本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

セミナー・レポート:「“人が集まる”ライティング入門」~第3回分科会 本とITを研究する会セミナー~(前編)

3月9日(金)、ビリーブロード株式会社神田イノベーションルームで、「“人が集まる”ライティング入門」~第3回分科会 本とITを研究する会セミナー~、を開催した。「人が集まる」をテーマに、人材採用に向けた集客に必要な考え方と方法を、ライティングと表現を軸に解説した。

◎ライティングで採用や就職に成果を得た企業などの事例を紹介。株式会社ツークンフト・ワークス代表の三津田治夫f:id:tech-dialoge:20180323110830j:plain

はじめに、いまの日本を取り巻く人材採用の課題を確認した。
日経平均株価の安定や大手メーカーのベースアップなど、景気が上向きだとする報道が多い。一方で人事統計の数値を見ると「人材不足」は年々高まっており、今後、仕事があるのに人がとれず倒産する企業が増えるというデータも各方面から発表されている。とくに国内の9割を占める中小企業においてこの状況は深刻で、各社課題を抱えながら採用活動を展開している。

採用サイトには多様なサービスが用意されていながら、慢性的な人材不足に悩まされコストや時間と戦い続けている中小企業にとっては、どのようなサービス活用が最も費用対効果が高いか、試行錯誤している。

それを踏まえ、採用サイトとしてマイナビWantedlyを分析。
マイナビは採用大手の定番で、記事作成や広告、メルマガ配信などのサービスが一通りそろっている一方で、登録社数が膨大なためとくに中小企業は埋もれてしまうことが最大のボトルネックである。
Wantedlyは安価からはじめられSNSとの連携が強いが、自社がSNSに弱いと利点を生かしづらい点や、オプションの追加でコストが予想以上に膨らむなどのデメリットもある。

このような採用サイトの現状を鑑みながら、今後このようなサービスはいくつも出てくるが、どのようなサービスにも共通する、採用につながる集客のために必要な普遍的内容に焦点を当て、解説を進めた。

すべての出発点はミッションとビジョン
企業の復興やスタートアップには事業の最上位概念であるミッションとそれを実現するためのビジョンの言語化が行われる。同様に、採用のための集客の第一歩は、ミッションとビジョンの言語化である。まずは己を知りミッションとビジョンを明確化し、その上で、自社がどんな人材を求めるかを明確化する。

ここではWantedlyを例に、「いいね」の数が少ない企業と多い企業の掲載ビジュアルや見出し、本文を例に分析した。とくに、見出しがうまく作れていない企業のページは顕著に「いいね」の数が少ない。逆にこの数が多い企業のページは、見出しと本文、ビジュアルの整合性がきれいにとれている。この「整合性」が今回のキーポイントだ。整合性をとるための軸がミッションとビジョンになる。つねに採用担当者は、ミッションとビジョンを念頭に置いて見出しやビジュアル、本文を選定する必要がある。

ミッションとビジョンの洗い出しは、他者との対話やセルフストーリー、エモーショナル・メモなどで行う。この中から、セミナーではワークで、エモーショナル・メモを実施した。エモーショナル・メモは簡単で、日常で心が動いた際、「なに」がきっかけで「どう」心が動いたのかという事実を、手書きやスマートフォンを活用してメモに逐一記述していく。心の中の動きと事実を言語化し蓄積していくと、ミッション(自分という人間の役割が社会になにを与えたいか)の種が生まれる。ミッションの候補は複数見つかるので、社内外の議論で社会的なニーズと照らし合わせながら精査し、ミッションと呼応したビジョンを設定する。

ストーリーとは「きれいに取れた整合性」
「見出しと本文、ビジュアルの整合性が完全にとれている。」とは、言い換えると、表現が「ストーリー」として成立している、である。たとえば「遊びを通して人々を幸福にする」というミッションを立て、「日本国内に5000のテーマパークを設置する」というビジョンを持った企業があったとしよう。この企業の採用サイトのビジュアルには「遊び」と「幸福」を彷彿させる写真が掲載され、見出しには「日本国内に5000のテーマパークを設置する仲間募集」という趣旨を伝え、本文ではそれを実現するための会社としての具体的な取り組み、そのために従業員にどのような対価とサービスを与えられるのか、従業員は快適な環境で成長できるのか、などの事実が書かれている必要がある。

積極的な採用活動が必要な中小企業にこそ「ストーリー」は重要である。ストーリーは昨今の流行語とまでいえそうな、企業のアイディンティティ付けの手段として重要視されている。従業員の数や売上高の数値など事業規模のみでその企業の善し悪しが判別された時代もあったが、大企業が赤字企業に転落したり、一流企業が海外企業に買収されてしまう時代、数値だけで人を説得することは困難になった。そこでいま企業に重視されているものは、数値でもないデジタルでもない、いたって身体的な「ストーリー」である。

ストーリーさえ自社で持てば、さまざまな傾向や個性を持つ採用サービスサイトに依存せず、自社ならではの採用展開ができる。また、作成したデータやノウハウが自分のものになるので、今後のデータ再利用やグロースが楽になる。その意味で今回のセミナーでは、「自分でつくる」をゴールに解説を進めている。つまり、これらサービスを活用しつつ、自前でサイトを運営し、セミナーやインターンといったオフラインでの活動も複合し、中小企業ならではの機動性を生かして採用に結びつけるのである。

後編に続く

三津田治夫

4月7日(土)、印刷博物館へ、一緒にお出かけしませんか?

春まっさかりの4月7日(土)、本とITを研究する会で、トッパン印刷博物館の見学会をします。こちら、一緒にお出かけしませんか?
ガイドさんの解説つきで、そしていま話題の活版印刷を実物で体験できるワークショップも行います。

私も活版印刷に実際に触れることは今回が初めてで、当日はとても楽しみでワクワクしています。
学生時代には印刷所でアルバイトしていた時期がありました。30年前のこのとき、すでに活版印刷機はなかったです(あってもかなりレア)。
当時でも活版印刷というと、高級料理店のメニューや高級名刺など、大量印刷ではない、特殊な用途で使われていました。

◎懐かしいハイデルベルグのオフセット1色機f:id:tech-dialoge:20180321153631j:plain

そんな活版印刷、いまでは味わい深いものとして見直され、再評価されているのですから、時代は巡ってくるものなのですねぇ。
ちなみに私がアルバイトしていた印刷所では、ハイデルベルグのオフセット1色機という、蒸気機関車のような黒塗りの鉄の塊のオペレーション(紙の積み込み、インキ・水・オイルの充填、紙の取り出しなど)をしていました。

印刷博物館では、古いものから最新(VRの体験シアターもある)まで、印刷とメディアをめぐるいろいろなものが観覧・体験できます。

内容の詳細と参加登録は、以下ページにあります。

【Doorkeeperページ】

goo.gl

みなさまお誘いあわせの上、お気軽にご参加ください!

三津田治夫

若者が繰り広げる涙と笑いの群像劇:『メゾン刻の湯』(小野美由紀著)

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歌舞伎町ブックセンターの現役ホストの書店員さんからのお勧めで、この本を買ってきた。
小野美由紀という若い作家さんは非常に才能がある。取材力もあり、よく書いている。日本語の比喩表現や文学的な描写も立派だった。結論から言うと、面白かった。

これは、刻の湯という銭湯に寄宿する若者たちが繰り広げる群像劇。
老人、ジェンダー、教育、就職、仕事、SNS、IT社会など、いまの日本人が抱えている問題の巣を総ざらえし、それをひとまとめにドラマ化して刻の湯に詰め込んだ、という印象が第一だった。面白いエンターテインメント小説でありながら、実は社会派でもあるのだ(読み方に依存するが)。

銭湯という古くから日本にあるコミュニティ文化を現代に持ってきて、年齢や職業、性別を超えた場として設定しているところも興味深かった。
リーマンショックや震災、長引く不況などから日本の社会が不安定になり、スマートフォンSNSの普及とともに日本人の人間関係は複雑化した。
ヨーロッパでも20世紀の初頭には共産主義の出現と共に芸術家を中心にコミュニティ文化が花開いたように、いつの時代にも、動乱の中にはコミュニティが出現する。

『メゾン刻の湯』に登場する人物たちは、目に見えない大きな動乱の内側で目の前の小さな動乱に翻弄されている。人生の目標とか大きなゴールなどは彼らにはなく、ただひたむきに、目に見えない大きな動乱の内側で目の前の楽しみを見つけ、生きている。いまの時代をうまく捉えた生き方だと共感した。

人間はつねに運命に支配されており、それを受容し生きる以外に道はない。とはいえ、「運命を書き換えてやろう」という意志も重要。人間は、運命と意志の双方に挟まれ、戦い、成長しながら、生きていく生き物だ。こうした心の戦いが極限に高まった時代が、いまであると、この本から読んだ。そして文学の役割は、人や社会を言語化し、共有するところにある。まだまだ文学はこの役割を捨てていない。新刊『メゾン刻の湯』からそう感じた。

三津田治夫

4月7日(土)に開催が決定しました:「本とITを研究する会 大人の遠足編(おやつ付き)“トッパン印刷博物館見学会”」

4月7日(土)午後、印刷博物館の観覧をご一緒しませんか?「大人の遠足編」と題し、本とITを研究する会で初のフィールドワークをトッパン印刷博物館にて、出版歴22年の現役IT編集者の引率のもとで実施します。
普段は硬めの勉強会形式の集まりが主でしたが、今回は趣向を変えて、おやつ片手に遠足気分で、楽しみながら知的好奇心を刺激し、普段とは違った空間を共有することをコンセプトに、会を設定しました。

参加ご希望の方は、以下Doorkeeperの登録ページから、ご登録をお願いします。

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皆様お誘い合わせの上、ぜひご参加ください。
当日は、お目にかかれることを、楽しみにしています。

本とITを研究する会 三津田治夫

セミナー・レポート:「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに、書店復興事業のアイデアを構築(ワーク2日目・後編)

本ワーク(前回の結果)で作り上げられた以下事業アイデアに共通していえることは、「人」と「コミュニケーション」がビジネスモデルの中心に色濃く織り込まれている点だ。

●レビューを通じてつながる本屋
●想いがつながる「未来写真」
●知識と食を軸に地域コミュニティを活性化する本屋さん
●ハプニングがインセンティブになる接客業
●出会い系本屋

これらアイデアは「想いが伝わる社会を実現する」というミッション(つまり、言葉)を解体し、再定義し、社会に向けたサービスへと、思考を通して言葉を再構築した作業の結果である。

◎『リーン・スタートアップ』を紹介するファシリテーターの小関伸明氏f:id:tech-dialoge:20180309123121j:plain

 集団による言葉の解体と再定義には労力の消費とゴール意識のブレが起こりがちだが、事業開発の思考の手順としてリーン・スタートアップを利用することで、このようなアウトプットが可能となった。

◎模造紙を囲んで移動しながらのワークf:id:tech-dialoge:20180309123230j:plain

ワークから出てきたビジネスのアイデアをプロの書店経営者が目にしたら、果たしてどのような印象を受けるだろうか。
「いうはやすしだが……」、「授業でやった机上の空論じゃないか」という意見が少なからず出るだろう。あるいはその逆に、インスパイアされて事業復興の行動を起こす書店経営者もいるだろう。
確かに、ワークショップという、ビジネスを想定した仮想の空間で起こった出来事には違いない。
しかし言い換えると、お金や組織、人間関係、企業風土、慣習という、経営とは切っても切り離せない「しがらみ」から解放されている。ゆえに、企業がゴールへと向かうためにあるべき純粋な姿から出たアウトプット、ともいえる。

◎ワークの手を休め、レクチャーに聞き入る生徒さんたちf:id:tech-dialoge:20180309123344j:plain

のべ2日間のワークを通して私が確信したものがある。
それは、いまの日本人に欠けているものはお金でも時間でもやる気でもない、ということ。
いまの日本人に欠けているものは、「ミッション」である。
つまり、「なぜ」が、企業を牽引するリーダーである経営者や管理職からすっぽり抜け落ちている。彼らの多くは「なぜ」を飛び越して「なんのために」を口にしはじめる。株主のため、収益のため、事業目標達成のためなど、論点を自分の外部へとすり替える。これはこれで事業として大切である。しかしこれにより、なぜ働くのか、なぜ生きるのか、なぜ会社なのか、なぜ社会なのか、なぜ企業なのか、などの、根幹中の根幹が言語化されないという事態に陥る。言語化されないということは、根幹の意識や情報が共有されないことを意味する。そこから出てきた結果が、いまの日本の姿そのものである。

結果が出づらく、見えづらく、評価しづらい現代を、出口の見えない混迷の社会と言い切るのは簡単である。ここから一歩踏み出し、「なぜ」に答えることに焦点を当て、ミッション指向で生きること、働くことが、この混迷の中から脱出する最短の道である。

いまでは幸いなことに、スタートアップのフレームワークやビジネスモデルのパターンなど、ビジネスには「型」が用意されている。古来は相手を殺傷するための暴力手段の一部が、数千年数万年のときを経て、武道という「型」へと昇華した。市場経済が世界を支配して250年を経たいま、古来は搾取と金儲けの手段だった市場経済活動の一部は、ビジネスという「型」へと昇華した。武道で精神が重んじられるのと同様、ビジネスではミッションが重んじられる。これも一つの「型」である。型を身につけてこそ、はじめて型破りができる。新しいビジネスの創出も、型を身につけることが第一歩だ。

*    *    *

ワークを終え、生徒さんの中から「このクラスのコミュニティをつくりましょう」という声が上がったのは嬉しかった。主催の越水教授によると、このような声が上がったのは初ケースだという。

◎生徒さんたちが挙手するのは懇親会の参加人数確認f:id:tech-dialoge:20180309123508j:plain

夕方からの懇親会では、品川区の60代、70代のベテラン事業家の方々と交流ができてよかった。その他地元企業の管理職の方々、若いIT事業家など、いろいろな方々からいろいろな話を聞くことができた。一見狭いこの世の中、心を開くと多彩な想いと考えが広大に広がっていることが見えてきた。

教えることは最大の学びになる。今回のワークはまさにこれであった。学びの多い二日間に感謝すると共に、生徒さんたちの事業のイノベーション、人生のイノベーションが実現されることを、心から願っている。

三津田治夫

セミナー・レポート:「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに、書店復興事業のアイデアを構築(ワーク2日目・前編)

・3月3日(土)、品川区立品川産業支援交流施設SHIPにて、産業技術大学院大学OPI公開講座『中小企業のための新規事業の作りかた~リーンスタートアップイノベーションを起こす~』のユニット2(ワーク2日目)が行われた。

◎オープニングで、三津田堂書店の社長として書店復興のストーリーを語るf:id:tech-dialoge:20180307214607j:plain

「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに、2日間のワークで、5チームに分かれて書店復興事業のアイデアを作成した。時間や情報ど数々の制約がある中、全員が意味のあるアウトプットを作り上げ、共有した。
ユニット2のタイムテーブルは以下の通り。

講義 ユニット1の振り返り
講義 課題の解決策とは?
   課題の解決策を見つける
ワーク アイデアを探しにいこう
    手順説明と準備
    アイデア出し
    アイデアを収束しよう
    顧客テスト
講義 目標の確認
   ビジョンの文言修正と署名
講義 ビジネスモデルデザイン基礎講座
ワーク アイデアからビジネスモデルキャンバスを作る
    プロトタイピング
    クリティカルな前提の決定
    MVPアイデア出しとシートの作成
講義 発表方法の説明
ワーク 各チームの発表準備
    くじ引きで発表順を決める
    発表分担を各チーム内で決めてもらう
    発表資料を手直し、発表の自主練
ワーク 各チームのビジネスモデル発表
    1チーム15分×5チーム+休憩(10分)+予備(10分)
    社長から一言
講義 まとめ


2日目も、休憩を挟んで10時から17時まで、のべ7時間におよぶワークとレクチャーが続けられた。

◎ワーク2日目ではさらに集中力が高まるf:id:tech-dialoge:20180307214724j:plain

本日で終了ということで、会場にはポジティブな緊張感が漂っていた。前回はランチタイムになると全員が会場を出てしまったが、今回は会場に残り、チーム内で雑談をしながら昼食をと生徒さんたちが多く見られた。
チーム意識が高まる中、さらに1日のワークをこなし、アイデアをたくさん出す「発散」と、出てきたアイデアを精査する「収束」を何度も繰り返し、初日には笑い声が多く聞かれた会場では今回は黙考の時間も多く、各人集中力を高め、事業構築に頭を絞っていた。

◎模造紙に書き込まれた内容を各自で検討f:id:tech-dialoge:20180307214828j:plain

努力の甲斐あって、会場から出てきた書店復興事業のアイデアは実にユニークだった。さらに煎じ詰めればそのまま事業に使えるのではと思うレベルの事業アイデアがいくつも含まれていた。
5チームのアイデアの背景にはそれぞれ細かな仕掛けと考えが織り込まれているので、要約するとよくあるビジネスに見えてしまいがちだが、これらをレポートとしてあえてまとめると、以下の通りだ。
          
●レビューを通じてつながる本屋
書籍のレビューをコンセプトに、時間がないビジネスパーソンを対象にした書店サービス。この書店ではお客さんが楽しみながら本を短時間で選び出すことができるよう、ブックレビューをエンタテイメントとして提供する。書店をコミュニティ化し、イベントスペースやビブリオバトルなどのイベント企画、コワーキングスペースとしての空間、会員制サービスの提供などにより収益化をはかるというビジネスモデル。

◎「レビューを通じてつながる本屋」ビジネスモデルキャンバスf:id:tech-dialoge:20180307214957j:plain

◎「レビューでつながる本屋」で出された全ワークシートf:id:tech-dialoge:20180307215115j:plain


●想いがつながる「未来写真」

 「私たちが売っているものは写真アルバムではない」がコンセプト。カップルを対象に2人の美しい将来をイメージさせるWebコンテンツやSNS、フォトアルバムなどのサービスを提供する。このサービスにより、お客さんの男女は関係が深まりハッピーな未来を手に入れることができる。

◎想いがつながる「未来写真」ビジネスモデルキャンバスf:id:tech-dialoge:20180307215241j:plain


●知識と食を軸に地域コミュニティを活性化する本屋さん

 おいしい料理を食べたい人、食べさせたい人を対象に書店を展開。クッキングスタジオの提供や、時間の空いた主婦によるお料理のクラウドソーシング・サービスなどのサービスを提供し収益化を計る。書店という空間を中心に食文化と人間が三位一体となり、おのおのが豊かになるというビジネスモデル。

◎「知識と食を軸に地域コミュニティを活性化する本屋さん」ビジネスモデルキャンバスf:id:tech-dialoge:20180307215341j:plain

◎「知識と食を軸に地域コミュニティを活性化する本屋さん」で出された全ワークシートf:id:tech-dialoge:20180307215452j:plain


●ハプニングがインセンティブになる接客業

 書店の接客ノウハウを生かし、接客業一般に向けた教育・コーチング事業へと展開させるというアイデア。接客業務の中で発生する予期せぬ出来事をむしろコミュニケーションの機会としてとらえ、その機会からお客さんとの関係性を深めるという接客姿勢をコンセプトとする。

◎「ハプニングがインセンティブになる接客業」ビジネスモデルキャンバスf:id:tech-dialoge:20180307215550j:plain


●出会い系本屋

 多忙で精神的な救いを求めるビジネスパーソンを対象に、情報と癒やしの双方が手に入るというコンセプトを持つ書店。芸能事務所やモデル事務所とタイアップし、新人デビューの場として書店を機能させることや、朗読会の開催、書籍のサマリの提供で、時間を惜しむビジネスパーソンに向けて書籍選択のための判断軸を与える。会費や広告料などで収益化を図る。

◎「出会い系本屋」ビジネスモデルキャンバスf:id:tech-dialoge:20180307215639j:plain

 

以上が、2日間のワークでのべ60人近い生徒さんたちから出てきた、書店復興事業のアイデアである。後編に続く

三津田治夫

セミナー・レポート:2月24日(土)、産業技術大学院大学のオープンキャンパスでイノベーションと学びを共有(ワーク1日目)

・2月24日(土)、品川区立品川産業支援交流施設SHIPにて、産業技術大学院大学OPI公開講座「中小企業のための新規事業の作りかた ~リーンスタートアップイノベーションを起こす~」を、産業技術大学院大学、越水重臣教授の司会進行のもと、ビリーブロード株式会社取締役小関伸明氏とともに開催した。

産業技術大学院大学

◎会場の入り口には出版物がきれいに陳列f:id:tech-dialoge:20180301210250j:plain

参加者はすべて社会人。新規事業を開発したい中小企業の経営者や新規事業部門担当、自律型人材の育成を通して組織を活性化したい人などを中心に29人が集まり、10時から17時まで、長丁場のレクチャーとワークが行われた。

◎小関伸明氏によるレクチャーとワーク開始f:id:tech-dialoge:20180301210359j:plain

セミナーは2回で構成される。今回は1回目の「ユニット1」。
テーマは「創業60年、地域密着型の老舗書店をイノベーションで復興させる」という、難題である。
おりからの出版不況で業績が悪化し、経営者による事業継続を判断した結果、「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに打ち出し、イノベーションで事業を再生するというシナリオに基づき進められた。

◎従来のやり方が通用しない市場構造を解説f:id:tech-dialoge:20180301210446j:plain

私は三津田堂書店の社長であるという設定で、冒頭でミッション「想いが伝わる社会を実現する」と上記シナリオをスピーチ。書店員役の生徒さんらとその内容を共有した。
そのうえで、以下の流れで小関伸明氏によるレクチャーとワークが交互に行われた。

・全体概要とイノベーション理論
・なぜ「ミッション」「ビジョン」が必要なのか
・「三津田堂書店」の新規事業プロジェクトの説明
・ワールドカフェ(ミッションが実現された世界を描く)
・自分のやりたいビジョン選択(付箋記入)、付箋改修、同種ビジョンでグルーピング、席替え
・顧客課題とはなにか、ジョブ理論の解説
・ビジョンから課題を見つける
・課題から顧客候補を見つける
・顧客候補へのインタビューシートを作成、インタビューを体験(チーム内の1人を顧客と想定してインタビュー)
・インタビュー結果を整理して課題を洞察する

複雑なワークが続く中、大半が経営者や産業技術大学院大学の生徒さんだけあって、アイデア出しや議論に行き詰まることなく、後半に進むに従い熱気が高まり、予想もつかなかった創発の種が生まれた。
「書店」という、誰もが知った業態をテーマにしたことが、学びのたたき台としてわかりやすかったのかもしれない。

◎午前のワークの結果。これをもって午後のチームビルディングを実施f:id:tech-dialoge:20180301210600j:plain

◎模造紙を囲み午後のワークに臨むf:id:tech-dialoge:20180301210642j:plain

ワークの現場で私が発見したことがある。それは、ワークの最中、私が各チームを見回っていると、突然生徒さんの口数や、模造紙への書き込みが減ってくる。そしてある生徒さんから冗談交じりに「社長、あまり見ないでください。プレッシャーがかかります」という言葉を聞いた。組織はこの構造で成り立っているのだと、ふとなにかがつながった。つまり、低プレッシャーの中で従業員は自由に創造性を発揮し、一方で経営者は時と場合を見計らってプレッシャーを与える。このバランスにより経営は成り立っている。時と場合のさじ加減を失敗すると、パワハラや短期離職、心身の疾病など、経営に深刻な問題が発病する。私も経営者として、ワークをしながら胸の痛い思いをしたのも正直なところ。

◎欲求と現実とのギャップを洗い出した結果f:id:tech-dialoge:20180301210802j:plain

とはいえワーク終盤では、私に対して「社長頑張って!」と声がけする生徒さんも現れ、チームでのミッションの共有と会話の共有が深まると、経営者との連帯意識が芽生えるという変化も感じた。実際、成功している企業はいずれも従業員が自律的であり、経営者に使われるのではなく、むしろ経営者を同志として支援する姿勢にある。机上の理想論のように聞こえるかもしれないが、現にセミナーでチームビルディングを行い、時間と空間を長時間共有することで、このようなことが起こっている。私がベンチャー企業に就職し、会社の急成長を共にした実体験からも、経営者を同志として支援するという従業員のマインドが存在するということは断言できる。

もとより、小関伸明氏の細部を配慮したファシリテーションセミナーの立て付けが、この場の構築の下支えをしていたのは言うまでもない。セミナーは人と人との接触の場なので、逆にファシリテーションと建て付け誤ると、紛争が起こる。

◎顧客と課題、ジョブをワークで洗い出した結果f:id:tech-dialoge:20180301210903j:plain

次回「ユニット2」は、3月3日(土)のひな祭りに実施。
セミナーの最後、私は書店の社長役として「事業復興計画を完成させるため、次回の欠勤はNG。これは業務命令です。」とはっきりと伝えた。次回は全員参加で、イノベーションを通して事業プランを完成させる。どんな老舗書店事業復興計画が完成するのか、とても楽しみだ。

三津田治夫