本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

Springフレームワークを巡る16年

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「Spring Boot2」はSpringフレームワークの一部として基幹系システムでよく使われている定番Javaフレームワークである。
私の会社で制作をお手伝いした、2018年11月発刊の『現場至上主義 Spring Boot2徹底活用』(韓国版の発刊も決定)は、Spring Boot2とその周辺技術、運用などを総合的に取り上げ、著者陣の知識と経験に基づき書き上げた技術書である。個人的に深い感慨や技術的な長いつながりのある作品だ。
私がさまざまなご縁でこの書籍の制作にたどり着いた話は、Springフレームワーク関連書籍の変遷を通してITの歴史を記録するという小さな意義があるはずなので、ここに記しておく。

『実践J2EEシステムデザイン』
本づくりを通した私のSpringフレームワーク体験は、2003年刊行の『実践J2EEシステムデザイン』から始まる。
著者のロッド・ジョンソン氏はオーストラリアのエンジニアで、同書でSpringの原型となるフレームワークInterface21を発表し、DI(Dependency Injection:依存性注入)コンテナの有効性を提唱した。その後日本でDIコンテナ実装のSeasarが登場したのもInterface21が発端である。
『実践J2EEシステムデザイン』は800ページにおよぶ翻訳書で、私の初翻訳編集書籍。フランクフルトのブックフェアに版権を買いつけに行った案件だった。膨大なページ数と極小の文字サイズで、編集作業後半には眼科に通っていたという苦い経験がある。ほぼ瞬きもせず夜通しゲラを読んでおり、なにかの拍子で目が感染したようだった(数日の点眼で無事回復)。
講演に来日したロッド・ジョンソン氏に本書をお見せすると褒めていただき、また書店では本書を通して多くのエンジニアに影響を与えることができた。制作には苦労が多く、編集者としての思い出は深い。ちなみにロッド・ジョンソン氏は小柄で声が細く、笑顔がやさしく、まるでお姫様のようなエンジニアだった。

『SpringによるWebアプリケーションスーパーサンプル』
それから3年後の2006年に刊行された『SpringによるWebアプリケーションスーパーサンプル』は、ロッド・ジョンソン氏以来のご縁で編集を担当することになった。その4年後の2010年には改訂版『SpringによるWebアプリケーションスーパーサンプル 第2版』が刊行され、Springフレームワークを扱った日本人による本格的な書下ろしとして一定の評価を得ることができた。この2冊も印象深い作品で、著者陣のパワフルな筆致と質の高いサンプルの内容に、高額書ながら多くのエンジニアに買っていただき、学んでいただいたことは私の記憶に新しい。
それから8年の月日を経て登場したのが、『現場至上主義 Spring Boot2徹底活用』である。『実践J2EEシステムデザイン』から見ると16年経つのだから、月日の経過をずいぶんと早く感じる。
ちなみに『現場至上主義 Spring Boot2徹底活用』の監修をしていただいた高安厚思氏は、シリーズ累計3万部の『StrutsによるWebアプリケーションスーパーサンプル』(2010年刊行)をはじめ多数のベストセラーを手がけた、日本のエンジニアリングをけん引するエンジニアの一人である。

エンジニアリングの歴史から洞察が得られることを
Springフレームワークを軸に、私が編集を担当した5冊の書籍を通し、Spring Boot2までの変遷を駆け足で見てきた。
こう見てみても、技術の発展や変遷とともに学びの形態が変わっていることを改めて感じた。そして昔のエンジニアは、よくも800ページの本をむさぼるように読んだものだと作った側からも感心していたが、そのような学びがいまほぼ見られないことは大きな変化だ。出版不況や時代の変化ともいわれるが、欧米や中国、アジア諸国ではいまだ大ボリュームのIT書籍が読まれている点は注目に値する。

ドッグイヤーで発展を遂げるITにおいて、16年前とはおおよそ人間の80年前に相当する。そう考えると、16年前のエンジニアは第二次世界大戦勃発時の世相に置かれた知識人たちと言い換えることができる。16年前のエンジニアは、ITバブルがはじけ、手探りで新技術を必死に追い求めていた。いまのエンジニアはそのころのような状況には置かれていない。だからこそ、厳しい風雪に耐え抜いてきたエンジニアたちの足跡から学ぶことは多いはずである。

いま最前線を行くエンジニアたちも、こうしたエンジニアリングの歴史をときどき振り返ってみるとよいと思う。今後のヒントが少なからず含まれている。本エントリーがエンジニアリングの歴史を振り返る一助になっていただけたら幸いである。

三津田治夫

 

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