大学時代、授業の課題図書として本書を出され、著者の意図するところがさっぱりわからずに挫折した。
20代、サラリーマンになりたてのときにも再挑戦。
それでも本書の意図がほとんどわからなかった。
50代になり、やっと、ようやく、ドイツの哲学者ヘーゲルが言わんとしているところのしっぽの先端を少しだけ掴んだ。
端的に言えば、書店で平積みされているビジネス書の「元ネタ」である。
社会や組織の仕組みを言語化しフレームワーク化する。
いわば「言葉攻め」である。
だから書名にも「法」とある。
本書は決して法律のみを扱った専門書ではないのだが。
ドイツ語で「法」(Recht)は「権利」や「正しいこと」を意味する。
国家や軍隊、企業といった、世の中のあるべき仕組みを文字に起こした「法」である。
ビジネス書の総元締めのP.F.ドラッカーはドイツ語圏のオーストリア移民なので、学者の基礎教養としてヘーゲルはかなり読んでいたはず。
その他ドラッカーの著作を読むと、ドイツ思想界の大御所であるゲーテやシュタイナーの流れを組んだ考え方が随所に見られる。
カントがいなければヘーゲルのような人はいなかったわけだし、ヘーゲルがいなければマルクスもいない。そしてデリダのような人物もまず出てこなかった。
中公クラシックスの読みやすい組み方と充実した注釈(これは素晴らしい)で、読者をヘーゲルの世界にやさしくいざなってくれる貴重な作品だった。