本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

『アラブが見た十字軍』(アミン・マアルーフ著)を読みました

f:id:tech-dialoge:20240201150127j:image

昨今の課題であるパレスチナ問題を深く知ろうということで、今年最後の読書会のテーマとして取り上げられた作品。
十字軍とパレスチナ問題の大きな違いは、やる側がバチカンアメリカかという点。しかしやられる側はつねにアラブ人である。

歴史とは常に勝者の歴史であるが、こうした「やられて」しまった視点で書かれた、ヨーロッパ人(フランク)による十字軍遠征侵略の記録が、本作『アラブが見た十字軍』である。

古代ギリシャ哲学、数学、天文学などの学問から、農業などさまざまな生産技術や工業まで、アラブ人たちの膨大な知識は、古代から現代に、ヨーロッパ人によって戦争と交わりを通して継承されてきた。


f:id:tech-dialoge:20231126150154j:image

いまのイスラエルでもそうだが、アラブ人(イスラム)たちはやられっぱなしという点が悲惨である。十字軍時代、11〜13世紀の間だけを見ても、アラブ人は、ヨーロッパとモンゴル、トルコといった列強にやられっぱなしだ。

アラブ人たちがやられっぱなしである理由に関する描写もあり、一つの人種や宗教の中でも連帯が結ばれづらいアラブの弱点がしばしば指摘されている。

これと比較すると、バチカンをはじめとしたヨーロッパ・キリスト教諸国の連帯の強さがよくわかる。後進国であったヨーロッパ・キリスト教諸国は、イスラムから産業や科学といった知的財産を戦利品として持ち帰り、しかもそれらを「自分のもの」にしたところに、モンゴルとトルコにはない最大の強みがある。その根底には、立法にもつながる「言語」への感受性の強さがあると考えている。
本作、とくに後半が面白い。
いまのイスラエルパレスチナ問題に重ね合わせられるような情景が見えてくる。
巻末には十字軍遠征時代のアラブ諸国の地図が9ページにわたって掲載されており、素晴らしい。引き合わせながら読むと理解が深まる。
いま必読の名作。

三津田治夫