本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

読書会に参加する効能について ~未知・差異との出会い、感動~


近ごろ、読書や教養というキーワードを目にする機会が増えてきた関係か、「読書会」に関する質問や相談をよく受ける。
世の中にあふれる専門用語が急速に増え、いわゆる「価値観の多様化」が、本や教養への関心の高まりの原因であるようだ。
ここでは、読書会にまつわる疑問や効能を中心にまとめてみたい。

読書会に参加するメリットは?
読書会に関する疑問として、いちばん耳にするものは、
「参加するメリットはあるの?」である。
2014年1月から、私たち編集者とITエンジニアの有志ではじめた読書会の発端は、

「一人じゃまず読めそうにない本」
「だけど読んでみたい本」

を読むために、

「ならば、その本を課題図書にして、読書会を開いてしまおう!」

であった。
そこが原点となり、選書の横展開、議論のたたき台やコミュニティの形成など、活動が広がり継続し、メンバーは3倍以上増えた。

「参加するメリット」を、参加する側の視点でまとめると、

「1人ではなかなか読めない本が読める」
「人生の同志ができる」

の2点に集約される。

読書会とは意識高い系の集団では?
読書会参加への懸念点としてよく聞く意見として、

「意識高い系の集団に入ると不安」
「知識の低さがばれたらどうしよう」
「マウント取られるかも」

がある。

読書会で参加者が取る行動とは本来、

「本を読む」
「そこから感じたものを口にする」

の2要素しかなく、極めてシンプルなものである。
しかしながら、その本ならではのキーワードや専門用語、考え方が混じってくることで、「意識高い系かも」という周囲へ不安や自身の「知識が低いかも」という、「自意識との格差」の憶測を通した不安感や劣等感が醸し出される。
そうした格差の憶測を生み出す最大の要因はなんだろうか。

本とは、場所(住む場所、働く場所、学ぶ場所……)や時代(歴史)を超えた情報という、「未知」を読者に届ける存在である。
そこに、格差の憶測が生じる要因がある。
扱われる場所や時代が変われば、当然、使われる言葉やその意識は変わる。
異文化や異業種など場所を超えた題材を扱う本が読書会のテーマになる場合は、その場所の背景や習慣を、本から知る必要がある。
歴史的な本が読書会のテーマになれば、その時代の生活や風俗、政治がどういったものなのか、それに伴ってどういった言葉が使われていたのかなどを、本から知る必要がある。
そして、この「知る」プロセスを他者と共有することが、読書会の本来の目的でもある。

もし、「自分の意識との格差」を感じたのであれば、「わからない」と明確に口にすることである。
それが自由にできる場であるか否かが、読書会のクオリティの高さを決定する。
これは、上記の「マウント取られるかも」に通じる。
読書会の中で、知識格差のある参加者に対して「けしからん、勉強不足」などと、頭ごなしに高圧的な発言をし、上下関係を作ろうとする人物がいることも聞く。
こういった人物の存在は読書会のクオリティを著しく下げる。
場に紛争を招いたり、「だから読書会は嫌なんだよ」という意識を参加者たちに植え付ける。
こうした言動のある人物は、私たちは読書会の場から即刻お引き取りを願うよう決めている(直接にはまだ遭遇したことはないが)。

逆に、こうした「上下関係」の構築を目的とした読書会があることも事実である。
たとえば、新興宗教マルチ商法への勧誘にも読書会が使われる。
読書会を通して参加者を催眠状態に引き入れ、参加者との絶対的な上下関係を構築し、継続的な金銭収入に結び付ける。
見方を変えれば、これだけ読書会は、毒にも薬にもなる強力なツールなのである。

読書会に参加する効能は?
読書会に参加する効能とは、なんだろうか?

「読書という個人的な体験を通して、他の人との差異を共有できること」

である。

自分一人では読めなかった本を他者と読むことができたり、よくわからなかった内容や記述が他者の意見を聞くことで「なるほど」と理解できたり、思いもよらない新しい読み方ができたり、さまざまな「差異」を発見するきっかけを手にすることができる。差異とは本来、価値の源泉である。

参加者と自分の意識との格差を、「差異」として楽しむことができるかどうかが、読書会に参加する意義の鍵となる。

話をさらに広げれば、一冊の本をたたき台に、膨大な知や文脈を参加者と共有し、思考や知恵を交換し、読書会から集合知が出現する。

前述のように、読書会は毒にも薬にもなる強力なツールである。
これから読書会に参加してみたいという人は、それが自分にとって薬なのか毒なのかを、感性に従って見極めてみよう。

三津田治夫