本とITを研究する

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ウクライナ、SNSが戦争を抑止することへの試練、期待

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ウクライナが戦争で目も当てられない。
1991年の湾岸戦争は衝撃的だったが、それ以上だ。
当時は欧州都市のテロが多発していた。
私は短波ラジオを携帯し、戦況を気にしながら学生最後の旅をしていた。
湾岸戦争終戦ポーランド・クラコフのユースホステルで知った。
同室になったユダヤ人青年から「志願兵としてベルリンに向かったが募集を終えていた。アメリカに帰る」と聞き、終戦を知った。

ウクライナといえば詩人ニコライ・ゴーゴリの故郷として非常に印象が深い。
土着民話を基づいた幻想文学やコサックの戦記物など、ウクライナを各方面から取材した作品を多く残している。
作家のドストエフスキーは「我々は『外套』の中から出てきた」とロシア文学のルーツを表現したが、この『外套』の作者がゴーゴリである。
プーシキンと並び、ロシア文学の父といわれている。
これもあって、私は、ロシア文学の故郷はウクライナであると認識しており、一度は行ってみたい憧れの土地でもあった。
そのウクライナが、ゴーゴリの時代から200年を経て、市民もろともロシアに攻められている。
私が生きているうちに、隣国が他国の民間人を露骨に攻撃することなど見ることはないと思っていた。
その意味でも、実に目も当てられない。

国境があってないようなあの地域には、ロシア正教など信仰の問題、人種の問題、タタール人襲来や共産主義革命の歴史、革命後のスターリンによる粛清など、日本人には知りえない歴史的・民族的課題が山積である。

歴史的・民族的課題とはつまり、歴史の摩擦が作り上げた心の課題だ。
日本のように「海」といった国家間を隔てる物理的で巨大な境界がないゆえ、彼らは民族としての境界(アイデンティティ)をノスタルジーやプライド、喜び、恨みとして心の中に持っている。
その心の状態を書き換える力が、戦争や革命といった暴力である。

国家の平和は国防によって守られる。
戦争を仕掛ける国家も必ず「国防のためにこうしている」という。
今回の戦争でもまったく同じである。
外から見ると戦争と国防は表裏一体だ。
当事者のマインドにより、戦争であるか国防であるかが180度変わる。

ウクライナを攻撃するロシアのプーチンが世界のやり玉にあがっている。
そして、ネガティブな次の事態も考えられる。
孤立したプーチンの暴走である。
ベルサイユ条約後にとったヒトラーの行動が想像できる。
ゼレンスキーがウクライナの亡命政府を立ち上げることもあるだろう。
習近平プーチンを説得してノーベル平和賞を取ることがあるかもしれない。

なにがあっても核の使用と世界大戦に発展しないことを祈っている。

国連が機能しなかった現実
本来は戦争の抑止力として国連が機能するはずだった。
しかし、今回はロシアの否決によって国連は機能不全に陥った。

国連の基本コンセプトは、エマニュエル・カントの『永遠平和のために』(1795年)によるものだ。
その中でカントは国家を、欲望も理性も持ったひとつの「人格」として捉えている。
基本、自然状態は戦争であり、戦争をしないことを求めながら国家を運営しようという考えである。

とはいえ、戦争は始まってしまった。
対話は平行線で、時間と力の戦いになった。
時間と力はネガティブな心の連鎖を生み出し続けている。

SNSによるポジティブな心の連鎖への希望
ネットによる人の「つながっているマインド」に、私は一つの希望を持っている。
世界中の人がネットでつながっていることが当たり前になった。
ウクライナを侵攻するロシア兵も、一個人としては現地に身内や知人がいる。
つながっているマインドを持ったロシア人たちに、「はい、敵だから機関銃で撃ち殺せ」といっても士気は上がらない。
これが戦闘への静かな抑止力につながっている。
ロシアの国営ニュース番組には平和を訴えるロシア人女性が乱入してきた。
誰からも止められずに、カメラワークも変わらず、キャスターは何事も起こっていないかのようにニュースを読み上げている。
情報が国民全体のマインドを変えてきた結果の一つである。

いまの状態でこの戦争がどんな結末になろうとも、プーチンが暴力を使わずにリーダーシップをとることはない。
その意味でも中国とアメリカの動きが今後の世界を大きく変える。

人類には、さまざまな課題を知恵をもって乗り越えてきた歴史がある。

今回のウクライナ問題は地域の問題ではなく、明らかに人類の問題だ。
同時に、人類に突き付けられた試練であり試験である。

今回の戦争が恨みの連鎖を引き起こし、核の使用や世界大戦へと発展しないことを祈っている。

そして、今後の人類のために、教訓として記録され冷静に学習されることを願っている。

ウクライナに、世界に、永遠の平和を。

三津田治夫