本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

ブックレビュー

古今東西さまざまな読んだ本の書評です。

読書会の記録:『ぺてん師列伝』(種村季弘著) ~ぺてんと詐欺の本質を徹底討論~

本書の副題に「あるいは制服の研究」とあるように、読書会の冒頭は平田オリザさんの学園劇『転校生』を私が観劇したエピソードからはじまった。 紀伊国屋書店でホールの入り口を探していると、制服を着た女子高生の集団が「上ですよ」と声をかけてくれた。で…

読書会の記録:『サド侯爵夫人』(三島由紀夫著、新潮文庫)

今年で早くも5年目に突入。20回目となった読書会のお題に、読書会初の戯曲、三島由紀夫の『サド侯爵夫人』を取り上げた。 基本、この読書会のメンバーはあくが強く満場一致の意見はまずないが、今回は見事に意見が分かれた。「共感できない、面白みがわから…

新時代の受容と戦いを「差別」から扱った不朽の名作:『破戒』(島崎藤村 著)

私が高校生時代に亡くなった明治43年生まれの祖母から、実家山形の農家にいたときの次のような昔話をよく聞かされた。 村には「えた」という人がいて、茶碗を持って玄関の土間にやってくる。玄関から茶碗に食事を分け与え、決して土間から上に入ってこない。…

『紅い砂』(高嶋哲夫 著)を読んで ~社会変革と「壁」そして自由の本質(後編)~

(前編から続く) 警察が強権をふるう監視社会当時の東ドイツでは西ドイツのテレビ放送を傍受することができた。これにより東ドイツの人たちも西ドイツの情報を持っていたが、傍受した内容を学校や町中などで口にすると、市民に紛れた秘密警察(ゲハイムディ…

『紅い砂』(高嶋哲夫 著)を読んで ~社会変革と「壁」そして自由の本質(前編)~

『紅い砂』(高嶋哲夫 著、幻冬舎刊)は、元米兵ジャディスが率いる革命軍が内戦で中米コルドバの政権を奪取し、民主主義国家を樹立する、という物語だ。独裁政治と薬物による暗黒経済が支配するコルドバの国民は、自由を得ようと、メキシコとの間に米国が築…

読書会の記録:『ガリレイの生涯』(ベルトルト・ブレヒト著)

読書会、記念すべき第30回目に取り上げる作品は、戯曲である。どんな激動の時代にも「保身でしたたかに生き延びる人」はいる。その象徴的な一人が、今回読書会で取り上げた戯曲『ガリレイの生涯』(1943年)を発表した、ドイツの戯曲家で詩人、ベルトルト・…

読書会の記録:某月某日『ヴェニスの商人の資本論』(岩井克人著)を読む

『ヴェニスの商人』といえばユダヤ人商人シャイロックの「人肉裁判」をクライマックスとするシェイクスピアの名戯曲。本作はこれを資本主義の原理と重ね合わせ経済学者が書き上げたエッセイ。 この手の書籍は読む人によりさまざまな意見が交差することが必定…

『首都感染』~情報に対する心のあり方へのヒント~

『首都感染』(高嶋哲夫 著)を読みながらラジオやテレビの報道を聞いていると、現実と創作の境界があいまいになってくる。科学と文学が連結すると、このような見たこともない文芸ができあがるのかという驚きもあった。いま冷静にやるべきことや、情報に対す…

読書会「軽井沢合宿編」の記録:『ファスト&スロー』(ダニエル・カーネマン著)

今回は、本読書会初の1泊合宿。しかもその場所は、平成天皇皇后両陛下が出会った高級リゾート地軽井沢。そして取り上げたテーマは、初の行動経済学。今回は、2002年ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン著、『ファスト&スロー』(上・下)を読む…

読書会の記録:「大人の寓話」の古典を堪能:『山椒魚戦争』(カレル・チャペック著)

今回は、チェコ文学の巨匠、カレル・チャペック『山椒魚戦争』を取り上げた。チャペックの作品では、ロボットという造語をはじめて使った戯曲『R.U.R』(ロッサム博士のユニバーサルロボット)が有名である。チャペックは、第2次世界大戦前という時代にロボ…

隙のない二枚目男と、囲われ者の悲劇の美学(後編) ~『雁』(森鴎外 著)~

(前編から続く) この作品で、作者が描いた運命のはかなさを誰もが読み取ることだろう。 一つは、救うはずで不本意に殺してしまった「雁」の存在で、これは「鯖の味噌煮」と関係する。鯖の味噌煮も偶然に出てきたもので、これがなければ「私」は岡田を誘っ…

隙のない二枚目男と、囲われ者の悲劇の美学(前編) ~『雁』(森鴎外 著)~

鴎外の作品は明治文学として漱石と並んでよく取り上げられるが、その中でも『雁』は、鴎外の小説作品として広く読まれている。 明治文学というと鴎外、漱石、とすぐに名前が出るが、「じゃあ彼らの作品といえば」と問われると「『坊っちゃん』『吾輩は猫であ…

日本文化を再定義した社会派歴史学者の古典名著:『日本文化史』(家永三郎 著)

ネット社会の現代、史実が限りなく事実であることは常識になりつつある。しかしかつては、史実が露骨に作り上げられる時代があった。戦前までの日本がその最たるものとし、そこに警鐘を鳴らしたのが本書である。1959年に初版が発刊された古典であるが、歴史…

書籍三題噺 ~本と本は次元の高いコンテキストでつながっている~

『人生を変える心理スキル99』(岸正龍著、きこ書房刊)を読み終えた。 カバーイラストの軽さとは相まって、400ページ以上にわたって、フロイトやユングなどの古典的な心理学から行動経済学までを広く取り扱い、実用的にすっきりしっかりとまとめられている…

読書会の記録:職人たちが織りなす壮大な職業論を考察 ~『五重塔』(幸田露伴 著)~

明治の作品ということもあり、また露伴の独特な文体もあり、いまとはかけ離れた言い回しの日本語や時代がかった思想から、わかりづらい、という意見もあったが、各人からさまざまな見解が飛び出し、興味に尽きなかった。一つの本でも、読む人にとってさまざ…

世の「救いのなさ」を徹底して描いた奇書:『チリの地震』(ハインリヒ・フォン・クライスト 著、種村季弘 訳)

恐ろしくまた美しい世界観この本の文庫版が河出書房新社から出ているが、読んだのはオリジナルの王国社版。クライストは1777~1811年までドイツで活動した作家だから、ちょうどゲーテが28歳あたりから61歳だったころまで生きていたことになる。クライストの…

ポーランド人の複雑なメンタリティが沈潜した傑作SF:『エデン』(スタニスワフ・レム著、小原雅俊訳)

ポーランド人の複雑なメンタリティが沈潜した傑作SF作品。1959年の作品であるというのに、すでに放射能汚染にまで言及されている。さすがコペルニクスとキュリー夫人を排出した科学の国ポーランド。キュリー夫人にいたっては被爆で命を落としているぐらいだ…

鎌倉仏教が教える、企業経営に流れる宗教性と精神性:『立正安国論』(日蓮 著)

会社勤めのころからビジネス書や経営者向けの本をたびたび読んできたが、実際独立するにおよんで、この本ほどいまの心に響くものがなかったことを告白する。 『立正安国論』とは日蓮が鎌倉幕府に提出した檄文である。そして日蓮とは日蓮宗の宗祖で、宗教家で…

読書会の記録:近代科学の基盤を作った天才科学者の隙のない自伝:『方法序説』(デカルト著)

アフォリズムも満載。天才が編み出した学問の軌跡デカルトといえば「われ思うゆえわれあり」の、当時としては画期的な、精神と肉体を分離して人間を考えた哲学者、近代科学の基盤を作った科学者、代数幾何を確立した数学者である。ダヴィンチやゲーテなどに…

起業の「身体性」を示したプロフェッショナルのドキュメント:『新しい一歩を踏み出そう!』(守屋実著、ダイヤモンド社刊)(後編)

(前編から続く) 事業がうまくいかなかったときにも関係を継続できる「人」に投資「守屋実さんを囲む会」では、本文外部のエピソードを著者自身からたくさん聞くことができた。たった一滴の血液から10秒で検査ができるサービスをケアプロで提供した社会的意…

起業の「身体性」を示したプロフェッショナルのドキュメント:『新しい一歩を踏み出そう!』(守屋実著、ダイヤモンド社刊)(前編)

6月某日都内にて、新刊『新しい一歩を踏み出そう!』(ダイヤモンド社刊)を持ち寄り、著者の「守屋実さんを囲む会」を開催した。今回は、書籍からの引用とそのときに出た言葉をベースに、本書を紹介する。 まず、著者の守屋実氏は、巻末の自己紹介文の冒頭…

「言葉とはなにか」を鋭くえぐった名著:『グラマトロジーについて』(ジャック・デリダ著)(後編)

(前編から続く) 「禅」に馴染みのある日本人には比較的理解しやすいかもしれない「言葉には意味がない」を西洋の哲学者がこのように解明し、事細かに解き明かそうとするのだが、日本人にとってはおなじみの「禅」がすでに説明している。道元は『正法眼蔵』…

「言葉とはなにか」を鋭くえぐった名著:『グラマトロジーについて』(ジャック・デリダ著)(前編)

マルクスと言えば『資本論』、カントと言えば『純粋理性批判』、デリダと言えば『グラマトロジーについて』というぐらいの大作、代表作。この本を読むために、フッサールの『現象学の理念』とハイデッガーの『存在と時間』を読んでいた。フッサールとハイデ…

映画化もされた情熱編集娯楽劇は面白い:『船を編む』(三浦しをん著)

辞書づくりに人生を賭ける編集者やその周辺の人間を描いた感動の物語。実に軽快な筆づかい。編集者の仕事に関しては取材を重ねたはず。編集者に関する描写の本質においてはリアリティが高い。 私が手がけているIT書籍の編集は、次元は違えど辞書づくりに近く…

壮大なテーマと詳細なデータで読者を「次世代の大使」へと導く、リーダー必読の啓蒙書:『海の歴史』(ジャック・アタリ著)(後編)

(前編から続く) 後半は、海とともに人間がいかに生き残り、いかに成長するのかを提言する。歴史や政治経済は組織のトップダウンで決めるものではなく、ボトムアップで個人が作り上げていくという姿勢を、著者は一貫して崩さない。そのうえで、一人一人が人…

壮大なテーマと詳細なデータで読者を「次世代の大使」へと導く、リーダー必読の啓蒙書:『海の歴史』(ジャック・アタリ著)(前編)

「海」をテーマに、人間の未来は海が担っているという事実を、詳細なデータで読者に解き明かしながら、人間はいかにして海と生きるべきかを指南する。壮大なスケールを持つ読み物であり、啓蒙書である。 人類史と世界史、環境、物流、経済から海を理解するま…

読書会の記録:伝記文学から人生の「陰と陽」を考えた『人類の星の時間』(シュテファン・ツヴァイク著)

伝記文学の古典中の古典今回は趣向を変えて、ドイツ語圏から伝記文学を取り上げました。シュテファン・ツヴァイクといえばオーストリアの大作家で、『マリー・アントワネット』や『ジョセフ・フーシェ』はいまでも文庫で手に入り、気軽に読むことができる。…

趣味から美学、崇高、自然まで、スリリングで難解な論考を展開:『判断力批判』(上・下)(カント 著)

カントを知るには『純粋理性批判』と『実践理性批判』という巨大な山脈があるが、その最後に控えているのが『判断力批判』である。カントの「批判シリーズ」の最終作で、遺作。 まずカントの言葉で誤解しやすいのは、「批判」の語意だ。日本語で言う批判とは…

読書会の記録:AIやロボットなど「生命を模倣したもの」が多い現代が見えてくるフィールドワーク:『忘れられた日本人』(岩波文庫、宮本常一著)

宮本常一氏が長年のフィールドワークで獲得した「忘れられた日本人像」をまとめあげた渾身のルポタージュ。 1960年刊。半世紀以上前ですでに「忘れられた日本人」であるから、取材される人物は幕末や明治初期を生きた古い人物たちだ。そのころ日本人は現在と…

反骨大河文学を通してインドネシアを深く理解:『人間の大地』(上・下)(プラムディヤ・アナンタトゥール著)

東南アジアでは日本から最も遠く、また、国土面積が最も大きな国インドネシアは、ビジネスや観光やで日本とは盛んな交流関係にある。文学の楽しみとは、その場にいながら文字情報だけで、脳内で時間や空間を移動できることだ。今回はインドネシア現代文学の…