本とITを研究する

「本とITを研究する会」のブログです。古今東西の本を読み、勉強会などでの学びを通し、本とITと私たちの未来を考えていきます。

ブックレビュー

古今東西さまざまな読んだ本の書評です。

読書会の記録:伝記文学から人生の「陰と陽」を考えた『人類の星の時間』(シュテファン・ツヴァイク著)

伝記文学の古典中の古典今回は趣向を変えて、ドイツ語圏から伝記文学を取り上げました。シュテファン・ツヴァイクといえばオーストリアの大作家で、『マリー・アントワネット』や『ジョセフ・フーシェ』はいまでも文庫で手に入り、気軽に読むことができる。…

趣味から美学、崇高、自然まで、スリリングで難解な論考を展開:『判断力批判』(上・下)(カント 著)

カントを知るには『純粋理性批判』と『実践理性批判』という巨大な山脈があるが、その最後に控えているのが『判断力批判』である。カントの「批判シリーズ」の最終作で、遺作。 まずカントの言葉で誤解しやすいのは、「批判」の語意だ。日本語で言う批判とは…

読書会の記録:AIやロボットなど「生命を模倣したもの」が多い現代が見えてくるフィールドワーク:『忘れられた日本人』(岩波文庫、宮本常一著)

宮本常一氏が長年のフィールドワークで獲得した「忘れられた日本人像」をまとめあげた渾身のルポタージュ。 1960年刊。半世紀以上前ですでに「忘れられた日本人」であるから、取材される人物は幕末や明治初期を生きた古い人物たちだ。そのころ日本人は現在と…

反骨大河文学を通してインドネシアを深く理解:『人間の大地』(上・下)(プラムディヤ・アナンタトゥール著)

東南アジアでは日本から最も遠く、また、国土面積が最も大きな国インドネシアは、ビジネスや観光やで日本とは盛んな交流関係にある。文学の楽しみとは、その場にいながら文字情報だけで、脳内で時間や空間を移動できることだ。今回はインドネシア現代文学の…

Springフレームワークを巡る16年

「Spring Boot2」はSpringフレームワークの一部として基幹系システムでよく使われている定番Javaフレームワークである。私の会社で制作をお手伝いした、2018年11月発刊の『現場至上主義 Spring Boot2徹底活用』(韓国版の発刊も決定)は、Spring Boot2とその…

『コンビニ人間』を読んで考えた「自分らしさ」を追求する手段としての「教養」と「感性」

このごろよく使われるキーワードに「自分らしさ」がある。2016年に第155回芥川賞を受賞し、その後文庫化され累計100万部を突破したベストセラー『コンビニ人間』。この作品を読んだ人は本ブログ読者にも多いはずだ。 主人公は30代半ばの独身アルバイト女性。…

読書会の記録:つかみどころのない不安がうず巻く革命前ロシアの群像劇:『かもめ』(チェーホフ著)

某月某日、第24回を数えることになった飯田橋読書会。今回は初挑戦、ロシア文学を取り上げることになった。 チェーホフの戯曲には「中心がない」日本人に愛読者が多いロシア文学ではあるが、しばしば「人名」が敬遠される。たとえばイワンやワーニャ、イワン…

読書会の記録:壮大な雑学がちりばめられたベストセラー人類史:『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド著)

某月某日、文化の町飯田橋で読書会がはじまってはや3年。15回目となった。前回はイスラームをテーマに2冊の書籍を取り上げたが(『イスラーム文化-その根柢にあるもの』(井筒俊彦著)/『イスラーム国の衝撃』(池内恵著))、2冊を取り上げると議論が拡散…

澁澤龍彦の遺作、海洋伝奇小説:『高丘親王航海記』(澁澤龍彦著)

澁澤龍彦の遺作小説。同氏が亡くなられたのが私がちょうど大学のときで、いまでもはっきりと覚えている。 同級生には、彼の作品のどこが面白いのだろうかという懐疑的なものが多く、私自身同時代に何冊か読んでいたが、さほど印象は強くなかった。彼の死語数…

日本人の心のDNAを解き明かす古典評論:『本居宣長』(小林秀雄 著)

ヴァレリーやベルグソン、ユング、モーツアルト、志賀直哉など、好きなものを徹底追求し仕事と成果にした小林秀雄が最晩年の11年間を費やした対象が、国学者、本居宣長である。 本居宣長に関するひとつの答えは、この人は宗教家であったということ。小林秀雄…

共同体をつなぐナショナルヒストリーとはなにか?:『台湾海峡 一九四九』(龍應台 著)/『想像の共同体』(ベネジクト・アンダーソン 著)

『台湾海峡 一九四九』は、台湾人の心の琴線に触れる迫害や闘争の歴史が、物語やルポ、インタビュー、ときには母が息子に語りかける形式で描かれ、美しい文体と技巧に富んだ構成が読者の心をつかむ作品。 台湾、香港での驚異的ベストセラーが意味するもの「…

市場に疑問を投げかける、日本の出版衰退史を描いた文学エッセイ ~『日本文学盛衰史 戦後文学篇』(講談社刊、高橋源一郎著)~

『日本文学盛衰史』の続編という位置づけで戦後現代文学をメインテーマに据えた作品。作者の高橋源一郎氏の絶妙なレトリックの中、彼の文学に対する愛、出版に対する情、近代に対する憧憬が立像のように浮かび上がってくる。 言葉から「抵抗」が失われた現代…

顧客課題の解決を巡るイノベーションの物語:『陸王』(池井戸潤 著)

2016年のベストセラーで、2017年にはテレビドラマにもなった作品。書名を見て最初はオートバイの開発物語かと思いきや、実は老舗足袋メーカーがアスリート向けのランニングシューズを開発するというイノベーションの物語だった。600ページはある大著。前半の…

ジャニーズの芸能人が執筆した現代版『ウイリアム・ウィルソン』:『ピンクとグレー』(加藤シゲアキ 著)

この作品は、「芸能人だから……」という先入観を完全に捨てさせてくれた。文芸作品としての価値が高い。 いままで、文壇や版元が、芸能人の出版界への流入を意図的にシャットアウトしていたのではなかろうか。つまり「こっちの領域には来ないでくれ」と。 以…

「言文一致」を初導入した明治のサラリーマン文学 ~『浮雲』 二葉亭四迷~

明治20年に発表された『浮雲』を著した二葉亭四迷の名前は、「言文一致小説」の創設者として文学史に残されている。 いまでは小説で会話体が出てくるのは当たり前だが、昔は口語文語というのがあって、明確に使い分けられていた。 二葉亭四迷はそうした境界…

「人間を手段にしてはいけない」を説く古典名著:『人倫の形而上学の基礎づけ』(エマニュエル・カント著)

これはいわば、『プロレゴーメナ』の実装編である。訳者による前書きで「『人倫の形而上学の基礎づけ』を先に読んだ方がよい」とされている通り、その読み方をお勧めする。 『人倫の形而上学の基礎づけ』は豊富な具体例が添えられ、一つの事柄がいろいろな方…

カントの思想探検に最適な名著:『プロレゴーメナ』(エマニュエル・カント)

強烈に素晴らしい書物と巡り会った。『プロレゴーメナ』は、カントが自ら語っているが、代表作『純粋理性批判』の手引き書のようなものである。200ページちょっとで読め、かつ、内容密度が大変に濃く、読み応えがある。 形而上学の入門書としても読める形而…

時代を操る毒にも薬にもなる「神話」という魔術:『現代議会主義の精神史的状況』(カール・シュミット著)

某月某日、読書会初の試みとして、政治学を取り上げた。カール・シュミットといえば名著『陸と海と』があり、このイメージから、本文が100ページほどでAmazonにも在庫があったので、『現代議会主義の精神史的状況』が取りあげられることになった。読書会での…

恐怖政治をもたらした自由と平等の革命:『フランス革命』(上・下)(アルベール・ソブール著、岩波新書)

人間に自由をもたらした革命。自由・平等・博愛の革命。もしくは、恐怖政治。マリー・アントワネットという無意識な人が好き勝手やっていた。ルイ十六世がダメだった。実はフリーメイソンの革命だった、など……。 フランス革命はいろいろな読まれ方があるが、…

「非宗教的な精神性」が組織と人類を豊かにする:『ティール組織 ~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~』(フレデリック・ラルー著)

英治出版の『ティール組織』は600ページ近い大著でありながら発刊早々で異例の3万部を突破したという、近年まれに見る話題のビジネス書だ。事業のイノベーションに参考になる例がありそうで気になるので、早速買って読んでみた。 まず、巻末の「本書に寄せて…

作家を育てた特殊な父子関係を手紙から読む(4) ~フランツ・カフカ著『父への手紙』 新潮社『決定版カフカ全集3』より~

本人にとっての最大の問題、結婚に関する記述が続く。 次では、父・自分・結婚の関係を、「牢獄」という言葉で比喩している。 ----- 譬えてみれば、牢獄につながれているのに、逃亡の意図ばかりか--これだけならもしかすると達成できるかもしれませんが-…

作家を育てた特殊な父子関係を手紙から読む(3) ~フランツ・カフカ著『父への手紙』 新潮社『決定版カフカ全集3』より~

前回からの続き。 職業と学問に関しては期待を持つべきではないという将来への予見を持っていたが、結婚の意義と可能性に関してはそうでなかった。なんとかなると思っていたから、カフカはたびたび結婚を試みた(が、残念ながらすべて婚約破棄の結果になる)…

作家を育てた特殊な父子関係を手紙から読む(2) ~フランツ・カフカ著『父への手紙』 新潮社『決定版カフカ全集3』より~

敏感な子供心は大人の矛盾をキャッチする。 しかしそれを言葉で口にすることはできない。 カフカの精神的プレッシャーは高まる。 ----- 「口答えはやめろ!」という嚇しと、そのさいに振りあげた手とは、すでに幼児期から付きまとっていました。......しかし…

作家を育てた特殊な父子関係を手紙から読む(1) ~フランツ・カフカ著『父への手紙』 新潮社『決定版カフカ全集3』より~

西洋文化を見渡すと、ツルゲーネフの『父と子』やモーツアルトの手紙、あるいはフロイトの精神分析においても、あちらこちらで「私-対-父」という構図が目に入る。 カフカという作家はその典型というか、父との関係と作家としてのカフカの精神構造が濃厚に…

西洋にそびえる巨大思想山脈に取り組んでみた:『現象学の理念』(フッサール著)/『存在と時間』 (ハイデッガー著)

会社の有休消化の1ヶ月を費やし、退職後初の読書ということで、『現象学の理念』(エドムント・フッサール著)と『存在と時間』(マルティン・ハイデッガー著)を読み終えた。おのおの、今回読んだのが3度目だが、ようやく1割は理解できたか、という感じ。以…

「日本人が言葉を失った瞬間」を教える本:『ニッポンの思想』(佐々木敦 著、講談社現代新書)

『ニッポンの思想』では、1980年に台頭したニューアカデミズムについて多くの紙幅が割かれている。私を含めてこの年代を生きてきた人たちにとって浅田彰の『構造と力』(1983年)、『逃走論』(1984年)や中沢新一の『チベットのモーツアルト』(1983年)と…

若者が繰り広げる涙と笑いの群像劇:『メゾン刻の湯』(小野美由紀著)

歌舞伎町ブックセンターの現役ホストの書店員さんからのお勧めで、この本を買ってきた。小野美由紀という若い作家さんは非常に才能がある。取材力もあり、よく書いている。日本語の比喩表現や文学的な描写も立派だった。結論から言うと、面白かった。 これは…

「東欧のエクソシスト」は意外に面白い:『尼僧ヨアンナ』(ヤロスワフ・イヴァシュケヴィッチ著)

今回は、ワイダ晩年の映画『菖蒲』の原作も書いたポーランド文学者、ヤロスワフ・イヴァシュケヴィッチの作品を取り上げる。 『尼僧ヨアンナ』と聞くと、1962年のイエジー・カヴァレロヴィッチの作品を思い出す映画ファンも少なくないだろう。東欧文学独特の…

コミュニティと共産主義、そして美しい造本は、多彩なエクスペリエンスを与える:『ヴォルプスヴェーデふたたび』(種村季弘著)

1980年に刊行されたこの本、楽しみながら味読した。19世紀後半にドイツに作られた芸術家コミュニティ、ヴォルプスヴェーデをめぐるエッセイ集。 現在でもドイツはブレーメン郊外に観光地として存在するヴォルプスヴェーデ。詩人リルケが一躍有名にした村であ…

日本をアジア史から再確認し、未来を考える 『一外交官の見た明治維新』(上・下)(アーネスト・サトウ 著)

通訳士として、親善の仲介役として、日本の政策に進言する参謀として、幕末の日本に配属された若きイギリス人青年外交官の目から見た、幕末から明治初期にかけての日本の姿がリアルに描かれた名著。 この本を支える2つのリアリティこの本のリアリティは2つの…