本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

読書会の記録:壮大な雑学がちりばめられたベストセラー人類史:『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド著)

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某月某日、文化の町飯田橋で読書会がはじまってはや3年。15回目となった。
前回はイスラームをテーマに2冊の書籍を取り上げたが(『イスラーム文化-その根柢にあるもの』(井筒俊彦著)/『イスラーム国の衝撃』(池内恵著))、2冊を取り上げると議論が拡散してしまうことが多々あり、同じ2冊でも今回は上下巻2冊という、さらに、イスラームという一部の宗教的時間空間からさらに拡大し、人類1万3000年の歴史をテーマにした大著に挑んだ。

1998年ピューリッツァー賞受賞のベストセラー作品
原著の刊行は1997年。翌年の1998年にはピューリッツァー賞(一般ノンフィクション部門)を受賞し、2000年に日本語版が出版されている。

当時この本は大流行し、友人からも、「おもしろいから読め」とよく勧められた。
流行とは面白いもので、時間を経て当時の熱気から離れて冷静に眺めてみると、いろいろなものが見えてくる。発刊から今年がちょうど20年目。一つだけはっきりといえることは、この20年で著しく世界が変化したということである。この本は遅くとも1980年代には執筆の準備がなされていたはず。
1980年代の終わりにはベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が幕を閉じ、イスラーム対非イスラームという新しい対立が生まれ、1990年代の半ばからはインターネットバブルが起こり、2000年代の初頭にはそれが収束。2001年9月11日にはアメリ同時多発テロが発生、2008年にはリーマンショック、世界的な不況と政情不安が続き、トランプ政権の発足、英国のEU脱退、ドイツの首相再選などの今日にいたる。

ざっと見ただけでも、『銃・病原菌・鉄』が発刊されてからの世界は激変している。

それを踏まえて読むと、この20年のギャップを強く感じる。
まずこの本は、多くの情報で理論武装を試みている。たとえば農作物の歴史や、地域別の牧畜の伝播の歴史など、いわば「環境決定論」を下敷きに人類の歴史を解明しようとしている。この本の中には、宗教や思想といったものが排除されている。徹底した唯物論で、言い換えると、リベラルな科学者が書いた本、なのである。

ベルリンの壁が崩壊(1989年11月)して間もない20年前には、資本主義、共産主義という国家ポリシーの差異と、「東西」という地域環境の差異が、人類の意識の中で深く結びついていた。こうした差異が、人類の運命を決定づけるものとされていた。

『銃・病原菌・鉄』の中でも、東西に広がり経度の差異が少ないユーラシア大陸穀物や牧畜の飼育に適しており、一方で南北に広がるアフリカ大陸やアメリカ大陸はそれらに適していなかったという分析を行っている。

格差の中心が「免疫」の有無から「貨幣」の有無にシフト
牧畜を飼育するとそこから病原菌と免疫が発生し、牧畜を持つ人種と持たない人種の間で、免疫の格差が生まれる。その中で、免疫を持たない人種は亡び、持つ人間はそれを支配する。北米大陸の原住民や南米大陸インディオが支配される過程に、ヨーロッパから持ち込まれた病原菌が大きな役割を演じた歴史は周知の事実だ。

かつては「免疫」を持つ持たないが格差の中枢であったが、現代では格差の中枢が「貨幣」にあるという点が興味深い。

その意味で現代の世界を理解するには、「環境決定論」よりも、「情報決定論」の方がリアリティが高いだろう。株価や為替、ビッグデータといった、世界を駆け巡る膨大な「情報」が人類の運命を左右させる。もちろん、地球温暖化や人口増加、食糧問題など、「環境」が本質的に人類の運命の手綱を握っていることは言うまでもない。

と考えると、環境には、天然の環境と人工の環境との2つがある、ということがわかる。農耕は人間が作り出した最初の環境だという。灌漑や建築もそうだし、さらにさかのぼれば村、国家、社会的規約、宗教の言語による伝播も「人工の環境」である。その行く末が、現代のきわめて肥大化した情報環境ではないだろうか。

もう一つは、人間には好奇心があり、これにより新大陸が「発見」されたり、東西に広大に広がるポリネシアに住民が渡っていったという歴史もある。人類の移動の動機には食料を巡る戦争・支配、という側面があるが、一方で、「好奇心」という側面が読書会の会場で明らかになり、興味深かった。会場からは、ライアル・ワトソンの「ネオフィリア」(新しい物好きの人種・人間)という単語が出てきた。

日本人は移民を受け入れられるのだろうか?
人類1万3000年の歴史においてたえず民族が移動していた事実を受けて、会場からは「現代の移民問題」に関する発言があった。アメリカのメキシコとの国境に壁を作ろうという計画や、ドイツの移民問題など、現代を取り巻く移民問題を目にして、果たして日本人は移民を受け容れられるのだろうか、という議論にいたった。いま私たちは、数多くの外国人たちと共存している。高田馬場にはミャンマー人がおり、大泉にはブラジル人がおり、越谷にはモスクがありバングラディシュ人がいる。彼らは市民としてひっそりと平和に共存している。それを政府が公的に「移民」として合法化するか否かが、問題である。

日本人が住民として受け容れることと、合法化することの間には、大きな断絶がある。合法化することで出てくるのは、格差意識を持った人たちの不満である。そこにポピュリズム政党が出現し、アメリカのトランプ政権のような政治が世の中を支配する。

上下巻を通し800ページを超える大著を読んだ会場メンバーからのコメントは、ジャレド・ダイアモンドは達筆なストーリーテラーで物知りであり、『銃・病原菌・鉄』という「タイトル勝ち」のベストセラー読み物、であった。

三津田治夫