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恐怖政治をもたらした自由と平等の革命:『フランス革命』(上・下)(アルベール・ソブール著、岩波新書)

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人間に自由をもたらした革命。
自由・平等・博愛の革命。
もしくは、恐怖政治。
マリー・アントワネットという無意識な人が好き勝手やっていた。
ルイ十六世がダメだった。
実はフリーメイソンの革命だった、など……。

フランス革命はいろいろな読まれ方があるが、一つだけいえることは、それは「持てる者」すなわち「お金持ち(ブルジョワジー)のためのお金持ちによる革命」であり、「持てる者」が社会のリーダーシップを取るという、資本主義の出発点だった。反対から見れば、フランス革命がなければマルクスもいなかったし共産主義もなかった。
「持てる者」理論を簡単に言うと、思想を行動へと移せるのは「持てる者」であり、それ以外の人は「持てる者」についていきなさい、である。
しかしフランス革命時の「持てる者」(=お金を持つ人)といまの時代の「持てる者」の間には決定的な違いがある。それは、「利殖以外にも関心があった」という点だ。

言い換えれば、利殖をするにもフランス革命時代のお金持ちには障壁が多すぎたので、利殖以前にそれらを取り除くことに関心があった、ということである。その障壁がすなわち「封建制」であり、封建制のトップにいる「王」が障壁の根源、ということになる。それがルイ十六世をはじめとした封建貴族の処刑へとつながり、封建主義者(反共和主義者)の処刑により社会をリフォームしていこうという動きが恐怖政治へとつながる。

そしてお金持ちが封建制と同時に目をつけたのが、大衆の不満意識だ。彼らの中には市民ともお金持ちともつかない「小金持ち」(プチ・ブルジョワ)がいて、「不満意識」という共通点のもと、お金持ちと大衆が連帯した。そしてその連帯を実現するために、お金持ちたちは、「思想」を現実社会に実装しようとした。それが、ルソーやロックなどの「啓蒙思想」である。この点もまた、いまのお金持ちとはまったく異なった立ち位置にある。

人民が共有した連帯の物語
「持てる者」とそうでない者が共感し、連帯し、双方にとって気持ちのよい社会を作っていこうという姿勢は、数えてあまりある恐怖政治の犠牲を差し引いても、人類の歴史的な大進歩である。
しかしいまは、フランスの封建時代のような強烈な抑圧は市民にない。さらにいえば、お金持ちと一般市民の間に、「共通の不満」はない。ゆえに、連帯はほぼ無理だ。

つまり、現代のお金持ちと市民の間に、共感や連帯が生まれる基盤はない。だからこそ、現代の「持てる者」は利殖と蓄財といった「自衛」に走る。一般市民やサラリーマンができる自衛とは、わずかな貯蓄と、クビにならない程度に手を抜き働くこと、になる。それによって生産性は低下し、お金持ちはますます自衛に走る。現代のブラック企業の構図が、フランス革命の史実を通してありありと目に見えてくる。つまり、共通の問題点や共通のゴール意識が市民社会の中にない、ということである。それは言い換えれば、切迫した危機感や、切迫した目標、どうしても実現したい理念がないからである。さらに言い換えれば、現代人は物質的に十分恵まれている、ということでもある。もしくは、恵まれていない人は、連帯する影響力や感性がなく、その気力すらない、ということでもある。

日本人が持つ「連帯の物語」とはなにか?
フランス革命には人々に強烈な理念と理想があった。
誰からも約束されていない未来に向かっていくこの情熱は、いったいどこから来るのだろうと、何度も考えた。しかし一言で言えば、フランス封建制という「日常の不満からの脱却」が情熱の原動力である。そうした現実を素直に受け入れなかったのは、啓蒙思想家が残した幸福の物語だ。そしてフランス人が共有した幸福の物語とは、ルソーやカントが唱えた、「自由」の物語である。人間の最も幸福な状態とは、自由な状態、という物語が、徹底的に考えられ、思想として書き上げられ、フランス人のナショナルヒストリーに組み込まれていった。

フランス革命の時代には、人々が共感し連帯する素地が備わっており、起こるべくして起こった革命だった、と考えることもできる。

では現代日本の市民の共感や、連帯の素地とは、いったいなんだろうか。
少なくとも、お金を通じた共感や連帯は、現代市民においてはないはずだ。それよりも、意識的な共感や、島国としての土地による連帯の可能性が高いだろう。言い換えれば、昔の日本人に戻りつつ、いままでにない価値体系の中に暮らす、というイメージではないか。

フランス革命は、現代の革命の原点であると同時に、いまの資本主義社会を読み解くための重要な歴史的ムーブメントである。

最後に、フランス革命のアウトラインを時系列でまとめておく。

*  *  *

●背景
1)ブルジョワジー啓蒙思想の影響
2)フランスの英国に対する経済的劣等があった
3)資本主義の幕開け

●1774年 ルイ16世政策により財政が傾く
アメリカ独立戦争への支援・戦費がかさむ
→貴族の年金の付与がかさむ
→貴族への課税を実施(→貴族の王権への反発が起こる)

●1789年 フランス革命勃発
→第3身分と貴族、国王による内戦(「貴族の陰謀説」が発端だった)
→貴族対農民(旧体制に反対する)の内戦

●1789年 7月14日 バスティーユ監獄襲撃事件
ブルジョワジーが権力を持つことに

●1789年10月 パリ市民がベルサイユ宮殿に集結
●1791年9月 新フランス憲法公布
→土地の国有化

●1792年8月 王政廃止
●1792年9月22日 共和制公布
ジロンド派ブルジョワと同盟)
ジャコバン派ブルジョワ派ながら農民と同盟)

●1793年 ジロンド派ジャコバン派の対立激化
●1793年5月~6月 ジロンド派追放「ジャコバン政府革命」
●1793年~94年 農民による旧体制一掃の要求
→社会政策の実施、ブルジョワの反発

●1794年春 ダントン処刑
ロベスピエールによる恐怖政治

●1794年7月27日 ブルジョワによる、テルミドールのクーデター
ロベスピエールが処刑される

●1795年 新憲法発布 普通選挙制を廃止
●1796年 「財産と労働をと共にする共同体」の共産主義イデオロギーが現れる。バブーフの陰謀。
●1799年11月9日 ナポレオン、クーデターを断行
軍事独裁
フランス革命終了
→欧州および世界にフランス革命の思想が拡散

*  *  *
三津田治夫

 

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