本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

いまこそRDBに向き合う期待の新刊:『データ分析に強くなるSQLレシピ』 ~小規模データの前処理・分析の書き方&テクニック~

8月5日、当社で制作をお手伝いさせていただいた新刊『データ分析に強くなるSQLレシピ』 ~小規模データの前処理・分析の書き方&テクニック~が発刊されました。

RDB(リレーショナル・データベース)とSQL(データベースを操作する言語)という、レガシーで過去のものと思われてきた技術にあえていま取り組んだ理由には、社会はAIと巨大なデータにあふれかえったDXの時代である、という問題意識がありました。

ITの弱点として、新技術が発生すると、古い技術を覆いかぶせるようなフレームワークや簡易システムが商品として開発され、リリース・販売されます。

それが純粋に必要で新技術なのかどうかは、商品であるゆえにマーケティングのしくみが織り込まれ、買う人には見えづらい状態になる、という欠点があります。

そうした欠点によりITの基盤となる重要な技術が、レガシーで過去のもの(ときには「枯れた技術」と表現されることも)と言われがちです。
同時に企業も、レガシーで過去のものにはマインド的に投資したがらず、投資されなければそうした本来重要な知識を持ったエンジニアも食いぶちがなく、エンジニアたちは食べるための技術の取得(トレンド言語の知識や資格試験の取得など)にシフトチェンジしていきます。

こうして、ITの基盤となる重要な技術が失われつつある状況が、いまの日本です。

2023年度の「世界デジタル競争力ランキング」において日本は過去最低の32位のIT後進国であったという事実は、上記の多くを証明しています。

「こんなの統計のマジックだ」「海外の人間が作ったランキングじゃないか」などと、いくらでも反論はできるでしょう。
しかし私は、33年間ITの世界に身を置くことで、日本のITの力が下降している事実を目の当たりにしています。

私が強く肌で感じるのは、経営者や投資家など経済を担うリーダーたちの未来察知欲の低下と、それに伴うITエンジニアたちの知識獲得欲の低下です。
こうした低下は環境要因が大きく、この30年間の世界の政治経済の動向に日本ががんじがらめになっていた(みんなで「いっせいの!」をする空気を政治的に作りづらい)、というところが原因としてあります。

本来日本人は勉強熱心で、プログラミングのようなチームで行うモノづくりや神経を使う作業には向いています。しかし、この30年間でこうした日本人の強みがすっかり骨抜きになりました。

そんな中、新技術の研究と著作の執筆を精力的に行われている著者の増井敏克さんは、レガシーで過去のものと思われてきた技術のかなめであるSQLの著述に真摯に取り組まれました。

ITを取り巻くトレンドには虚実が混在しています。しかし、データは日々巨大化し、それを扱うコンピュータの処理速度は日々加速していることは明らかな事実です。

コンピュータが加速すればするほどそれが扱うデータの量は増え、ハードディスク(データセンター)上に蓄積・加算されていくという円環上昇運動に、とどまるところはありません。

このように蓄積・加算されつづけるデータは、データベースに保管されます。
データベースとしてRDBデファクトスタンダードで、これを扱う言語であるSQLの知識を持つことは、この時代に必須です。

SQLを扱う良書はたくさんありますが、本作ではデータの巨大化が止まらないいまの時代に焦点を当て、知識の獲得に時間がないITエンジニアたちに特化し、本作を書いていただきました。

増井さんが手がけられた本作を読み、心が動かされ、こうした技術書を執筆し、「自分が持つ技術の知識を世に広めたい」という著者さんが1人でも増えることを願っています。
このような著作者一人一人の思いと執筆の活動が、日本のIT基盤を保持し、知識と意欲を底上げし、日本のIT後進国からの脱却に寄与していきます。

そうした日本の未来への思いが、著者さんの技術への深い知識と真摯な向き合いに乗せて読者に届くことをイメージしながら、制作させていただきました。

なお、銀のグロスPPカバーが印象的なブックデザインは、装丁家大橋義一さんが手がけられました。

一読をお勧めします。

三津田治夫