当初の企画意図やコンセプトが飛んでしまう、ということも起こりうる。
校閲者による原稿の校閲もこの段階で行う。誤字脱字から用字用語の統一、前後関係の矛盾や時代背景の誤りなどの検査を行う。
編集者は企画当初のコンセプトから外れていないか、つねに冷静である必要がある。ときには著者さんの情熱や時間的な制約に負け、企画当初のコンセプトから外れることを受け入れざるをえないことも編集者にはある。もしくは、企画当初のコンセプトが時代から外れることもある。そんなときは、迷わずに軌道修正をする。しかしそれをするか否かの判断は、結構勇気がいるし、それで失敗する場合も多いし、成功する場合も多い。
リライトも、この段階では編集サイドで行う。
編集の終わった原稿はDTPに回され、制作のプロセスへと移る。ゲラ(印刷仕上がりと近いイメージのアウトプット)を何度かプリントして検査し、印刷用のデータを作成する。

〇発刊後プロモーション
原稿編集・制作が終了すれば書籍は印刷され発刊となり、成果物は全国の書店へとお目見えになる。
そこまでに、印刷所とのやり取りや「部決」という出版社内での価格付けや初版部数の決定など営業的なやり取りがあるが、ここでは割愛する。
かつては、本は発刊したら出版社が新聞広告や外部メディアを使って責任を持って売る、が常識だった。
しかしいまは、著者さん自身が動いた方が、よく売れる。
それは、SNSの出現で顕著になった。
これをよく知った編集者は、著者さんと組んで、プロモーションを実施する。
オフラインでもプロモーションを行う。器用な著者さんはご自身でPOP(書籍のそばに飾られている葉書大の広告カード)をつくられる。これを著者さん同行で書店にお伺いし、棚ご担当の諸店員さんに挨拶をし、POPを設置していただく運びになる。
こうした地道な活動を通して、本は突如ベストセラーになったり、うんともすんとも言わなかったり、何年も地道に売れ続けて出版社を支える屋台骨になってくれたり、など、本を主役にしたドラマが生まれる。

(後編に続く)

三津田治夫