本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

知られざる沖縄を伝える重要なテキスト:『つながる沖縄近現代史: 沖縄のいまを考えるための十五章と二十のコラム』

(2022年5月14日、こんな本と出会っていた)
明日で沖縄本土復帰50周年である。
本作『つながる沖縄近現代史: 沖縄のいまを考えるための十五章と二十のコラム』は、那覇空港の書店にて、カバーとオビが目に飛び込んできたので買ってみたものだ。
以下、沖縄は非常に愛すべき素晴らしい島であることを大前提に書く。
まず、オビに「入門書」とあるが、執筆陣に研究者を据えたアカデミックな入門書。
行間が詰まっており少しハードルが高いかと思いつつ読み進めてみたが、一気に読み終えた。

恩納村の宿泊先で入手した新聞の第一面

そして、沖縄の謎が少し解けた印象だ。
沖縄の謎とは、市街地に入った瞬間に感じた独特の言葉にできない違和感、空気感である。
これを感じたのは私だけなのか、他にもいるのか、定かではない。
それとも、綺麗な南国だが、ひめゆりの塔があって米兵がたくさんいて、などという、私の中に沖縄へのステレオタイプな先入観があったからだろうか。
そこで本書を読んでよく分かったのは、沖縄とはそもそも、歴史的・文化的に、つぎはぎの島なのである、ということだ。

アメリカ占領以前には薩摩藩と清の支配下にあったり、本土復帰後にも日本政府との関係や東西冷戦下でのアメリカとの関係など、不自由と分断の連続だったのが沖縄である。
本来、気候的にも人種的にも、温和で豊かなのが沖縄であるはずだ。
そこに、歴史的に、地政学的に、計らずにもつぎはぎが起こってしまったのだ。
沖縄の人たちからしてみたらソビエト連邦(現ロシア)とアメリカの冷戦なんてどうでもよいのだが、アメリカの広島・長崎への原爆投下後の極東戦略の仕上げとして、第二次世界大戦の総決算のような形で、沖縄という巨大な「盾」を作った。そして朝鮮戦争ベトナム戦争などを皮切りに、沖縄が使われてしまった形だ。
いまの沖縄の低所得問題にしてみても、経済的に米軍依存体質があったという声も聞こえるが、「米軍が沖縄に存在することで豊かになる」というマインドを米政府が沖縄の人たちに流し込んでいたという報告が本書にある。
また、4月に私が滞在した恩納村には核ミサイルが配備されていたらしい。
日米政府や広告代理店に作られた沖縄のイメージと現実のギャップは大きい。
「独特の違和感」もここにあるはずだ。


瀬良垣の湾

私はぼんやりとしか沖縄のことがわからなかったが、本作を読んで少しは、沖縄という愛すべき島の解像度が上がってきた。
どんな土地にも人間がいて、歴史があり、文化がある。
そしてどんな土地にも夢があり、現実がある。
沖縄本土復帰後50年も経つとはいえ、課題は山積だ。
琉球新報』の報告では、復帰後も「不満」とする県民が55%にも上るとある。
隣国ロシアは戦争をやめず、ウクライナの占領を続けている。
戦争や侵略が生活と隣り合わせの沖縄県民から見たウクライナ問題は、決して他人事ではない。


沖縄の郷土料理、ヤギ汁

『つながる沖縄近現代史』と出会わずには、上記のような現実を実感することはなかった。そんな力作だった。

日本人は沖縄を通して世界を見ることで、世界がまた違って見えるはずだ。
版元は、沖縄にまつわる出版物を精力的に出している、那覇ボーダーインク
沖縄の文化と文脈をよどみなく伝え、読者に勇気を与える素晴らしい出版物を、これからもぜひ出し続けてもらいたい。

三津田治夫