・2月24日(土)、品川区立品川産業支援交流施設SHIPにて、産業技術大学院大学OPI公開講座「中小企業のための新規事業の作りかた ~リーンスタートアップでイノベーションを起こす~」を、産業技術大学院大学、越水重臣教授の司会進行のもと、ビリーブロード株式会社取締役小関伸明氏とともに開催した。
産業技術大学院大学
◎会場の入り口には出版物がきれいに陳列
参加者はすべて社会人。新規事業を開発したい中小企業の経営者や新規事業部門担当、自律型人材の育成を通して組織を活性化したい人などを中心に29人が集まり、10時から17時まで、長丁場のレクチャーとワークが行われた。
◎小関伸明氏によるレクチャーとワーク開始
本セミナーは2回で構成される。今回は1回目の「ユニット1」。
テーマは「創業60年、地域密着型の老舗書店をイノベーションで復興させる」という、難題である。
おりからの出版不況で業績が悪化し、経営者による事業継続を判断した結果、「想いが伝わる社会を実現する」をミッションに打ち出し、イノベーションで事業を再生するというシナリオに基づき進められた。
◎従来のやり方が通用しない市場構造を解説
私は三津田堂書店の社長であるという設定で、冒頭でミッション「想いが伝わる社会を実現する」と上記シナリオをスピーチ。書店員役の生徒さんらとその内容を共有した。
そのうえで、以下の流れで小関伸明氏によるレクチャーとワークが交互に行われた。
・全体概要とイノベーション理論
・なぜ「ミッション」「ビジョン」が必要なのか
・「三津田堂書店」の新規事業プロジェクトの説明
・ワールドカフェ(ミッションが実現された世界を描く)
・自分のやりたいビジョン選択(付箋記入)、付箋改修、同種ビジョンでグルーピング、席替え
・顧客課題とはなにか、ジョブ理論の解説
・ビジョンから課題を見つける
・課題から顧客候補を見つける
・顧客候補へのインタビューシートを作成、インタビューを体験(チーム内の1人を顧客と想定してインタビュー)
・インタビュー結果を整理して課題を洞察する
複雑なワークが続く中、大半が経営者や産業技術大学院大学の生徒さんだけあって、アイデア出しや議論に行き詰まることなく、後半に進むに従い熱気が高まり、予想もつかなかった創発の種が生まれた。
「書店」という、誰もが知った業態をテーマにしたことが、学びのたたき台としてわかりやすかったのかもしれない。
◎午前のワークの結果。これをもって午後のチームビルディングを実施
◎模造紙を囲み午後のワークに臨む
ワークの現場で私が発見したことがある。それは、ワークの最中、私が各チームを見回っていると、突然生徒さんの口数や、模造紙への書き込みが減ってくる。そしてある生徒さんから冗談交じりに「社長、あまり見ないでください。プレッシャーがかかります」という言葉を聞いた。組織はこの構造で成り立っているのだと、ふとなにかがつながった。つまり、低プレッシャーの中で従業員は自由に創造性を発揮し、一方で経営者は時と場合を見計らってプレッシャーを与える。このバランスにより経営は成り立っている。時と場合のさじ加減を失敗すると、パワハラや短期離職、心身の疾病など、経営に深刻な問題が発病する。私も経営者として、ワークをしながら胸の痛い思いをしたのも正直なところ。
◎欲求と現実とのギャップを洗い出した結果
とはいえワーク終盤では、私に対して「社長頑張って!」と声がけする生徒さんも現れ、チームでのミッションの共有と会話の共有が深まると、経営者との連帯意識が芽生えるという変化も感じた。実際、成功している企業はいずれも従業員が自律的であり、経営者に使われるのではなく、むしろ経営者を同志として支援する姿勢にある。机上の理想論のように聞こえるかもしれないが、現にセミナーでチームビルディングを行い、時間と空間を長時間共有することで、このようなことが起こっている。私がベンチャー企業に就職し、会社の急成長を共にした実体験からも、経営者を同志として支援するという従業員のマインドが存在するということは断言できる。
もとより、小関伸明氏の細部を配慮したファシリテーションとセミナーの立て付けが、この場の構築の下支えをしていたのは言うまでもない。セミナーは人と人との接触の場なので、逆にファシリテーションと建て付け誤ると、紛争が起こる。
◎顧客と課題、ジョブをワークで洗い出した結果
次回「ユニット2」は、3月3日(土)のひな祭りに実施。
セミナーの最後、私は書店の社長役として「事業復興計画を完成させるため、次回の欠勤はNG。これは業務命令です。」とはっきりと伝えた。次回は全員参加で、イノベーションを通して事業プランを完成させる。どんな老舗書店事業復興計画が完成するのか、とても楽しみだ。