「海」をテーマに、人間の未来は海が担っているという事実を、詳細なデータで読者に解き明かしながら、人間はいかにして海と生きるべきかを指南する。壮大なスケールを持つ読み物であり、啓蒙書である。
人類史と世界史、環境、物流、経済から海を理解する
まず、作者は人類史から海を読み解く。
生命の根源は海にあり、そこから人類が生まれ、人類は文化を構築する。
人類は革命や戦争という破壊行為で文化を再構築し、他文化を支配し、同盟するという歴史を、連綿と繰り返してきた。
その舞台は陸ではなく、海にある。それが、本書の議論の出発点だ。
つまり人類は海から生まれ、海で生きる。人間にとって欠くことのできない環境が、海だ。
次に、作者は世界史から海を紐解く。
アメリカ独立戦争の勝利は「フランス王国海軍が少数の軍艦でイギリスの優秀な艦隊を包囲したことが決定打」となり、フランスとイギリス、オランダとのたび重なる海戦はフランス革命の成否を決定づけ、ナポレオン帝国の野望は海での敗北により消え去った。
海が人類の運命を決定づける重要な場であることを著者は史実から証明する。
さらに、資源や環境、物流や経済から海を理解する。
海は資源の宝庫で、レアメタルなど鉱物や、食糧となる魚介類、また、二酸化炭素を吸収するのも海の役割である。
そして先進国のGDPに比肩する生産性を持つ海は、貿易や流通の経済インフラとしても重要な機能を果たす。
このままでは人類は滅亡する。が、海はなくならない
しかしいま、貴重な共有資産である海は、深刻な危機にさらされている。
資源や環境の面では、魚介類の乱獲、環境破壊による種の絶滅などがあげられる。
海へ廃棄されたプラスチックは魚介類に摂取され、食物連鎖で汚染が蓄積される。プランクトンに摂取されたプラスチックは排泄され、海底が汚染される。
地球温暖化の影響で年々海面が上昇している事実も、海の環境を取り巻く破壊的な事実である。
そして物流や経済の面では、東西冷戦が終わり世界が自由になった半面、海賊の活動や反社会的な貿易活動が増加傾向にあることがあげられる。
海という本来自由な場が、略奪や武器、覚せい剤の不法貿易が行われるという破壊的な舞台へと転じている。
「このままでは人類は滅亡する。が、海はなくならない。海は他の生命を生み出し続けるだろう」
が、読者に突きつけられた最大の問題提起だ。
(後編に続く)